【第107回】ICTキャンパス 広島大学「デジタル×専門分野でデータサイエンス教育」 2023年4月3日
2018年4月に情報科学部を、20年10月に「AI・データイノベーション教育研究センター」を設置し、データサイエンス教育に取り組んできた広島大学。22年度には全12学部を対象に「AI・データサイエンス応用基礎特定プログラム」を開設。23年度は、エキスパートレベル人材を育成するため、大学院に特定プログラム「AIOpsエンジニア育成特定プログラム」を開設予定だ。
本学データサイエンス教育の具体的な取組を4つ紹介する。
■情報・データサイエンス・AIパッケージ
文系・理系を問わずすべての学生が社会で期待されている数理・データサイエンス・AIの初級(リテラシー)レベルを習得するための必修科目を中心とした教育プログラム。
■AI・データサイエンス応用基礎特定プログラム
リテラシーレベルをさらに進めた応用基礎レベルの学修として、データ分析やプログラミングなどについて学ぶ。
■産業DXをけん引する高度専門人材育成事業
DX教育設備を活用した教育カリキュラム開発や実験・実習の高度化など、デジタルと専門分野とを掛け合わせた教育を進め、日本の産業界などのデジタル化・高付加価値化をけん引できる高度な専門人材を育成につなげる。
■数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム中国ブロック拠点校
ブロック拠点校として、数理・データサイエンス・AIの教育体制の構築およびトップクラスのエキスパート人材の育成などに取り組む。
高校生が最先端科学に触れる機会を提供
広島大学では小・中・高校生に向けた教育プログラムも提供している。
科学技術振興機構(JST)の支援による「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」は、地域で卓越した意欲・能力を有する高校生等を募集・選抜し、大学で行っている最先端の講義や実習、研究開発に触れる機会を提供するもの。
GSCに参加した高校生は、大学の教員や学生と科学について議論。生徒自身の研究課題に関してポスター作成や、英語での発表などを行い、国際的に活躍できる人材になるための基礎を養う。
小学5・6年生および中学生を対象にした教育プログラム「ジュニアドクター育成塾」もJSTによる支援により展開。
ものづくりを通して児童・生徒が持つ数理・情報分野への興味・関心をさらに高め、革新的イノベーションを起こす傑出したリーダー人材などの育成につなげている。
グローバルサイエンスキャンプで「情報」を学ぶ高校生
データサイエンスと教育・経済・経営を連携
人文社会科学分野と数理・データサイエンス分野を連携させた、新たな教育も展開する。
人文社会分野のうち、特に教育、経済、経営の各分野の専門性と、数理・データサイエンス・AIの素養をあわせ持つ人材を育成するため、大学院に「教育データサイエンスプログラム」と「ソーシャルデータサイエンスプログラム」を設置する予定だ。両プログラムでは、専門分野の異なる学生が、データ解析などの実践的作業を通じて、ともに課題解決・協働できる科目を開設。産業界、学校現場、行政などの分野で、DXを強力に推進できるエキスパート人材を輩出していく。
本取組は、22年度の文部科学省「デジタルと掛けるダブルメジャー大学院教育構築事業~Xプログラム~」に採択されている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年4月3日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第107回】ICTキャンパス 山形大学「地域連携でデータサイエンス 23年度入学生から全学必修に」 2023年3月6日
山形大学は人文社会科学部、地域教育文化学部、理学部、医学部、工学部、農学部の6学部と6つの大学院研究科が設置され、約9000人の学生が学ぶ、東日本でも有数の規模を誇る総合国立大学だ。
同学では23年度入学生から、リテラシーレベルのデータサイエンス教育(※)を全学で必修化。地域と連携した実学志向のデータサイエンス教育を実現させるため、その基礎となるリテラシーレベルからの教育の充実を図る。(※、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」による教育段階)
「地域デジタルデザイン思考演習」を開講した
データサイエンス教育 2017年度から準備
データサイエンス教育の取組は2017年度から始まった。
まず理学部にデータサイエンスコースカリキュラムを設け、データサイエンス教育をスタート。
