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夏の和歌 昔(むかし)思ふ(おもう) 草(くさ)の庵(いおり)の夜(よる)の雨(あめ)に 藤原俊成


こんにちは
宮川です。

今回も、夏の和歌を鑑賞して参りましょう!

昔(むかし)思ふ(おもう) 草(くさ)の庵(いおり)の夜(よる)の雨(あめ)に
涙(なみだ)な添(そ)へそ 山郭公(やまほとどぎす)

この和歌は新古今集に収められています。

作者は、平安時代後期から鎌倉時代初期の公家・歌人である藤原俊成です。

歌の意味は、

昔の優雅な暮らしを思い出して寂しくしているこの草庵に雨が降っている。
山で鳴くほととぎすよ、悲しい鳴き声で、さらに私に涙の雨まで降らそうとさせないでおくれ。

です。

「草の庵」は文字通り、草でふいた粗末な庵、という意味です。

「雨」は、ほととぎすのなく時節なので、ただの雨ではなく、五月雨を示しています。また、涙も暗示しています。

「な・・・そ」は、「な」と「そ」が呼応して、嘆願するイメージの、穏やかな禁止を表しています。

~してくれるな、~しないでくれという意味です。

「山郭公(やまほととぎす)」は、夏になっても山に残っているほととぎすのこと。

ほととぎすには、夏になると山から里に下りてくる習性があります。

俊成は、この歌を詠む2年前に病のために官を辞して出家しました。

この歌は、華やかだった宮中での生活を思い起こしながら、現状のわびしさを詠んだものです。

粗末な家、夜ひとり、しとしと降り続く五月雨、里へ下りるはずのほととぎすが鳴り響かせる鳴き声。

わびしさてんこもりです。

白居易の漢詩が典拠

この歌には典拠があります

白居易(はくきょい)の漢詩です。

蘭省(らんせい)の花(はな)の時(とき)の錦帳(きんちょう)の下(もと)
廬山(ろざん)の雨(あめ)の夜(よ)の草庵(そうあん)の中(うち)

宮中の尚書館では花の時を迎え、錦の幕をめぐらした下で、君たちが光栄に浴しているのだろう。
一方、私は廬山の草庵で一人雨の夜を過ごしている、という内容です。

この歌も華やかな宮中の出来事と、草庵で一人雨の夜を過ごす自分を対比させています。

今日は分かりやすい作品を、と選んでみましたが、思いのほかいろいろな技巧が使われていて、奥深い作品だと思いました。

いかがでしたしょうか?

これからも素敵な和歌を、ご一緒に鑑賞して参りましょう!




Posted on 2020-06-15 | Category : コラム, 和歌とともに | | Comments Closed
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