【第77回】ICTキャンパス 阪南大学「ロボットで発音チェック 英語文献読解支援も」 2020年9月7日
カラオケのように英語発音を採点
大阪・松原市にある阪南大学経営情報学部・松田健准教授は、英語学習の授業で、ロボットを発音チェックに活用した実験を行い、学生にとってより印象に残る授業の展開に、効果を上げている。松田健准教授に、ロボットをどのように活用した英語学習を行っているのか話を聞いた。
実験で使われているのはCharpy(チャーピー)という英会話ロボットだ。高さ23㌢ほどで、外見はぬいぐるみのように可愛らしいが、音声認識機能を持ち、英会話の先生と直接話しているような感覚で会話練習ができる。
授業で学生は4~5人のグループに分かれ、Charpyの発音を手本に英文フレーズや単語を発音。Charpyが学生の発音をチェックする。
それとともに、各グループにおいて、発音の自己評価、および他己評価も行った。
Charpyには、専用のスマホアプリがある。今回の実験では、アプリに発音を0点から100点まで採点する機能を加えた。
発音チェックについては、例えば子音の「b」と「v」の違いを、ほかの人の発音を聞きながら、正しい発音をするため、試行錯誤しながら学習を進めた。「一般的に実験というと、データを取ることが目的になりがちですが、授業の中で行うものですから、楽しく学べる雰囲気作りを大切にしています」
グループワークにすることで、複数人が同時に発音するし、1人ずつ発音するよりも発音する際の恥ずかしさを和らげるようにした。
他の学生の発音を聞くことで、発音のどの部分が難しいのかなど、発音に対する意識付けにもなる。
「グループで学生同士、発音の注意点を、お互いの発音を聞きながら議論し、ロボットに発音を教えてもらう経験は、学生の印象に残ります」
Charpyを使った発音学習の様子
ロボットで練習して英語に自信を付ける
英語の発音チェックを行う方法は、学生が動画や音声をお手本に英語を発音し、その音声波形を評価するという方法もある。
今回、ロボットを使った理由について、松田准教授はこう話す。
「ロボットという見ることができ、触れられるものを介して、カラオケ採点のようにゲーム感覚で発音チェックすることで、学生は学習したことを記憶に残しやすくなるだろうと考えたからです」
また、ロボットを活用することで、授業自体が楽しくなった印象があるという。
「教える側がCharpyをどのように活用するかが重要になりますが、生徒・学生にとっては、いつもとは違う授業を経験できるのではないかと思います。教わる側も教える側も、クラス全体の理解度は気になるでしょうから、グループワークにすることで、どちらにとっても、得られるものが増加するのが大きなメリットだと、実験を通して感じました」
発音だけでなく、英語の授業において、ロボットをどのように活用すると、より効果的な授業が展開できるだろうか。松田准教授は次のように話す。
「一般的に、カリキュラムには、学習すべき重要事項が定められているはずですから、その授業で大切なポイントを、ロボットを通して学習することで、学習者に印象付けられると考えています」
授業すべてをロボットに任せるのではなく、ポイントを絞って、先生とロボットが協同しながら授業を展開していくことで、学習者にインパクトを与えられるのではないかという。
今後は、松田准教授の研究室において、学生が英語の論文や文献を読む際の支援ツールとして、ロボットを活用することも考えている。
「学生は、英語で発表をする機会もあります。自分の発音でも正しく伝わるかどうか、ロボットで練習することで自信をつけさせてあげたい」
学校だけでなく、学習塾でも活用できるよう準備を進めているところだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年9月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第76回】ICTキャンパス 清泉女子大学「AIクラウドサービス活用でクリエイティブ人材を育む」 2020年8月3日
VUCA時代を生きる
重要スキルを育成
清泉女子大学(東京・品川区)文学部地球市民学科の安斎徹教授ゼミでは今年6月から、クラウドサービス「AIブレストスパーク」を活用し、クリエイティブ人材の育成に取り組んでいる。
同学は、キリスト教ヒューマニズムを建学の精神とし、1950年(昭和25年)、四年制女子大学として創立。地球市民学科は、グローバルな視野と発想で、地球社会に貢献できる人材を育成している。