18年度にデータサイエンス推進室、19年度には山形大学データサイエンス教育研究推進センターを設置して全学的なデータサイエンス教育の充実を図り、地域連携による教育・研究の推進に取り組んでいる。同センターは「教育」「地域連携」「カリキュラム・教材開発」の3部門で構成される。
21年度には1年次の講義科目を整備してオンデマンド教材(「データ解析基礎」、「データサイエンスⅠ」)を開発。一部を選択科目として開講した。これらの講義では、デジタルデータの種類や性質を理解して、現代社会を理解する上で必要不可欠なデジタルデータの扱い方を習得する。
応用基礎レベルは22年度から開講
22年度には、応用基礎レベルの講義「AI・データサイエンス要論」を開講した。
データサイエンスのリテラシー教育と専門教育の橋渡し的な位置付けとして、22年度後期、理学部において「地域デジタルデザイン思考演習」の講義を新たに始めた。
これは地域社会や環境に関するデータを収集し、情報に変換して、起きている現象を把握するデータ処理思考力を養うものだ。
前例のない課題や未知の課題に対してデザイン思考からアプローチし、具体的な地域課題解決の糸口を演習形式で探り提案できることを目標としている。
講義前半では、受講生が県内の米沢市、朝日町、蔵王を訪れ、データ計測方法の基礎を学ぶ。
後半では、地域のキーパーソンから地域課題の現状などを聞き、デザイン思考のアプローチから、課題解決に向けたデータ計測や調査、システム試作などの演習を行う。
講義は次の4部構成だ。▼第1部 データ計測と情報処理の基礎を学ぶ(講義) ▼第2部 データ収集方法を学ぶ(フィールドスタディ) ▼第3部 地域課題を学ぶ(パネル討議) ▼第4部 デザイン思考に基づき地域課題の解決の糸口を探る(グループ演習)
グループ演習のテーマは「移住」や「地域の産業」など。
「学生は、研究対象の計測、調査を通して思考力を養います。この力は卒業後、一般社会で役に立ちます。大学時代、学生が自分の専門が社会に役立つこと、または逆に、専門だけでは足りないことを知るのは、学習意欲を高めるためにとても大切です。そのため、地域社会の皆様のご協力を仰ぎながら、学生を育む講義を設けることにしました」(山形大学学術研究院奥野貴士准教授)
同大学の教育環境の特徴のひとつは、豊かでダイナミックな自然や多様な文化を育む地域社会を舞台に、実践的な教育を展開できる点にある。
得られたデータや調査結果は、次年度に引き継ぎ、継続的かつ発展的に地域課題の解決に対して、学生が向き合うことを想定。地域の課題解決に大学として継続的に取り組むこととしている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年3月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第106回】ICTキャンパス 東京大学「未来を創造するDX人材育成 「メタバース工学部」を開設」 2023年2月6日
多様な人に学びの機会を提供
東京大学は2022年、「メタバース工学部」を開設した。これは中高生や大学生、社会人を対象としたオンライン教育プログラムの総称で、受験を経て入学する学部ではない。
先端テクノロジーが次々に生まれ、ビジネスや医療、教育などの分野をはじめ、社会全体でデータ活用による価値創造が急速に進んでいる。
データやテクノロジーを活用して未来社会を構築できる「DX人材」の育成は急務だ。
そこでメタバース工学部では、工学や情報の学びの機会、工学キャリアに関する情報などを、多様な人に提供する目的で設置。年齢や性別、住んでいる場所、立場などにかかわりなく誰もが学ぶことができる。従来から各大学では社会人等を対象に公開講座を行っているが、メタバース(Metaverse)上に構築し、かつ学部とした点が新しい。
「メタバース」とは、「超越(meta)」と「宇宙(universe)」を組み合わせた造語だ。コンピュータとネットワーク上に構築された仮想空間およびそのサービス全体を指すのが一般的だ。オンライン上の3D空間で、自分のアバター(分身)を自由に行動させることができ、ほかの人のアバターともコミュニケーションできる。
画像提供:東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター
情報・AI・工学など 中高生向け講座は無料
東京大学メタバース工学部には、2つの教育プログラムが用意されている。
1つは中高生を主な対象とする「ジュニア工学教育プログラム」。工学や情報の魅力を早期に伝えるため、産業界と大学が連携して工学教育プログラムを提供する。例えば、大学での工学の学びや、卒業後のキャリア、商品開発のような体験型演習、研究室見学などを、オンラインと対面とを組み合わせて実施。参加は無料だ。
