【第98回】ICTキャンパス 北海道大学大学院「企業と連携してAI研究 成果を社会に還元する」2022年6月6日号掲載
北海道大学大学院情報科学研究院 川村秀憲教授は、企業などと連携して人工知能(AI)に関わる研究を行っており、研究成果を活かした地域創成も推進している。
その背景について川村教授は「もともと工学に関する研究は最終的に社会実装し、社会の役に立つことで初めて評価されるものと考えていました」と話す。
近年のAI分野の研究では、アメリカ主導の傾向が加速している。さらに、研究成果はソースコードまで公開されていることも多い。
川村教授もGoogleが作ったディープラーニングのプラットフォームや公開データを使い研究を進めることがある。しかし、そうすると公開されたソフトやデータに、少しだけ自分たち独自のものを付け加えて研究を進めることになる。
北海道大学を始めとした多くの大学は、自前のデータや実装先は持ちあわせていない。そのため、川村教授は大学の研究室が独自の研究を行うためには、企業や地域との連携が不可欠と考えている。
「企業からデータや課題をいただくことで、大学の研究室では思い付かなかった研究成果が出ることもあります。これは工学研究を進める上で、学術的にも意義深いものとなっています」
学術研究だけでは存在意義が問われる
これまで、多くの産学連携による共同研究を行ってきた。その中から3つの事例を紹介する。
AIを搭載した歩行器
介護現場の負担軽減を目指し、自律走行可能な歩行器を開発。歩行器の前方に取り付けたステレオカメラの画像をAIが処理し、対象物との距離を測定することにより空間を認識する。
さらに、シングルボードコンピュータ(一枚の基盤に必要最小限の部品を付けたコンピュータ)を搭載して、歩行器の自律走行を実現させた。これにより、介護者が歩行器を利用者のところまで運ぶ負担が軽減される。
また、小型タブレットを搭載し、目的地への経路を利用者に提示する機能も持つ(札幌に本社を置く株式会社サンクレエとの共同研究)。
AIで乗客の行動を把握
バス車内の状況や乗客の行動をリアルタイムで検知し、安全で快適なバスの運行に役立てる。
車内に設置したカメラで収集した車内画像を、ディープラーニングで学習したモデルを使用して、乗客の不用意な行動をリアルタイムで検知し、注意喚起を行う。
また、スーツケースの有無などの判定により、海外旅行客が乗車したと認識した場合は、車内アナウンスを日本語のほかに英語や中国語などでも自動的に流す(札幌に本社を置く株式会社シーズ・ラボとの共同研究)。
●AIによる競輪予想記事の自動生成
AIが競輪レースの結果を予測し、予想記事を自動生成する。
過去のレース結果と選手情報から、ディープラーニングでレース結果を予測。さらに、AIが出した予測や判断結果を組み合わせることで、文章テンプレートに「選手名」や「予測順位」を当てはめ、自動で予想記事を生成する。2018年10月からAI競輪予想サービス「AI競輪」として実用化している(東京・五反田に本社を置く株式会社チャリ・ロトとの共同研究)。
「大学はこれまでのように学術的な研究を追求するだけでは存在意義が問われる時代になっています。国からの予算だけではなく、産学連携やスタートアップの創出を通して自前で研究費を稼ぎながら、幅広く基礎研究から応用研究までをカバーし、その成果を社会に還元する循環を作る必要があります」
こうした循環をとおして、大学、地域、企業、社会がともに良い方向に向かうエコシステムを構築していく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年**月**日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第97回】ICTキャンパス 京都先端科学大学「製造現場の課題解決産業界とともに発信」 2022年5月6日
世界水準の実践力 備えた人材を育成
京都先端科学大学(KUAS)は経済経営学部、人文学部、バイオ環境学部、健康医療学部、工学部の5学部11学科と5研究科を擁する。社会科学、自然科学、人文科学を網羅し、文系・理系という学問の枠にとらわれることなく、社会を生き抜くために必要な力の育成に力を入れている。
運営するのは学校法人永守学園。理事長は日本電産の創業者で、現在は代表取締役会長の永守重信氏だ。
永守氏はかねてから、日本の大学は、卒業後すぐに社会で活躍できる素地が身に付く教育システムになっておらず、世界水準の実践力を備えた人材がなかなか育たないことに危惧を感じており、そういう大学を自らの手で作らなければならないという信念で大学経営に参画したという。
ものづくりDXラボ 民間会社と設置
KUASは2021年9月、デロイト トーマツコンサルティング合同会社(DTC)との共同施設として、ものづくりDXラボ「The SmartFactory @Kyoto」を京都太秦キャンパスにオープンさせた。
これは、DTCと同年2月に締結した、産学連携を推進する包括連携協定に基づき設置されたもの。125㎡の広さで、ものづくりDXに必要な実践的知識と体験を得るための環境を整えている。
