春の歌 「おもふどち 春の山べに」 古今和歌集 読人しらず
[訳:蓬田修一]
おもふどち 春の山べに うちむれて
そこともいはぬ 旅寝(たびね)してしが
古今和歌集 そせい
[現代語訳]
仲の良い友人同士 春の山辺に 連れだって
どこということもなしに 旅寝をしたいものです
古今和歌集 素性法師(そせいほうし)
[ひとこと解説]
「おもふどち」は、仲の良い友人同士。「そこともいはぬ」は、どこということもなく。「旅寝(たびね)」は旅に出て寝ることだが、遠くへ旅立つだけでなく、ごく近所に行って自宅以外で寝ることも旅寝と言った。「しが」は、願望を表す助詞。
仲の良い友人同士で、春の山辺に連れだって行って、場所も特に決めずに行った先で、楽しくひと晩を明かしたいものだ、という内容で、特に深い意味は込められていない。
内容は深くはないが、素直な情緒が込められていて、当時の貴族の雰囲気がしのばれる。私たち現代人にとっても、十分に共感できる内容ではないだろうか。
こうした、特に風情があるわけでも、技巧が凝らしてあるわけでもない歌が古今和歌集に採られているということが、とても興味深い。選者を含めて当時の貴族たちにとって、友人たちと連れだって自宅を離れ、ひと晩楽しく過ごすということは大きな楽しみであったのだろう。素直に好感が持てる歌だ。
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