これまでに「起業入門~困っていることを解決しよう~」「オンラインホワイトボードを用いたアイデア発想講座」などの講座が開かれ、今後も「デザイン×工学」「スマホで脈波を測ろう」「飛行ロボットを作って飛ばす」など、中高生が関心を持ちやすい内容の講座が予定されている。
もう1つのプログラムは社会人や学生の学び直しやリスキリング(仕事で価値を創出し続けるために必要なスキルを学ぶこと)支援を目的とした「リスキリング工学教育プログラム」だ。23年2月時点、人工知能、起業家教育、次世代通信など4つの講座で受講生を募集している。
対象は基本的に社会人で、法人単位での申し込みとなるが、「グローバル消費インテリジェンス(AI講座)」は、学生や離職者なども受講可能だ。データの分析結果を効果的に可視化する技術や機械学習の基礎、データベースの扱い方など、データサイエンティストとしての基礎を網羅的に扱う。
このほか「アントレプレナーシップ」は、研究開発型起業(ディープテック起業)や、グローバル展開も見据えた起業一般論の講義を通じて、新たな技術や発想のもと、新規事業を通じた社会的価値の持続的創出に挑戦する姿勢(アントレプレナーシップ)を学ぶ。
工学分野におけるダイバーシティを推進
日本では工学部に進学する女子高生の少ないことが指摘されていた。東京大学メタバース工学部は、工学や情報の魅力を女子中高生に伝え、DX人材育成のダイバーシティ推進を加速させることも目的としている。
また、岸田文雄首相は2022年10月の所信表明演説で、個人のリスキリング支援に、5年間で1兆円を投じる考えを示した。
メタバース工学部は未来を構想できる力を持つ「DX人材」の育成に、大きな役割を果たすことが期待される。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年2月6日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第105回】ICTキャンパス 藤田医科大学「健診情報をスマホで閲覧 健康リテラシーを改善する」 2023年1月1日
PHR基盤を構築次世代標準規格に対応
藤田医科大学(愛知県豊明市)は4つの大学病院(藤田医科大学病院、藤田医科大学ばんたね病院、藤田医科大学七栗記念病院、藤田医科大学岡崎医療センター)を擁し、開院以来、尾張東部エリアの地域医療において重要な役割を果たしてきた。
同学は医療の可能性をさらに広げるため、PHR基盤「Fujita Healthcare Platform」(以下、本プラットフォーム)をAmazon Web Services上に構築している。
PHR(Personal Health Record)とは、個人の健康に関する情報を1か所に集め、医療サービスを受ける利用者自身が、 自らの過去の健康や医療に関するデータにスマートフォンなどからアクセスできる情報基盤のこと。
「生涯型電子カルテ」とも呼べるもので、格納されているデータを用いて自身の健康増進や生活改善につなげることができる。
医療情報の次世代標準規格「HL7 FHIR(=Health Level 7 Fast Healthcare Interoperability Resources」にも対応。電子カルテには様々なベンダーが存在し、これまで互換性が不十分だった。そこで情報の記載方法を共通化し、互換性を持たせた新しい医療情報標準規格がHL7 FHIRだ。
自分の健康診断情報にスマホからアクセス
本プラットフォームの稼働開始は、2023年3月頃を予定。当初は同学の教職員・学生の健康診断データを取り込む。
同学医療情報システム部・小林敦行部長は「健診データを標準化されたHL7 FHIRに則って格納し、受診者が自分のスマホで閲覧できる仕組みを構築します。また、当院だけでなく、他のクリニックで健診を受けた人でも利用できるプラットフォームにしていきたいと思っています」と話す。
今後3~4年以内に、教職員や学生だけでなく、数十万人規模の利用者が本プラットフォームに加わることで、地域住民を中心に、多くの人たちが利用できるPHR基盤を確立していく構想だ。
産業横断のプラットフォーム連携も視野に入れる。「まだ構想段階ではありますが、健康に関連するデータを持つ様々な企業、例えば製薬会社や薬局、食品や外食産業、スポーツジム、バイオセンサーのメーカーなどとの連携を考えています」
スマートヘルスケアタウン構想を推進
スマートヘルスケアタウンモデル
同学は、地域包括ケアの新たな取組として「スマートヘルスケアタウン」プロジェクトを進めている。
