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初午(はつうま)のお祭り がまの油売りに気持ちよく騙される



[text:蓬田修一]

初午(はつうま)というのは、節分以降、一番初めての午(うま)の日のこと。初午というと、私は印象深い子どものときの思い出があります。

私は栃木県の出身ですが、ある年、となりまちの神社の初午のお祭りにひとりで行きました。
たぶん小学4、5年生だったと思います。

境内に大きな人だかりができていたので、近寄ってみました。
すると、ひとりの細身のおじさんが日本刀を片手にパフォーマンスをしています。

少し見ていたら、おじさんはA4くらいの大きさの紙を1枚取り出して、「1枚が2枚、2枚が4枚、4枚が8枚・・・」と半分ずつ折っていきます。
大分小さく折りたたんだところで、持っていた日本刀でスパッと切って、花吹雪のように舞い上げて散らしました。
「凄い切れ味の日本刀だ」
私はすっかり興奮してしまい、食い入るようにおじさんのパフォーマンスを見続けます。

すると、おじさんは上着の腕をまくり上げ、何と今、折りたたんだ紙を切ったばかりの日本刀の刃の部分を腕に垂直に立て、10センチほど下に向かってこすりつけました。
私は自分の腕が切られているような感覚がして、身震いしました。

おじさんは刀の刃を腕から離します。すると今刃をあてた腕の肉がまっすぐに切れて、血を出しています。
おじさんは血が出ている腕を高々と上げ、聴衆に向かって一回し見せました。
「確かに切れて血が出ている」
私は自分の目で切れているのを確認しました。

おじさんはみんなに見せ終わると、テーブルから軟膏を取り出して、これは秘薬であるようなことを言います。
そして軟膏を切り口に塗りつけてタオルでぬぐうと、切り口は完全にふさがり、傷はきれいに治っていました。
「こんな薬があるのか」
びっくり仰天です。そうしたらおじさんはこの軟膏は大変に高いものだが、きょうは特別に安く売ると言います。

売り始めると、みんな我も我もと買い求めます。
その空気に飲み込まれるようにして、私も買いました。
小学生の小遣いで買えたのですから、値段は数百円だったのだと思います。

家に帰って、少々得意げに母に初午の神社の境内で見たことを話し、いい薬を買ってきたと言いました。
すると母はすかざず「それはがまの油売りだ」とだけ言います。

その言い方から、どうも良くない買い物をしたことが分かりました。
「がまの油売り? 聞いたことがあるぞ。これがそうか!」

しかし、騙されて買ったのに、不思議と満足感はありました。
もう何十年も、がまの油売りは見ていません。


Posted on 2015-02-08 | Category : しあわせマーケティング, コラム | | Comments Closed
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