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【春の歌】思ふどち 素性


春の歌とてよめる

思ふどち
春の山辺に
うちむれて
そこともいはぬ
旅寝してしか

素性

古今和歌集、春歌下に所収の歌である。

「思ふどち」は、気のあった仲間。

「そこ」は、山のなかにある友達の別荘のような泊り先。

「てしか」は、したいものだ、という希望を表す。

歌の意味を確認しよう。


仲が良いもの同士
春の山辺に集まって
どこに泊まるか
あらかじめ決めない旅を
してみたいものだ

作者の素性は、大和国に住んだ法師。
生年は未詳。延喜九年(909)までは生存が確認されている。

和歌の名手で、宇多上皇に歌を献じたこともある。
勅撰集に、撰者以外でもっとも多くの歌が入集している。

この歌のように、気の合う友人同士で気ままな旅をしてみたい。
最高の贅沢である。

古今集などの古い歌は、言葉の言い回しや旅枕など、いまの私たちにはなじみのない表現や習慣が詠われていることが多くて、意味をとるのに苦労する歌も多いなか、この歌のようにダイレクトに共感できる歌に出会えるのも、古い歌を鑑賞する楽しみである。

古今和歌集について

「古今和歌集」は言わずと知れた勅撰第一歌集である。

醍醐天皇はときの有力歌人四名をお選びになり、勅命をくだして歌集編纂にあたらせた。

ただし、これら撰者たちは万葉集を勅撰第一歌集とみなしていた。

撰者たちは編纂を進め第一段階の歌集ができたとき、それを「続万葉集」と名付けていたことから分かる。

その後も編纂作業を進めて、延喜五年に完成させ、名称を「古今和歌集」とした。

古(いにしえ)と今(いま)の歌を集めたのである。

その後、古今集は我が国筆頭の歌集として、今に至るまで1000年以上にわたって、受け継がれてきたのである。

世界を見渡して、1000年以上前の書物を、これほど多くの国民がいまでも親しんでいる国はない。

世界に誇る我が国の文化遺産であり伝統である。




Posted on 2024-04-13 | Category : コラム, 和歌とともに | | Comments Closed
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