安斎ゼミで活用されているAIブレストスパークは、人間の創造領域において、AI技術を応用して、「発想」を支援して企画プロセスの効率化を図るクラウドサービスだ。ひらめきを支援したり、発想を刺激したりすることで、アイデアを出しやすくすることができる。
個人でもチームでも活用でき、社会課題と関連した言葉を結びつけられる。無料で提供しているスマートフォンバージョンもあり、「すきま時間」を「発想タイム」にすることも可能だ。
博報堂の独自発想支援メソッドをもとに、国内大手システムインテグレーターであるTISが共同開発。これまで企業に活用される事例は多かったが、大学での活用は今回が初。
安斎教授がAIブレストスパークを知ったきっかけは、昨年7月、日本経済新聞の記事「企画の発想 AIで支援」を読み、TISにコンタクトしたことが始まりだ。
導入した理由については、「クリエイティビティを効率的に育成できる可能性に興味を持ちました。クリエイティブであることは、正解のないVUCA時代(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)を生き抜く重要なスキルになると確信しています」と語る。
地球市民学科のゼミ生はオンライン授業でもAIブレストスパークで発想力を鍛えている
学生の企画力
飛躍的な伸びを期待
学生にAIを使いこなす経験をさせたいという思いもある。
「AI時代の到来は避けられません。そんな中、AIをやみくもに恐れるのではなく、AIを使いこなせる人材の育成が大学の責務です」
現在は、新型コロナウイルスの影響のため、オンライン授業で、AIブレストスパークを使い、SDGs(持続可能な開発目標)に関する論文コンテストなどに取り組んでいる。
「ゼミ生は、質の高い教育、ジェンダー平等の実現、働きがいと経済成長、持続可能なまちづくりなどのテーマに関心があります。そうした様々な社会的課題に対するイノベーティブな解決策を考える際に、AIブレストスパークを使うことで、学生の企画力や発想力が飛躍的に伸びることを期待しています」
開発元であるTISイノベーション事業部ディレクター長谷川剛史氏も「若い人の発想力でAIブレストスパークの新たな活用法を開拓してくれることを期待しています」と話す。
社会や企業を変える人に
安斎教授は大学教員になる前は、長年にわたって企業で働き、企画、営業、海外勤務、秘書など幅広い業務を経験してきた。こうした経験をもとに、閉塞感漂う社会や企業に、少しでも風穴を開けられるような、元気と勇気のある人材の育成が、自身に課せられたミッションだと考えている。
「AIブレストスパークでゼミ活動を行った卒業生には、『社会や企業を変える人』となって、縦横無尽に活躍してもらいたい」と話す。
今後は、(一財)学生サポートセンター主催のビジネスプラン・コンテストにも挑戦する予定だ。また、博報堂および博報堂DYメディアパートナーズの女性マーケットプランナーらが立ち上げたプロジェクト「博報堂キャリジョ研」と連携して、女性のキャリアに関する調査研究を行う計画もある。このほかサステナブルなファッションブランド「エコアルフ」との連携なども実現していく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年8月3日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第75回】ICTキャンパス 湘南工科大学「ロボティクスやIoTなど学科の枠を超えて深く学ぶ」 2020年7月13日
2年次から登録可能
意欲ある学生に人気湘南工科大学は、神奈川県藤沢市にキャンパスを構える工学部2系統6学科体制の大学だ。同学では2018年度から学科の枠を越えて、ロボティクスやIoTなどの専門知識と技術が学べる「学科横断型学修プログラム」を展開している。
同プログラムに登録している学生は、所属学科の専門分野を系統的に学びながら同時に、他学科の専門科目も履修できる。
学生は、自分が関心を持つ技術分野について、より広く、より深く学修できる。
初年度の18年度は「ロボティクス」「XRメディア」の2コースを設置。2年生38名が登録した。
翌19年度には「IoT:モノのインターネット」、「AI:人工知能」の2コースを加え、現在4つのコースが設置されている。登録学生数は59名だ。
登録は2年次から可能。1年次の修得単位数など必要条件を満たせば登録できる。
XRセンター
AIルーム
AIやIoTなど4コースを設置
各コースでは、学科や学年の枠を超えて、交流しながら自分の興味ある分野を研究できる。
同学の広報担当者は「学生は自分の興味ある分野を、より広く、深く学べます。様々な学科や学年の学生たちとの協力、交流を通じて、多くのことを吸収したいと積極的に考える学生のために設置しました」と話す。