健康診断を始め、食習慣や薬歴などのヘルスケアデータを格納する情報基盤を構築し、住民が日々利用するドラッグストアを健康サポート拠点として、誰もが気軽に自分の健康がモニターできる環境を構築する。同時に、健康に対するリテラシーの改善を通して、意識せずとも健康になれる社会を目指す。
本プロジェクトは、文部科学省・科学技術振興機構による2021年度「共創の場形成支援プログラム(COI―NEXT)」〈地域共創分野【育成型】〉に採択されている。
前述のプラットフォームは、本プロジェクトにも適応させていく。将来的には、本プラットフォームとともに、電子カルテデータの臨床研究における利用をさらに使いやすくするための基盤構築も行っていきたい考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年1月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第104回】ICTキャンパス 京都大学「仏教とテクノロジーを融合 仮想空間で持続性高める」 2022年12月5日
AIブッダが相談者の悩みに回答
京都大学人と社会の未来研究院の熊谷誠慈准教授は、(株)テラバース古屋俊和CEOや僧侶の青蓮院門跡・東伏見光晋執事長らとともに、悩みをAIブッダが答えてくれる「ブッダポット」を開発した。
相談者が「やる気が出ない」「会議があるのにアイデアが湧かない」といった悩みを、LINEアプリに投稿すると、現存最古の仏教経典「スッタニパータ」を学習したAIブッタが、対話形式で回答する。AIブッダはグーグル社の自然言語処理モデル「BERT(バード)」を応用したプログラムで機械学習している。
ブッダポットを開発した背景には、熊谷准教授の「現代人がもっと仏教の価値に親しんでくれるにはどうしたらよいだろうか」という長年の思いがあった。
「いまや多くの人にとって、仏教は観光や葬式で接するだけとなっています。私は、仏教の本質は幸せになるためにあると思っています。仏教との出会いがきっかけで幸せになったら、仏教が好きになるのではないかと考えました」
「テラバース」イメージ図。
「テラ・プラットフォームAR Ver1・0」ではアバターブッダに音声やテキストで悩みを相談できる
アバターブッダ導入でリアル感覚を創出
熊谷准教授らは現在、ブッダポットをもとに、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を用いた仏教仮装世界「テラバース」の開発を進めており、2022年9月、その試作品「テラ・プラットフォームAR Ver1・0」を公表した。
ブッダポットのAIブッダは、テキストでの対話だけだったが、テラバースではAR技術を活用して、スマホ画面にアバターのブッダが登場。音声入力もでき、ブッダと会話しているような感覚が得られるようになった。
ブッダの回答内容もさらに充実。経典「スッタニパータ」に加えて代表的な原始仏教経典「ダンマハダ」も学習し、学習データ数をブッダポットの開発当時(2021年)から5倍に増やした。
近い将来には、位置情報とも組み合わせ、利用者の生活空間において突然、AIブッダが現れるといったイベント性も持たせ、仮想空間ならではの自由さや楽しみも創出していく考えだ。
サイバー空間活用で仏教の持続的発展探る
テラバースは、個人の救済だけでなく、仏教界の支援も目指す。日本の仏教界は寺院の収入減少、本堂など建物の維持管理の困難などから、2040年には3割が廃寺になるともいわれている。こうした状況はコロナ禍でさらに拍車がかかっていると予想される。
そこで、熊谷准教授らは、サイバー空間を活用した仏教の持続的発展の可能性を探る。
例えば、VR技術でサイバー空間にアバター寺院を建立すれば、地理的な問題を克服して遠方に住む信者も寺院を訪れることができる。
また、アバター僧侶を導入することで、寺院への訪問者対応をスムーズに行うことも考えられる。
サイバー技術によって、現実世界、仮想空間どちらでも寺院の行事に参加できるようになり、参加者同士の交流増も期待される。こうした仮想空間による寺院運営には、現役の僧侶からも期待が寄せられているという。
熊谷准教授は「コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争などを通じ、現実世界に窮屈さを感じる人が増えました。物理的制約のない仮想空間の可能性や潜在性は、ますます高まるものと思われます。テラバースを通じて人々に癒しや楽しみを届けることで、新たな活力と希望が生み出され、躍動的な社会が実現することを願っています」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年12月5日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第103回】ICTキャンパス 福知山公立大学「市のシンボル・福知山城をマインクラフトで築城」 2022年11月7日
