【悲しみの歌】泣く涙 小野篁
いもうとの身まかりけりにける時よみける
泣く涙
雨と降らなむ
渡り川
水まさりなば
帰りくるがに
小野篁朝臣
古今和歌集、巻十六哀傷歌部に所収の歌。
わたしはこの歌をこんな風に現代語訳した。
妹が亡くなったときに詠んだ歌
泣いて流すわたしの涙
雨となって降っておくれ
三途の川の水嵩が増えれば
妹は渡れずに
こっちに帰ってこられるから
詞書にある「身まかる」は亡くなる。
雨との「と」は、雨となって。
「なむ」は、~してほしい。他者に対する願望を表す。
「渡り川」は三途の川。
「がに」は、理由を表す。
歌の説明は不要であろう。
古今和歌集について
「古今和歌集」は言わずと知れた勅撰第一歌集である。
四季の歌、恋の歌を中心に、平安朝初期からおよそ100年間の名歌1100首を、時間の経過や歌の照応関係に留意しながら、20巻に整然と配列する。
日本人の美意識を決定づけた和歌集である。
醍醐天皇はときの有力歌人四名をお選びになり、勅命をくだして歌集編纂にあたらせた。
ただし、これら撰者たちは万葉集を勅撰第一歌集とみなしていた。
撰者たちは編纂を進め第一段階の歌集ができたとき、それを「続万葉集」と名付けていたことから分かる。
その後も編纂作業を進めて、延喜五年に完成させ、名称を「古今和歌集」とした。
古(いにしえ)と今(いま)の歌を集めたのである。
その後、古今集は我が国筆頭の歌集として、今に至るまで1000年以上にわたって、受け継がれてきたのである。
世界を見渡して、1000年以上前の書物を、これほど多くの国民がいまでも親しんでいる国はない。
世界に誇る我が国の文化遺産であり伝統である。
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