各コースの概要は、次のとおりだ。
■ロボティクスコース
人や物質を人工衛星へ運ぶ宇宙エレベーターなど、近未来において実現が目指されているテクノロジーから、生活支援、コミュニケーションなど、多様なロボット技術を学修する。
■XRメディアコース
バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)など、リアリティを追求する技術は「XR(クロスリアリティ)」と呼ばれる。モノ、物流、医療など幅広い分野において、大きな変化をもたらすと期待されているXRの基礎的技術を学修する。
■IoT:モノのインターネットコース
IoTによって実現できる技術だけでなく、脳波、眼電位、筋電位などバイオデータの活用についても学ぶ。
■AI:人工知能コース
AIを極めるため、数学とプログラミングの技術を学ぶとともに、技術者としての倫理についても理解する。
得意な分野を教え合い
課題を解決
同学の通常カリキュラムでは、4年次に所属学科で研究室配属となり、研究が始まる。
一方、この学科横断型学修プログラムでは、2年次よりコース担当教員から指導を受け、研究にかかわることができ、学会や科学技術の啓発・普及を図る学外イベント(青少年のためのロボフェスタなど)で研究成果を発表する機会もある。
担当教員によれば、所属学科が違うため、機械に強い学生、電気に強い学生、情報に強い学生などが混在しており、教え合うことで、課題を解決していく様子が見られるという。今後も、学生の意欲に応えるかたちで、プログラムの内容をさらに充実させていく予定だ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年7月13日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第74回】ICTキャンパス 室蘭工業大学「真正性を保証した履歴書を個人が簡単に作成・発行」 2020年6月1日
NTT西日本と共同研究
室蘭工業大学はNTT西日本とともに、現在は大学に依存している個人の学位や学歴などの「真正性(※)」に関し、ブロックチェーン技術で「本人の意思によるデジタル証明書の開示/非開示の選択と自由な発行」の実現に向けた共同研究に取り組んだ。共同研究の締結期間は、2019年11月から2020年3月まで。
共同研究では、個人が場所を問わず、自分の学位や学歴などのデジタル証明書を容易に発行できる環境整備を目指した。
共同研究の結果を踏まえ、夏から、室蘭工業大学においてサービスを開始。今年中に、ほかの大学にも広げていく考えだ。
(※)真正性=正当な権限において作成された記録に対して、虚偽入力、書き換え、消去、及び混同が防止されており、かつ、第三者から見て作成の責任の所在が明確であること。
ブロックチェーン
研究の応用として
今回の共同研究が行われた背景には、近年のリカレント教育(学び直し)の高まりや、社会における人材の流動化がある。
18歳人口の減少などから今後、大学の統廃合が進むことも想定されている。こうした社会的背景の中、大学が個々で管理してきた紙や印影などによる学位証明の継続性は課題となっている。
「人生100年時代」と言われる中、大学以外の機関で証明書を発行することで、これからの多種多様な就学・就労環境に対応する新しい自己証明基盤の実現を目指していく。
室蘭工業大学はこれまで、ブロックチェーンに関する研究を進め、高度な知見を形成してきた。
一方、NTT西日本は、各種証明書をコンビニで手軽に発行できる「証明書発行サービス」を展開している。
NTT西日本をパートナーとした理由について 室蘭工業大学しくみ解明系領域 岸上順一特任教授は「自分がNTT出身であり、NTTの研究所とは5年にわたるブロックチェーン研究の積み重ねがありました。その具体的な応用として、まず足元の教育の分野で、実際のサービスを実現しようと考えたのが、今回の共同研究です。NTT西日本は証明書発行システムサービスを有していますし、何より、同社の担当者の方が熱心でした」と話した。
デジタル証明書が紙の履歴書の代わりに
今回の共同研究の内容は次のとおりだ。
①多くの人々が学び直しにより様々なキャリアを積み重ねることを可能とするため、EU一般データ保護規則(GDPR)に準拠した、個人の学位や学歴などを明確に証明していく仕組み作り
②紙の証明書の代替として、場所を問わず発行可能な国際標準の学位証明への対応
③大学の運営形態に左右されず、希望者の求めに応じ、単位や学位を客観的に証明可能な仕組み作り
