夏の和歌 彼岸(かのきし)に 何(なに)をもとむる 斎藤茂吉
こんにちは
宮川です。
今回も、夏の歌を鑑賞して参りましょう!
彼岸(かのきし)に 何(なに)をもとむる
よひ闇(やみ)の 最上川(もがみがわ)のうへ(え)の ひとつ蛍(ほたる)は
作者は、明治から昭和の歌人、斎藤茂吉。伊藤左千夫門下であり、大正から昭和前期にかけてのアララギの中心人物です。
彼は精神科医でもあり、病院の院長も務めました。
長男は精神科医で随筆家の「モタさん」こと斎藤茂太。
次男は精神科医・随筆家・小説家の「どくとるマンボウ」こと北杜夫。
そして、北杜夫の娘に随筆家の斎藤由香がいます。文学に秀でた家系なのでしょうね。
歌の意味は、
夕闇の最上川の流れの上を、一匹の蛍が向こう岸に向かって飛んでいく
何を求めて飛んでいくのだろうか
「彼岸」とは、川の向こう岸のことです。
仏教では仏道に精進して煩悩を脱し、涅槃に達した境地をさします。
「よひ闇」とは、月がまだ出ない宵の間の暗やみ。また、その時分のことです。
「最上川」は、山形県を流れる川です。
この歌は、終戦の翌年、疎開先で詠まれたものです。
彼岸に向かっていく蛍に、自分自身の姿を重ねて読んだのではといわれています。
戦争で街は破壊され、戦いに出た人も、残っていた普通の人もたくさん死んで、すべての人は自分の死を身近に感じていたことでしょう。
日が暮れたばかりの宵闇に、大きな最上川に立ったら、蛍がはかなげな光をゆらめかせながら、向こう岸に飛んでいく。幻想的ですね。
川のこちら側が生きている私たちの世界の「この世」、川の向こう側の「あの世」は死後の世界を彷彿させます。
茂吉記念館は山形にあり数年前リニューアルされたそうです。
ウィキペディアで調べたら、茂吉は粘着気質だったとか。興味深いエピソードもありますので、行ってみたいと思いました。
いかがでしたしょうか?
これからも素敵な歌を、ご一緒に鑑賞して参りましょう!