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春の和歌 「ひとはいさ 心もしらず」  古今和歌集 紀貫之


[訳:蓬田修一]

初瀬(はつせ)にまうづるごとに宿(やど)りける人の家に、ひさしく宿らで、程(ほど)へてのちにいたりければ、かの家のあるじ、「かくさだかになむやどりはある」と、言ひいだして侍りければ、そこにたてりける梅の花を折りてよめる

ひとはいさ 心もしらず ふるさとは
花ぞ昔の 香ににほひける


古今和歌集 つらゆき

[現代語訳]

初瀬(はつせ)の長谷寺にお参りするたびに宿にしていた人の家があったのだが、長い間ご無沙汰してしまい、しばらくたってから訪れてみると、その家の主人は「このように家はちゃんとあります」と言ってきましたので、そこに植えてあった梅の花の枝を折って詠んだ歌

(そうおっしゃる)あなたの こころは、さあどうでしょう、分かりませんけれど なじみの家(=あたなの家)では
花は昔と変わらず 同じ香りで咲いています(私を歓迎しています)

古今和歌集  紀貫之(きのつらゆき)

[ひとこと解説]

「百人一首」に採られている有名な歌なので、知っている人も多いと思う。
一句目の「ひと」は、家の主人のこと。「いさ」は、さあ、どうでしょう、分かりませんが、という意味。

この歌は、宿の主人の「このように家はちゃんとあります」という皮肉に対して、機知でもってこたえたと言われている。
では、この宿の主人は男なのだろうか、女なのだろうか。男と考えることもできるが、私は女と考えたい。

貫之は初瀬に赴くときは、いつも訪れる女がいた。ところが、ご無沙汰してしまった。長い間来なかったところに、来たものだから「かくさだかになむやどりはある」(このように宿はちゃんとありますよ)と皮肉めいて言ったのである。

それに対して、貫之は「さあ、どうでしょう。あなたの気持ちは分からないけれども、梅の花は昔と同じに私を歓迎していますよ」と返している。
宿の主人は女性と考えたほうが歌の趣があると思うのだが、いかがであろうか。




Posted on 2015-02-12 | Category : コラム, 和歌とともに | | Comments Closed
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