将来はデジタル証明書を、今の紙の履歴書に代わる存在にしたいという。
「今回の共同研究の取組や、私の造語ですが『Learning as a Service』に向けて、リカレント教育を始めとして、教育を受けたい人が大学キャンパスや地域の制限なく、自由に勉強でき、そのことをきちんと証明できるシステムを作ることで、現在の教育システムのICT化とレベルアップを図っていきたい」と話す。
履歴書は学歴証明、職歴証明、資格証明を記述している。いずれも今回の枠組みを活用することで、真正性が保証されている履歴書が簡単に作成できるという。
今回の共同研究は、これからの多種多様な就学・就労環境に対応する新しい自己証明基盤の実現を一歩進めたと言えそうだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年6月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第73回】ICTキャンパス 慶應義塾大学「AI知識がなくてもロボット授業を展開」 2020年5月11日
「人工知能(AI)と授業」を研究テーマの1つとする慶應義塾大学理工学部の山口高平教授は昨年、教育現場に特化したAIロボット構築ツール「CLAIR」(クレール∥CLassroom AI Robots development tool、クレール)を開発した。
これは、教員1人でも、自身と複数ロボット、さらに情報機器まで連動させて授業が行えるツールだ。
2016年12月、このクレールを利用した、「人の体の仕組み」を学習単元とする理科の授業を慶應義塾幼稚舎6年生のクラスで実施。授業では、人型ロボットPepper(ペッパー)と、顔色や表情が変えられる英国製の人型ロボットSociBot(ソシボット)の2種類を利用。ペッパーは教員との掛け合いで授業を進め、ソシボットは子供たちの間を巡回しながら、復習問題を出す。私語をしている子供にソシボットが近づき、目を吊り上げて険しい顔つきをして、注意を促すこともあった。
2018年1月、東京都杉並区立浜田山小学校にでは、振り子の周期を測定する理科実験の授業で、人型ロボットNAO(ナオ)を活用。ナオとロボットアーム、センサーの3者が連携して振り子を振らせ、周期を自動測定した。複数回測定しても測定値は同じで、児童はその精度の高さに驚いていた。
ロボットを活用した授業について「ロボットの表情が変わるのでやる気が出た」など、授業が面白くなったという意見が多かったという。
実験の授業では「ロボットの正確な動作や知識量に人はかなわないけれど、ナオには感情がないし、ひらめきや発想力もないことが分かった」といった声も聞かれた。
山口教授は「ロボットとの連携は、新しい授業形態になる可能性がある」と話す。
専門知識がなくてもAIアプリケーションが開発できる教育現場に特化したAIロボット開発ツール「CLAIR」(クレール)は教員」「児童・生徒」「ロボット」の振る舞いをテキストで入力するだけで命令できる
顔色や表情が変えられる英国製の人型ロボットSociBot(ソシボット)が子供の間を巡回した
プログラミング不要
知能アプリを簡単開発
クレールは、専門知識がない人でも簡単にAIアプリケーションが開発できるツール「PRINTEPS(∥PRactical INTElligent aPplicationS、プリンテプス)をもとに開発されている。
プリンテプスは、知識推論、音声対話、人と物体の画像センシング、動作という4種類の要素知能を統合した総合知能アプリケーション開発プラットフォームだ。
プリンテプスを使えば、「教員」「児童・生徒」「ロボット」の振る舞いをテキストで入力するだけで、プログラミングを組むのは不要なため、アプリ開発の専門知識がない教員でも容易に使うことができる。
山口教授は、「人間とAIの協働を実現させるには、現場で働く人、つまりエンドユーザーが、AIを使いこなすことが必要です。プリンテプスは、設計段階からエンドユーザーが参加して、知能アプリケーションを簡単に開発できることを目指しました」と話す。
ロボット参加でグループ討論が活性化
児童数名のグループ討論にロボットを参加させ、グループ討論を活性化させる研究も進めている。
2018年12月、地球温暖化に関するグループ討論に、コミュニケーションロボットSota(ソータ)を参加させた。
児童がソータに質問してソータが答えたり、発言が少ない児童にソータが発言を促すこともあった。
「ソータが媒介となってクラス全体が活性化する教育効果が生まれていました」と話す。
