【春の歌】桜花 紀貫之
桜のごと、とく散るものはなし、と人のいひければよめる
桜花
とく散りぬとも
おもほえず
人の心ぞ
風も吹きあへぬ
紀貫之
古今和歌集、春歌下に所収の歌。
人の心は移ろいやすいことを詠む。
桜の花は
すぐに散ってしまうとは
思えない
人の心のほうが
風が行き過ぎる間もなく
変わってしまうのだから
「吹きあへぬ」の「あふ」は、~に耐えられるという意味。
「風も吹きあへぬ」で、風が吹くことができない、すなわち、それほどの短い時間で人の心は変わってしまうことを詠っている。
花と風を引き合いにだして、人の心の移ろいやすさを詠むセンスが秀逸である。
古今和歌集について
「古今和歌集」は言わずと知れた勅撰第一歌集である。
醍醐天皇はときの有力歌人四名をお選びになり、勅命をくだして歌集編纂にあたらせた。
ただし、これら撰者たちは万葉集を勅撰第一歌集とみなしていた。
撰者たちは編纂を進め第一段階の歌集ができたとき、それを「続万葉集」と名付けていたことから分かる。
その後も編纂作業を進めて、延喜五年に完成させ、名称を「古今和歌集」とした。
古(いにしえ)と今(いま)の歌を集めたのである。
その後、古今集は我が国筆頭の歌集として、今に至るまで1000年以上にわたって、受け継がれてきたのである。
世界を見渡して、1000年以上前の書物を、これほど多くの国民がいまでも親しんでいる国はない。
世界に誇る我が国の文化遺産であり伝統である。
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