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春の歌 「さくら花 散りぬる風の」 古今和歌集 紀貫之(きのつらゆき)


[訳:蓬田修一]

亭子院歌合(ていじゐんのうたあわせ)の歌  

さくら花 散りぬる風の なごりには
水なき空に 波ぞ立ちける


古今和歌集  つらゆき

[現代語訳]

亭子院歌合(ていじいんのうたあわせ)の歌

桜の花が (風に吹かれ)散ってしまった その風は過ぎ去っていったが 後にはなお風の余韻が残っている
風の余韻の残る水のない空に 波が立った(=花びらがひらひらと舞った)

古今和歌集  紀貫之(きのつらゆき)

[ひとこと解説]

三句目の「なごり」は、風が吹き去った後に、まだしばらく立っている波のこと。もともと、なごりは波の余波という意味。
この歌のなごりは、風がやんだ後に残っている余韻のこと。

「水なき空」というのが、とても印象的な表現。
水という言葉が使われているのは、なごりの本来の意味が波の余波ということだから。

その水がない空に、波が立った。ここの波とは、桜の花びらのこと。
桜の花が風に吹かれ、風が吹き去った後も、空にはらはらと舞っていてる。その様子を、水などないはずの空に波が立ったと表現している。

風に散らされた桜を詠った歌は数多くあるが、貫之ならではの技巧と感性が感じられる作品だ。




Posted on 2015-02-17 | Category : コラム, 和歌とともに | | Comments Closed
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