現在は、クレールの全国普及に向けて、小中学校教員などを対象にしたセミナーなどを実施している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年5月11日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第72回】ICTキャンパス 中央大学「警視庁、メルカリ、LINEとサイバーセキュリティ人材育成」 2020年4月6日
産学官の強み持ち寄り相乗効果
中央大学は、警視庁サイバーセキュリティ対策本部、LINE、メルカリと「サイバーセキュリティ人材の育成に関する産官学連携についての協定」を2019年12月に締結した。
政府が提唱するSociety5・0の実現のためには、AIやITの技術だけではなく、それを扱う人材のリテラシー向上が不可欠だ。警視庁も、サイバーセキュリティの知識・技能を有した人材の育成は急務としている。
今回の協定によって、産学官それぞれの強みを活かしながら、サイバーセキュリティの脅威への対処能力を備えた人材を育成していく。
「『官』の強みである犯罪捜査及び犯罪情勢に関する知見、『学』の強みである学術研究に関する知見、『産』の強みである情報通信技術やリテラシー教育に関する知見を、それぞれ持ち寄ることで、人材育成に対する相乗効果を発揮させ、サイバーセキュリティの脅威への対処能力の向上を目指します」(中央大学広報室)
「サイバーセキュリティ人材の育成に関する産官学連携についての協定」締結式。
右から2人目が中央大学の福原紀彦学長
教育・サービスの主な対象が共通
今回の協定相手であるメルカリは、青少年や教育関係者向けに、ネット取引や個人間商取引、お金の管理などに関する講演活動を継続して行っている。
ネットによる個人間商取引に関するネットリテラシー教育プログラムも開発し、学校の副教材として活用されている。
また、LINEは、青少年の情報リテラシー・情報モラルの向上などを目的とした啓発活動に力を入れ、これまで全国で約1万回の講演活動を行っている。
「メルカリは、ネット取引や個人間商取引に取り組んでおり、LINEはネットリテラシー啓発活動に注力しています。両社とも本学の志向に合致しており、また、三者ともに青少年が教育・サービスの主な対象という共通点があります。今回の連携によって、人材育成に対する相乗効果を発揮させていきたいと考えています」
生活環境が激変する新入生に向けて
まずは新入生に向けて、リテラシー教育を行っていく。
「新入生は、大学入学を機に生活環境が大きく変わります。ひとり暮らしを始めたり、アルバイトを行う学生もいます。2022年度からは、成人年齢が引き下げられるという社会的な変化もあります。まずは、こうした生活を取り巻く大きな環境の変化という背景も踏まえて、SNSやフェイクニュースなどに対するリテラシー教育を行っていく予定です」
ほかにも、大学生向けリテラシー教育ハンドブック作りへの学生参画、関連講座の実施、ゲストスピーカーの派遣などを計画している。
リテラシー持つ人材を全学規模で育成
2019年4月、「情報の仕組みと情報の法学の融合」をテーマに、国際情報学部を新設した。文系学部でありながら、基礎的な「情報の仕組み」を学びつつ、中央大学の強みである法律学を基礎とした「情報の法学」も学べるのが特色だ。
2023年には、法学部を都心(東京都文京区)に移転する計画で、法科大学院との連携による教育体制をより一層充実させていく。
今後は、今回の協定携を踏まえ、国際情報学部だけでなく、全学規模でAI・通信技術やデータサイエンスを扱うリテラシーを備えた人材育成に取り組んでいく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年4月6日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第71回】ICTキャンパス 筑波大学「データサイエンス 全学生が必修 国内初」 2020年3月2日
国内初の取組 世界でも先駆的
筑波大学は、2019年度以降に入学したすべての1年次学生(約2100人)を対象に、必修科目「データサイエンス」を開講している。
幅広い領域の学部を擁する大規模総合大学において、すべての学生が必修科目として、講義形式とコンピュータ演習を組み合わせてデータサイエンスを履修するのは、同学によると、国内初。世界的にも先駆的な取組だと言う。
必修科目「データサイエンス」は50クラスを開講。同学情報学群を中心とする教員が授業を担当する。
授業では、コンピュータを1人1台で利用できる環境を整えている。
「データサイエンス」は全学生が必修。50クラスを開講している