市のシンボルを建設
福知山公立大学(京都府福知山市)は地域経営学部と情報学部の2学部を持つ。1871年(明治4年)に設立された愛花草舎が起源で、2016年3月まで私立大学として運営。同年4月に公立化し、福知山公立大学として開学した。
福知山公立大学の特色は、教育・研究が当初から社会貢献と結びつけて構想している点にある。地域に対して開かれた地域協働型の教育・研究に力を入れている。
同学と同学設置者である福知山市は2021年11月からおよそ10か月間にわたり、世界中で多くの人に親しまれているゲーム「マインクラフト」の世界に、福知山市のシンボルである福知山城を建築するプロジェクトを実施した。
福知山市はプロジェクトを始めた経緯について、次のように話す。
「福知山市は情報教育に積極的に取り組んでいますが、さらに充実させるため、福知山公立大学の情報学部にマインクラフトを活用したプロジェクトの実施をお願いしました。学生の『やるなら福知山市のシンボル・福知山城をつくりたい』という想いから、プロジェクトがスタートしました」(福知山市秘書広報課)。
福知山城は1579(天正7)年に明智光秀により築城された。明治に入り廃城となったが、1986年に、建築費の6割以上が個人・団体からの寄附により再建。福知山市にとってシンボルといえる建築物だ。
お披露目会で福知山城をバックに記念撮影
マネジメント力や責任感などが学べる
マインクラフトとは、ブロックを採取したり、ブロックで建物を作ったりして、思い思いの世界を構築しながら、ものづくりや探検などが楽しめるゲームだ。
2011年の正式リリース以降、利用できるプラットフォームの種類を増やし、これまでの累計売上数はおよそ2億本と世界で最も売れたゲームである。
プレーを通じてプログラミング的思考の育成やアクティブラーニングにも活用できる。
今回の「福知山城マインクラフト」プロジェクトは、アジア初のプロマインクラフターであるタツナミシュウイチさんの監修のもと、福知山城を忠実に再現することを目指した。
プロジェクトには、情報学部の1年生から3年生までの有志19人が参画した。
「ひとつの成果物を複数のメンバーが分担して制作するのは簡単ではなく、ひとつの組織として計画的に進めていく必要が出てきます。プロジェクトの進行管理におけるマネジメント能力、プロジェクトの一員として役割(役職)を全うする責任感、課題を見つけ解決していく課題解決力が学べるプロジェクトを目指しました」(福知山公立大学情報学部講師 藤井叙人氏)。
完成した福知山城の外観は、周辺も含めて忠実に再現され、内観も実際の城のように、天守閣の展望室から福知山の街並みを一望できる。
本プロジェクトに参加した学生と担当教員などが講師を務める「小学生のためのプログラミング教室」の教材としても活用している。
大学のPBLの一環として展開
プロジェクトの集大成として2022年8月、お披露目会を福知山城で開催。一般公開(8月16日~9月7日)を経、プロジェクトは一旦区切り、現在は「福知山マインクラフト」として大学のPBL(課題解決型学習)の一環として展開している。
藤井氏は「今後は大学校舎をマインクラフト内に再現し、オープンキャンパスで活用するなど、リアルとバーチャルを融合させた取組を進める予定です。大学と社会との接点の場としても期待できます」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年11月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第102回】ICTキャンパス お茶の水女子大学「女子大で工学系人材を育成 『共創工学部』(仮称)設置を構想」 2022年10月5日
社会課題の解決図り未来を開拓
お茶の水女子大学は2024年度に「共創工学部」(仮称)の設置を構想中だ。同学部は「人間環境工学科(仮称)」と「文化情報工学科(仮称)」の2学科で構成する。
共創工学部の「共創」とは、「共に未来の環境、社会、文化を創る」ことを意図する。同学における教養教育「21世紀型文理融合リベラルアーツ」を基盤として、工学と人文学、社会科学の「協働」を目指す。
この「協働」とは、同学の基幹研究院自然科学系 大瀧雅寛教授(共創工学部長に就任予定)によれば、工学を軸としたイノベーションの創出だ。
