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春の歌 「春日野(かすがの)は 今日(けふ)は」 古今和歌集 読み人しらず


[訳:蓬田修一]


春日野(かすがの)は 今日(けふ)は な焼きそ
若草(わかくさ)の つまもこもれし 我(われ)もこもれり


古今和歌集  読み人しらず

[現代語訳]

春日野の農民よ きょうは野焼きを しないでくれ
妻もこの野にこもっているし 私もこもっているのだから

[ひとこと解説]

春日野は現在の奈良県春日大社のあたり。
農民は春になると野を焼いた。焼いたあとの土は肥えるからだ。

若草はつまの枕詞。つまは、男女どちらも指す言葉だが、ここでは女性を指しているように思われる。
男性が農民に向かって、愛する妻も自分もこの野にこもっているので、きょうだけは野焼きをしないでくれとお願いしている歌。

この男女は野で若菜を摘んでいるという解釈が一般的にされているが、果たしてそうだろうか。
私は男女が野の中で秘め事をしていると見たい。
若草という言葉も女性の陰毛を暗喩しているように感じる。
歌全体がのどかな感じというより、「焼かないでくれ」とやや切迫しているような、懇願しているような印象を受ける。
男女が野遊びをしている牧歌的な風景というより、秘め事をじゃまされたくない男の気持ちを詠んだ歌かもしれない。

「伊勢物語」第十二段には、この歌をほんのちょっとだけ変えた歌が載っている。

武蔵野(むさしの)は 今日(けふ)は な焼きそ
若草(わかくさ)の つまもこもれし 我(われ)もこもれり

こちらは女性が歌ったようである。




Posted on 2015-02-07 | Category : コラム, 和歌とともに | | Comments Closed
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