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春の和歌 春の夜(よ)の 闇(やみ)はあやなし 凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)


春の夜(よ)梅の花をよめる

春の夜(よ)の 闇(やみ)はあやなし 
梅の花 色こそ見えね 香やはかくるる 

凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)

春の夜、梅の花を詠んだ歌

歌の意味は

春の夜の闇というのは闇の役をなさないものだ
(闇に咲く)梅の花は見えこそしないが 香りは隠れようもない

という感じです。

二句目の「あやなし」は、理屈が立たない、というような意味。闇に咲く梅の花は、暗くて姿こそ見えないが、その香りから咲いているのは隠しようもないと詠っています。

五句目の「やは」は反語。直訳すれば、隠れるだろうか、いや隠れはしない、という意味。反語というのは強調。ここでは「隠れはしない」ことを強調しています。

暗香浮動(あんこうふどう)という観念
梅の花の美しさを詠んでいますが、「色」ではなくて、「香」のほうを讃えているのが、この歌の味わいどころですね。

漢詩で「暗香浮動(あんこうふどう)」という言葉があります。暗闇の中、花の香りがかすかに漂ってくることです。

躬恒のよりも後の時代ですけれど、中国・宋の詩人、林逋(りんぽ)の「山園小梅」という詩の一節にこんな言葉があります。

疎影横斜 水清淺(そえんおうしゃ みずせいせん)
暗香浮動 月黄昏(あんこうふどう つきこうこん)

意味は、
梅のまばらな枝は、清く透きとおった水面に影を落とし
月影おぼろな黄昏どき、梅の香りがどこからともなくほのかに漂う

平安前期を代表する宮廷歌人
作者、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)は、平安時代前期の人。地方官を歴任し、官位は六位。

和歌の第一人者で、紀貫之、紀友則、壬生忠岑とともに「古今和歌集」の撰者。

自ら撰んだ「古今和歌集」に58首が入集。勅撰和歌集に合計194首入集しています。家集に「躬恒集」があります。

「香り」や「匂い」に敏感な王朝人
平安貴族たちは「香り」や「匂い」に対して、特別な思いを持っていたようです。

衣服に香を焚きしめていたのも、「香り」や「匂い」に対する愛着の表れなのでしょう。

もっとも当時は、今のような入浴や洗濯の習慣がないので、不快な臭いを消す目的もあったでしょう。

「源氏物語」にも重要な登場人物として薫大将(かおるのたいしょう)と匂宮(におうのみや)がいます。

ふたりとも、かおり、におい、に直結した名付けは、当時の貴族たちの「香り」に対する関心を想像するうえで興味深いです。
(M&C蓬田)




Posted on 2015-02-12 | Category : コラム, 和歌とともに | | Comments Closed
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