基礎的技術から活用事例、倫理観まで
授業で扱う内容は、主に次の3点だ。
▼統計学およびデータ工学に基づく、コンピュータを利用したデータの収集、管理、可視化、分析に関する基礎的な技術の習得 ▼データサイエンスにおける人権の考え方やプライバシー保護など、データを扱う上で必須となる倫理観の学習 ▼介護・医療、生命、芸術、体育、人文、数学など各分野におけるデータサイエンスの活用事例。
活用事例はビデオ講義で学習。IoT、サイバーフィジカルシステム、人工知能など高度な情報技術を紹介している。なお、これらのビデオ講義は、オープンコースウェアとして一般にも公開されている。
多様な背景を持つ学生への動機付け
カリキュラム作成にあたり、大規模総合大学ならではの課題もあった。
同学「情報」推進室長を務める佐久間淳教授は「筑波大学は人文・理工から体育・芸術まで幅広い専門分野を学ぶ学生が在籍していますが、データサイエンスを学ぶ必要性を必ずしも感じていない学生が多くいると考えられ、多様な背景を持つ学生にデータサイエンスを学ぶ動機を与えることが課題でした」と話す。
そこで、スポーツ、介護、生命、メディアアート、人文学、数学の各分野において積極的にデータを活用した研究を行っている教員が、データサイエンスの重要性を啓蒙するビデオ講義を作成。
初回の授業において、学生の背景に応じてアラカルト形式でビデオを視聴してもらい、データサイエンスに興味を持ってもらえるよう工夫した。
教育効果を検証 人材育成に役立てる
同学は2019年度から3年間にわたって、必修科目「データサイエンス」の教育効果について調査していく考えだ。
調査内容は、授業の履修前後における、データサイエンスに関する基礎的知識の理解度や、データサイエンスを学ぶ動機の変化などを予定している。
およそ2100人に及ぶ様々なバックグラウンドを持つ学生の調査結果が得られることから、データサイエンスの教育効果を高める要因についての知見が深まることを期待している。
調査結果は学外とも共有し、日本におけるデータサイエンス人材育成の推進に役立てていく予定だ。
佐久間教授は「データサイエンスに主体的に取り組んでもらうためには、生きたデータを活用した実習課題を用意することが重要です。今後は、様々な専門分野を志す学生の興味に合わせたデータと実習課題を作成していければ」とこれからの展望を話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年3月2日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第70回】ICTキャンパス 法政大学 キャリアデザイン学部「キャリア教育で動画を制作 大学版YouTubeも構築」 2019年12月3日
2~3分の動画作品で自分自身を語る
法政大学キャリアデザイン学部 坂本旬教授は、デジタル・ストーリーテリング(以下DS)を導入し、留学生を含めた他者の理解促進や、学生間における豊かな人間関係性の創出という効果を生んでいる。
DSとは、静止画とナレーションを組み合わせた2~3分程度の動画作品のこと。自分自身を語る表現方法として、各国の学校で使われている。DSを導入した理由について、「自分の物語を作品にすることから、キャリア教育に適していると考えました。とりわけ入学したばかりの学生にとって、何のために大学に入ったのか、これから何をしようと考えているのか、自ら振り返る契機になります」と話す。
DS制作が留学生と理解し合うきっかけに
「なかには人前で話すことが苦手な学生もいる。しかし、DSはプレゼンテーションではない。人前で話せなくても制作できる。目立たずほとんど話さない学生が、素晴らしい作品を作った事例はたくさんある。」日本人学生がDS制作を通じて留学生と理解し合うきっかけになったり、DS制作の過程で先輩が後輩を支援することも珍しくない。
「大人数講義で発表会をすると、教室は静寂と熱気に包まれます。DSの効果を実感する場となります」
各自のDSを上映。会場は静寂と熱気に包まれる
大切なのはメッセージ
DS制作は、基本的にはスマートフォンを使う。実践を始めた2012年頃はiPhoneのiMovieが有料であったり、Android環境においては適当なビデオ編集ソフトがなかったりで、実践には苦労した。
「今ではほとんどの学生がスマホを持っているため、技術的な支援はほぼ不要になりました。もちろん、チャレンジしたい学生にはPCでの制作も奨励しています」
どのような内容でDSを作ったらいいか分からない学生も多い。