2学科のうち「人間環境工学科」は「人間」「建築」「環境」「材料」の4領域を扱い、各領域において、モノや仕組みの工学的設計に不可欠な「工学専門知」と、社会に実装・普及するために必要な「社会科学知」を協働させる。
「文化情報工学科」は人文科学と情報学を融合。情報・工学技術を用いて、文学、言語、芸術、歴史、地理などに関する多種多様な情報をデジタル化して分析を行い、新たな作品や価値を創造する。
「現実世界の人・モノ・事象に対し、どのようにしてデータを収集・整理・貯蔵するか、また、どのようなモデルをデータに当てはめるかというデータ駆動型ビジネスの基礎習熟を目指すのはもちろんですが、こうしたデータサイエンスによる分析結果を社会にフィードバックし、社会課題を解決して未来を開拓することを目指します」(大瀧教授)
学生は統計分析、機械学習、データマイニング手法などのデータサイエンスについて学修。同時に、ソフトウェアを使いこなすための情報工学の基礎や、ICT、IoT、DXなどのデジタル技術の学修も行い、社会における実装能力を身に付ける。
マルチセンサを利用したオリジナル環境制御装置の設計演習風景
従来の「知」を尊重し新しい「知」を創造
共創工学部が目指す新しい「知」について、大瀧教授は「工学および人文学、社会科学には、それぞれ確立された『知』の集積があります。それらを尊重しつつ、互いに活用することで、新しい『知』の創造を目指すというコンセプトです」と話す。
人間環境工学科では、工学的にモノ(人工物)を設計・評価し、実際に社会に展開するプロセスにおいて、社会科学分野の考え方や多様な人々と対話する能力を身に付ける人材を育成する。
一方、文化情報工学科では、例えば人文学の資料(テキスト、造形、動作など)をデータサイエンスの技術・技法によって生成・加工・分析した上で、デジタル技術を活かして文化を創成し、社会の課題解決に活かせるといった技術・思考を身に付けさせる。
入学定員は「人間環境工学科」26人、「文化情報工学科」20人の予定だ。
工学計分野の男女共同参画に寄与
女子大における工学教育の意義については「女子大学では、すべての役割を女性が担う必要があります。そうした経験や思考を持つ人材が広く社会に出ることで、工学系分野においての男女共同参画の実現に寄与できると期待しています」
理工系などSTEAM分野での女性人材の確保は国の施策の1つとなっている。同学の共創工学部設置による工学教育は、この目標に寄与する取組となる。
※記事中の新学部名および新学科名はすべて仮称。また新設構想は予定であり、変更の可能性がある。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年10月5日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第101回】ICTキャンパス サイバー大学「全学生向けプログラム 『AIリテラシーレベル』」 2022年9月5日
AI、IoT、統計
3科目で構成
2007年に開学したサイバー大学は、講義の受講から試験まで、通学せずに学士号(大卒資格)が取得できるソフトバンクグループの通信制大学(インターネット大学)だ。
IT総合学部に「テクノロジー」「ビジネス」「ITコミュニケーション」の3コースを設け、「ビジネスのわかるITエンジニア」と「ITのわかるビジネスパーソン」を基本コンセプトに、高度IT人材の育成に取り組んでいる。
同学では21年度から、正科生を対象に、数理・データサイエンス・AI教育プログラム「AIリテラシーレベル」を実施している。
本プログラムは、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」に認定されているものだ。対象科目は「AI(人工知能)入門」「IoT入門」「ビジネス事例から学ぶ統計入門」の3科目。
「AI(人工知能)入門」は、人工知能の基礎から応用事例まで、およびディープラーニングの基本について学ぶ。人間の仕事はAIにどのように置き換えられていくのか、また、AIが人間を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)によって、人間の将来はどうなっていくのかなどについて考える。
「IoT入門」は、IoTが登場した経緯やその仕組み、市場動向などの基礎知識を習得する。
「ビジネス事例から学ぶ統計入門」は、ビジネスにおける様々なデータを分析するために必要な統計学の基本的内容を学ぶ。
「数理・データサイエンス・AIに関する知識やスキルを扱う際には、不安なく自らの意志でAIなどの恩恵を享受し、適切に活用できることが重要です。授業ではこうした点を踏まえ、各種データの利活用の方法と留意事項についても、具体的事例を通じて学べる科目内容になっています」(サイバー大学 IT総合学部学部長・安間文彦教授)
