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【悲しみの歌】つひにゆく 在原業平


病して弱くなりにけるときよめる

つひにゆく
道とはかねて
聞きしかど
昨日今日とは
思はざりしを

業平朝臣

古今和歌集、巻十六哀傷歌部に所収の歌。


病気になりからだが弱ってきたときに詠んだ歌

最後には行く
道であると
前から聞いてはいたが
そのときがついに来たとは
思いもよらなかった

詞書にある「身まかる」は亡くなる。

「つひにゆく道」は死出の道。

「昨日今日」は差し迫ったとき。

ついに自分は死んでゆくのだという、悲しい歌であるが、同時に、「昨日今日とは思はざりけり」と言っているのが、わたしにはとぼけているように感じて、死ぬ間際になって冗談を言って自分を慰めているようで面白い。

この歌は「伊勢物語」の最終段に載っている。

誰の歌か忘れたが、同じように死ぬ間際にとぼけたことを詠っている歌があったような気がするが、何だっただろう。

面白き
こともなき世を
面白く

高杉晋作のこの歌を、わたしはいま思い起こしたが、この歌だろうか。

違うような気がするが、何の歌かいまは思い出せない。

古今和歌集について

「古今和歌集」は言わずと知れた勅撰第一歌集である。

四季の歌、恋の歌を中心に、平安朝初期からおよそ100年間の名歌1100首を、時間の経過や歌の照応関係に留意しながら、20巻に整然と配列する。

日本人の美意識を決定づけた和歌集である。

醍醐天皇はときの有力歌人四名をお選びになり、勅命をくだして歌集編纂にあたらせた。

ただし、これら撰者たちは万葉集を勅撰第一歌集とみなしていた。

撰者たちは編纂を進め第一段階の歌集ができたとき、それを「続万葉集」と名付けていたことから分かる。

その後も編纂作業を進めて、延喜五年に完成させ、名称を「古今和歌集」とした。

古(いにしえ)と今(いま)の歌を集めたのである。

その後、古今集は我が国筆頭の歌集として、今に至るまで1000年以上にわたって、受け継がれてきたのである。

世界を見渡して、1000年以上前の書物を、これほど多くの国民がいまでも親しんでいる国はない。

世界に誇る我が国の文化遺産であり伝統である。




Posted on 2024-04-17 | Category : コラム, 和歌とともに | | Comments Closed
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