「よくある質問は、作品にするような体験をしていないので、何を描いたらいいのか分からないというものです。そういうときは、みんなに伝えたいことをテーマにするように伝えています。その結果、学生たちは本当にいろいろな作品を作るようになりました。DS制作で大切なのはメッセージです」
動画で国際交流
以前は「キャリアデザイン学入門」でDS制作を行っていたが、現在は映像制作を専門にする「メディアリテラシー実習」や、3・4年で履修する「キャリア総合演習」などで行っている。
「キャリアデザイン学入門でDS制作を行わなくなった理由の1つは、DS制作の経験がない教員にとって、指導が難しい面です。教える側を対象としたDS制作のワークショップや研修が必要だと感じています」
動画を共有するためのビデオサーバーも課題だ。「最初に使ったシステムは、動画共有に向いているとは言えませんでした。そこで、法政大学情報メディア教育研究センターに、ビデオ共有システムOATubeを開発してもらいました。大学版YouTubeと言えるものです」
OATubeは、国内外の小中高等学校や大学間の国際交流にも活用されている。日本語を学ぶ中国の大学生にDS制作を指導したり、坂本教授のゼミ生が、カンボジアの大学生のDS制作を支援したこともある。今後は、ユネスコや世界的な国際協働学習ネットワーク団体iEARNと協力しながら、動画による国際交流プロジェクトを進めていく考えだ。
中国やカンボジアでもDSを制作している
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年12月3日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第69回】ICTキャンパス 東京国際工科専門職大学 「知識」と「実践」の双方備えたデザイン思考の「統合人材」育成 2019年11月4日
600時間を超える企業内実習が必修
東京モード学園やHAL東京などを運営する学校法人日本教育財団は「東京国際工科専門職大学」を、2020年4月に開学する。
学長には、元東京大学総長の吉川弘之氏が就任。校舎は、東京・西新宿の新宿コクーンタワーに置く。
専門職大学とは、2019年4月から開設された新しい学校制度。主に知識・理論を教育する大学と、技術の習得に力を入れる専門学校それぞれの長所を取り入れたカリキュラムで、特定の職業分野におけるプロフェッショナルとなる教育を行う。大学制度としては、55年ぶりの新設となる。
東京国際工科専門職大学は、「情報工学科」「デジタルエンタテインメント学科」の2学科で構成。
情報工学科は「AI戦略コース」「IoTシステムコース」「ロボット開発コース」の3コース。超スマート社会「Society5・0」(「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」に続く人類史上5番目の新しい社会)において、社会的課題を解決できるリーダーを育成する。
デジタルエンタテインメント学科は「ゲームプロデュースコース」「CGアニメーションコース」の2コース。2020年の5G商用化にともない、最新デジタル技術を応用し、インタラクティブなゲームやデジタル映像を生み出せる人材を育てる。
学内には、AI、VR、3Dプリンター、産業用ロボットなどに関わる最先端のハード・ソフトを準備してプロと同等の制作・開発環境で学べるようにする。従来のインターンシップとは異なり、学生の目的を明確化した上で600時間以上の企業内実習を必修とした点も、カリキュラム上の大きな特徴だ。
これにより学生は、企業ニーズに即応できる力を身に付ける。提携先には、米国スクウェア・エニックス、バンダイナムコスタジオ、チームラボなどグローバルなトップ企業も含まれる。
吉川弘之学長
社会を変革できるデザイン思考を育む
9月25日、新宿コクーンタワーで開学発表会が開催された。
学長の吉川氏は開学の趣旨について「世界に向けて、環境問題や国際関係など地球全体の課題に対し、主体的にアイデアを生み出し解決できる人材を育成するため、本学が設立された。従来の大学は体系化された知識を学び、専門学校は実践を交えてテクノロジーを学ぶというように、現在、両者は分化しているが今後は、両方を兼ね備えた『統合人材』を育成する必要がある。自ら考えて行動する『デザイン思考』で社会を変えていける人材--デザイナー・イン・ソサエティの育成に注力していく」と語った。
当日は「テクノロジー時代の教育」をテーマに、トークセッションも実施。セガゲームス代表取締役社長の松原健二氏は「小学生のうちはゲームクリエイターがなりたい職業のトップ10に入っているのに、大学生になると、手堅い職業を目指す人が多い。デジタルコンテンツ業界にとって、良い人材を育成するには、小さい頃の『熱中』をどう維持していくかが重要」と話した。