受講風景(イメージ)
専攻に関わらず身に付けるべき素養
サイバー大学では、もともと専門的にAIやデータサイエンスを学びたい学生向けに、テクノロジーコースの「AIテクノロジープログラム」を用意している。このプログラムは高度な応用科目や演習科目も含み、本格的にAIを学ぶ内容となっている。
一方で、数理・データサイエンスの基礎は、専攻に関わらずすべての学生が最低限身に付ける素養として重要だ。そのため、新たに実施した「AIリテラシーレベル」で、数理・データサイエンス・AIの基礎を学べるようにし、在籍コースに関わらず、全学生に履修を推奨することとした。
授業は約15分単位
若年層の入学者が増加
サイバー大学は、履修(受講科目)登録から日々の受講、テスト、レポート提出、成績の確認まですべてを、独自開発のeラーニングプラットフォーム「Cloud Campus」で行っている。
学生の56%は社会人。年代別では20代が46%を占め、10代から60代以上まで幅広い層が学んでいる。授業は約15分単位で構成され、通勤中や隙間時間を利用しての効率的な学習も可能だ。
ゼミや卒業研究などでは「Cloud Campus」のコンテンツ制作機能やディベート機能を使用して、担当教員だけでなく、ほかの学生とも意見交換しながら学修を進めている。
「コロナ禍において、オンライン教育の注目が高まっており、オンライン教育に特化してきた本学の重要性も高まっていると感じます」(安間教授)
開学以来、社会人が学び直しで入学するケースが多かったが、近年は高校新卒や大学を中退したばかりの若年層の比率が上がってきているという。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年9月5日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第100回】ICTキャンパス 東京大学「参加者の主体性引き出す新しい意見集約ツール」 2022年8月2日
教員と学生が共同で開発
東京大学の吉田塁准教授(工学系研究科)は2021年、文学部3年生だった中條麟太郎氏とともに、参加者の積極的な意見交換を促すオンラインツール「LearnWiz One」を開発した。
授業でのオンラインツール活用では、双方向的な授業のやり方がよく分からなかったり、実際やってみると、グループワークの盛り上がりに欠けたりすることが少なくない。
また、参加者からの意見や感想が多過ぎた場合、意見などをまとめきれないといった問題も発生する。
そこでLearnWiz Oneでは、アクティブラーニングと集合知の知見に基づき、参加者の人数に関わらず、講師と参加者、参加者同士のインタラクションが容易に実現できるようにした。
LearnWiz Oneの画面
独自アルゴリズムで意見を集約・共有
本ツールは、独自開発したアルゴリズムにより、すべての投稿が参加者の誰かには見てもらえる仕組みとしている。個々の投稿に対しては「いいね」やコメントを付けることができ、これらの情報をもとに算出した人気順でも確認できる。
参加者はすべての投稿を見ることなく、参加者全員の投稿が等しく確認、評価されるため、自分以外の参考意見が確実に浮かび上がってくる。
「他者の多様な意見に触れながら意見交換でき、しかもほかの人の参考意見も、スムーズに全体共有できるという機能により参加者の主体性を引き出しながら、効果的な意見交換を促すことが可能です」(吉田准教授)
同様のオンラインツールには、MicrosoftTeamsやGoogle Workspaceがある。これらのツールで意見を集約しようとすると、すべての意見に目を通す必要があり、人数が多い場合、意見が多くなりすぎて把握が困難になり、適切な集約が難しくなるという。
その点、LearnWiz Oneは効果的かつ効率的な意見の共有・集約ができる点が類似ツールとの大きな違いだ。
大学をはじめ中学・高校でも活用
LearnWiz Oneは大学をはじめ、高校、中学校などの授業で利用されている。
私立大学工学部では、小レポート課題をLearnWiz One上で提出。小レポートを学生は相互評価したうえで、人気順にレポートを共有。教員はコメントする。
中学校国語での対面・オンラインのハイブリッド授業では、教員の「この時の主人公の気持ちを考えましょう」などの問いにLearnWiz One上で回答を提出させる。それを生徒同士で確認し、その後もう一度同じ問いかけをすると、一回目よりも多様な回答が得られたという。
多言語化を進めて海外展開も視野に
