【春の歌】こほりゐし 大蔵卿匡房(まさふさ)
堀河院御時、百首歌たてまつり侍りけるに、春立つ心をよめる
こほりゐし
志賀の唐崎(からさき)
うちとけて
さゞ波よする
春風ぞふく
大蔵卿匡房(まさふさ)たまさかに
歌の意味は、素直に読み取れる。
氷が張りつめていた
志賀の唐崎は
すっかり氷が解けて
さざ波を寄せる
春風が吹いている
匡房は詞書にあるように「春立つ心」(立春を迎えた気持ち)を詠んだ。
「志賀」は大津市。
「春風が氷を解かす」という言い回しは、儒教の経典ともいうべき書物のひとつ「礼記」からの引用。
礼記にこうある。
孟春の月、・・・東風氷を解く
「春風が氷を解かす」とは、実際には風が吹いて氷が解けるわけではないが、季節が暖かくなってきたこと、春が近づいたよろこびが感じられて、なかなかによい文学的表現である。
この歌は「詞花和歌集」所収、しかも歌集冒頭の歌である。
寒さを打ち破る春の歌から始めた編集センスに感心した。
「詞花和歌集」は仁平元年(1151)、崇徳院の院宣により編纂された。
崇徳院は保元の乱に敗れ、讃岐に遷りになり、かの地で崩御された。
歌集の撰者は藤原顕輔である。彼は、950年ごろから詞花集編纂までのおよそ200年間から和歌を選んで歌集を編んだ。
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