ユカイ工学代表の青木俊介氏は「ロボットや工学を学ぶ教育機関は、知識を学ぶ大学と、実際に手先を使う高等専門学校や専門学校が分化している点が課題」と話し、東京国際工科専門職大学の教育に期待をかけた。
トークセッション。右からセガゲームス松原健二氏、吉川学長、ユカイ工学青木俊介氏、
モデレーターの中谷日出氏(東京国際工科専門職大学教授)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年11月4日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第68回】ICTキャンパス 早稲田大学「ブレンディッド・ラーニングで 学習効果を高めるICT活用」 2019年10月14日
学習支援やラポール形成が重要
近年、注目されている手法に、対面授業とオンライン学習とを組み合わせた「ブレンディッド・ラーニング」がある。戸田貴子教授(早稲田大学国際学術院大学院 日本語教育研究科)は、日本語教育においてブレンディッド・ラーニングによる音声教育を実践している。
「私たちが考えているブレンディッド・ラーニングとは、学習効果を最大限に高めるためにICTを活用し、多様な方法を適切に組み合わせた正規の授業であり、通信教育や遠隔教育とは根本的に異なるものです」と語る。
実践を通して、学習者の学習意欲の維持と学習の継続には次の4点が重要だという。▼動機付け ▼意識化 ▼学習管理と自律学習 ▼学習支援とラポール(信頼関係)形成
「『動機付け』『意識化』は従来型の対面授業でも重要ですが、『学習管理と自律学習』『学習支援とラポール』はICTを活用した教育だからこそできることが多いと考えています」
「なめらか!発音3-4」授業の全体構造。
ICTを活用しながら、学習者に寄り添った授業づくりがなされている
主体的学びを生み出す仕組み作り
戸田教授の授業「なめらか!発音3-4」は、5週目までは対面授業、6週目以降10週間はオンライン授業だ。学習の流れは次の通り。
①教科書の学習 ②オンデマンド講義の視聴 ③シャドーイング素材の練習 ④「Japanese Pronunciation for Communication」の学習 ⑤「発音BBS」への書き込み ⑥「発音チェック」の提出
学習者は対面授業終了後、自律的にオンライン学習を続ける必要がある。そのため、戸田教授の授業では、学習者の学習意欲の維持と学習の継続を促す工夫をしている。
「一方向的な講義を視聴しているだけでは、発音は改善されません。学習者自身が何度もモデル音声をリピートするシャドーイング練習や、BBSで意見交換するなど、主体的な学びを生み出す仕組みを作り、運用しています」
「Japanese Pronunciation for Communication」とは、戸田教授らが開発した教育コンテンツで、グローバルMOOC(大規模公開オンライン講座)のedXにおいて、世界中の日本語学習者・日本語教育関係者に向け、2016年11月から無料配信されている。
「Japanese Pronunciation for CommunicationはグローバルMOOCにおいて、現在、唯一の日本語教育関連講座です。また、グローバルMOOCを教室活動に組み込んだ事例は、管見ではほかにありません」
総登録者数は、世界およそ170国・地域から5万3913人にのぼっている(2019年9月12日現在)。
ICTを活用して学習者間で相互評価
「従来の対面授業にでは、教員は教手として、学び手である学習者を指導する意識を持つことが多かったのですが、ブレンディッド・ラーニングを通して、様々な教育のあり方、学びのあり方を考えるようになると思います。これは、教育の改善のために重要です」と、ブレンディッド・ラーニングの導入によって、教師の教育観が変わる可能性を示唆する。
今後の課題は、学習者間のインターアクション(相互的なやり取り)を活性化させるためのICT活用だ。
そのひとつに学習者相互による評価がある。すでに、Japanese Pronunciation for Communicationの相互評価に継続参加した受講者は、具体性の高いコメント(問題点、修正方法の指摘)を継続して書く傾向が見られるなど、検証も進みつつある。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年**月**日号掲載
(執筆 蓬田修一)