LearnWiz Oneはすでに、教育現場や企業などでのべ3万人以上に利用されている。今後はさらなる利用者の拡大に力を入れる。
現在は日本語と英語に対応しているが、今後は多言語対応を進め、海外への展開も積極的に行っていく考えだ。
「社会に出た後も学び直しができる場としての大学が、さらに求められています。その際に要になるのは、オンラインにおける学習環境です。しかし、オンラインの学習は十分に設計しないと、一方向的になりやすいのが課題です。LearnWiz Oneを活用することで、学習者同士や学習者と教員とのインタラクションを生むことができるようになります」(吉田准教授)
本ツールは22年3月までは吉田准教授と中條氏が運用してきたが、4月以降は、中條氏が新たに立ち上げた株式会社LearnWizによって運用されている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年8月2日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第99回】ICTキャンパス 和歌山大学「地元企業や官庁と連携 データサイエンス教育」 2022年7月4日
左から、株式会社紀陽銀行頭取 松岡靖之氏、国立大学法人和歌山大学学長 伊東千尋氏、紀陽情報システム株式会社代表取締役社長 島慶司氏
全学部生を対象に遠隔授業を実施
和歌山大学は、全学部の学生を対象にデータサイエンス教育を行っている。
1年次を対象とした「データサイエンスへの誘いA/B」は文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」に認定。リテラシーレベルの授業で、統計の基本的内容、エクセルなどの分析ツールを用いた統計処理、社会での活用事例などを学ぶ。
2年次に履修する「データサイエンス基礎」は、Pythonのプログラミングとデータ分析の方法を学ぶ。
「データサイエンス応用」では、テキストマイニングが中心だ。テキストの特徴抽出や分類などを、SNS、新聞記事、書籍、論文などのテキスト情報を使って行う。
これら「データサイエンスへの誘いA/B」「データサイエンス基礎」「データサイエンス応用」は、全学部を対象としており、オンデマンド型の遠隔授業で行っている。
週1回、動画を含む教材を配信。学生は1週間以内に教材を学習し、課題を提出しなければならない。
3年次「数理・データサイエンス・AI活用PBL」は、異なる学年、学部の学生が協力してデータ分析を行い発表するものだ。このほか人工知能についての講義も開設されている。
学生へのサポートには力を入れており、特に「データサイエンスへの誘いA/B」は、複数の教員(各授業3名)と、大学院生ティーチングアシスタント(各授業5~6名程度)がチームで対応する。
Microsoft Teamsを用いて、学生からの質問や相談にオンラインで対応。独自開発のLINEボットアプリも活用している。
「Teamsは自動応答機能や、質問や相談の内容(学生と教員のやりとり)をほかの受講生と共有できる機能を備えており、授業でのコミュニケーション増加につながっているようです」(和歌山大学データ・インテリジェンス教育研究部門長 吉野孝教授)
使用するデータは匿名加工済み
同学では、官公庁や企業と連携・協力して企業データなどを活用し、学生の能動的な活動を促すような取組に力を入れており、地元である和歌山市に本社を置くチェーンスーパーである株式会社オークワから、匿名加工済みの商品販売データ(POSデータ)の提供を受け、授業で活用している。
システム工学研究科及び経済学研究科の大学院生向けの「実践的データマイニング1」でも、オークワのPOSデータを活用。講義にオークワの情報分析担当者が常駐し、実際のデータ分析により近くなるようサポートする。
「実践的データマイニング2」では、地元銀行の紀陽銀行から提供を受けた匿名加工済みのデータを利用している。こちらも講義中、紀陽銀行の担当者が常駐。実際の問題解決につながることを目指したデータ分析を行う。
官公庁関連では、総務省統計データ利活用センターの協力により、公的統計データを利活用して具体的な事例をもとにした講義を行っている。
地域の生データで学生の能動的活動促す
吉野教授は「さまざまな企業や経済団体などと協働し、地域に潜在するデータなどから、教育に利用可能なリソースを発掘して、学生が触ることができる魅力的な公開資源として整備することが重要だと考えています」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年7月4日号掲載
(執筆 蓬田修一)











