【春の歌】吹きくれば 源時綱
梅ノ花遠ク薫ルといふことをよめる
吹きくれば
香をなつかしみ
梅(むめ)の花(はな)
ちらさぬほどの
春風もがな
源時綱(ときつな)
「詞花和歌集」に収められている。
この歌集は仁平元年(1151)、崇徳院の院宣により編纂された。
崇徳院は保元の乱に敗れ、讃岐に遷りになり、かの地で崩御された。
撰者は藤原顕輔である。彼は、950年ごろから詞花集編纂までのおよそ200年間の和歌から選んで歌集を編んだ。
勅撰集第一番目の古今集には、掛詞や縁語など技巧が凝らされた歌がたくさん入っているが、詞花集には素直な歌ぶりが増えている。
この歌もそんなに複雑なものではない。
理屈っぽい頭でっかちなところはあるかもしれないが、作者の気持ちは素直に伝わってくる。
歌の意味は、こんな感じだ。
風が吹いてくると
風が運んでくる
梅の香りが慕われる
(風は吹いてほしい
けれど風が吹くと梅が散ってしまう。だから)
花を散らさないほどの
春風が吹いたらよいのに
古今集にこんな歌がある。
霞たつ
春の山辺は
遠けれど
吹きくる風は
花の香ぞする
在原元方
わたしたちは春風に憧れる。
年が明けてしばらくたち、花が咲き始めるころ、冬の厳しい空気ではなくて、懐かしい空気が吹いてくる。
春風。
春風がからだに当たると、心が弾ける。
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