春の歌 「濡(ぬ)れつつぞ しひて折りつる」 古今和歌集 在原業平
[訳:蓬田修一]
弥生(やよひ)のつごもりの日、雨のふりけるに、藤の花を折りて人につかはしける
濡(ぬ)れつつぞ しひて折りつる 年のうちに
春はいくかも あらじと思へば
古今和歌集 業平朝臣(なりひらのあそん)
[現代語訳]
三月の最後の日、雨が降っているなか、藤の花を折って人に贈るのに添えた歌
雨に濡れながらも 折った花です 今年のうちに
春はあと何日も あるとは思えなかったので
古今和歌集 在原業平(ありわらのなりひら)
[ひとこと解説]
詞書に「三月の終わりの日」と言っているのに、歌では「春がもう何日もないので」と歌っているので食い違いがあるが、特に問題にすることはないと思う。春が間もなく終わってしまう、という気持ちを表現するために歌ったのだから。
業平の歌は自分の気持ちを率直に表現しているのが魅力だと思う。この歌でも、わざわざ雨に濡れながら、あなたのために藤の花を折ったのですよ、とはっきりと言っています。でもそれが嫌みには感じられません。
業平の人となりがとてもよく伺われる歌だと思います。
関連記事