春の歌 「さくら花 散りぬる風の」 古今和歌集 紀貫之(きのつらゆき)
[訳:蓬田修一]
亭子院歌合(ていじゐんのうたあわせ)の歌
さくら花 散りぬる風の なごりには
水なき空に 波ぞ立ちける
古今和歌集 つらゆき
[現代語訳]
亭子院歌合(ていじいんのうたあわせ)の歌
桜の花が (風に吹かれ)散ってしまった その風は過ぎ去っていったが 後にはなお風の余韻が残っている
風の余韻の残る水のない空に 波が立った(=花びらがひらひらと舞った)
古今和歌集 紀貫之(きのつらゆき)
[ひとこと解説]
三句目の「なごり」は、風が吹き去った後に、まだしばらく立っている波のこと。もともと、なごりは波の余波という意味。
この歌のなごりは、風がやんだ後に残っている余韻のこと。
「水なき空」というのが、とても印象的な表現。
水という言葉が使われているのは、なごりの本来の意味が波の余波ということだから。
その水がない空に、波が立った。ここの波とは、桜の花びらのこと。
桜の花が風に吹かれ、風が吹き去った後も、空にはらはらと舞っていてる。その様子を、水などないはずの空に波が立ったと表現している。
風に散らされた桜を詠った歌は数多くあるが、貫之ならではの技巧と感性が感じられる作品だ。
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