「製造現場が抱える課題としては、熟練工の経験への依存、紙による情報管理などがあります。そこでThe SmartFactory @Kyotoは、こうした課題を解決させていくと同時に、学生、研究者、産業界が交流し、人づくり・モノづくり・仕組みづくりを実践し発信するプラットフォームとして設立しました」(京都先端科学大学研究連携部 研究・連携支援センター)
本施設は「ショーケースエリア」と「イノベーションエリア」の2つのエリアから構成。
ショーケースエリアは「Factory Connectivity」をテーマに、帳票電子化、設備稼働管理、AR活用などに関するソリューションを展示。DXにより何が起こるのかについてデモンストレーションを通して体験することができる。
イノベーションエリアは、ショーケースエリアで体験したDXを、どのような戦略やシステムで進めたらいいのかについて、ロールプレイを含めたワークショップなどで提供している。
ものづくりDXラボをオープン
DXの知識だけなく現場の実態が学べる
KUASでは「デジタル技術を応用したDXを単なる知識として習得するだけではなく、生産現場におけるデータのデジタル化、可視化、さらにデータ分析による現場改善などと連携させて学ぶことができるのが本施設の特徴です」と話す。
一例として、22年度から工学部で開始予定の「キャップストーン・プロジェクト」がある。
これは、1、2年次で身に付けた基礎学力、専門基礎力、課題解決力を、専門知識を学びつつ、企業現場の課題の解決を通して実践していくという、従来の卒業研究に代わる新たな教育の形である。
そのうち一部の課題において、本施設に設置されているDX機器やその要素技術を活用して、DTCおよび協力企業から提示された課題に取り組むことを計画している。
工学部以外でも幅広く活用していく計画で、歴史学科では既に、産業史を学ぶ学生が現代のDXについて知見を得るために本施設を利用している。
また、産学連携によるものづくりDXを推進するため、DTCのスペシャリストによるワークショップも試行的に実施。今後は、KUASとDTCの合同講師陣によるセミナーなども実施する計画だ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年5月6日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第96回】ICTキャンパス ビジネス・ブレークスルー大学「16年間の学習データをAI分析 学生の夢の実現を支援」 2022年4月4日
100%オンラインでMBA・学士取得
ビジネス・ブレークスルー大学(以下BBT大学)は、日本初の100%オンラインで経営管理修士(MBA)が取得できる経営系専門職大学院として、2005年に開学した。10年には経営学部を設置。22年2月現在、修士課程は1462名の修了生を、学士課程は618名の卒業生をそれぞれ輩出している。
学士課程のカリキュラムは経営・デジタル技術・英語コミュニケーション・リーダーシップを中心として、今までの常識が通じない答えのない時代、デジタル化が急激に進む時代に活躍できる力が得られるように構成されている。
同学を運営するのは、株式会社ビジネス・ブレークスルー。経営コンサルタントの大前研一氏がグローバル環境で活躍できる人材の育成を目的として1998年に設立。大学、大学院、起業家養成プログラム、ビジネス英語、経営者向け勉強会など、多彩な教育プログラムを提供している。
大量データを解析する教務AI「BioLa」
オンラインで教育が展開されているBBT大学は、教育現場のDXが進んでおり、日々大量の学習履歴データが発生。それを適切な学生支援を行い続けるためには日常的に大量のデータと向き合い、横断的かつ多角的に状況を分析し続ける必要がある。人間の処理能力を超える大量のデータ処理は大きな負担となっていた。
同時に、データの増加により、分析頻度の減少や分析範囲の縮小傾向による適切な支援タイミングの喪失、データ分析の属人化などといった「情報のオーバーフロー現象」が新たな課題となる可能性があった。
そこで、AI・データサイエンティストのプラットフォームを運営する株式会社SIGNATEと共同で、教務AI「BioLa」を開発した。
BioLaがこれまでBBT大学に蓄積してきた過去16年分の学習データを機械学習することで、学生一人ひとりの学習状況を分析して課題解決の支援を行う。2021年度にテスト運用を行い、22年度から本格運用していく。
BioLaで学習状況を分析
解析結果を活かして学生サポートを最適化
BioLaは、学生の授業への出席状況、学習リアクション(他の学生の発言に対する「いいね!」、講義映像へのフィードバックなど)、演習課題や試験の点数などといった要素を、AIを用いて解析。学生がつまずきやすいタイミングとその原因の推定、カリキュラム改善、講義の改善等につなげる。このままのペースで卒業できそうかどうかの早期予測も可能になる。
BBT大学副学長の宇田左近氏は「本学の学びでは学生同士、あるいは教員と学生の双方向のコミュニケーションをベースに、常に『自分だったらどうするか』が問われ、まわりの学生や教員から建設的なフィードバックを受けながら成長する機会があり、学生の入学前と卒業後で明らかな変化(デルタ)があります。一人ひとりが自分のキャリアを切り開き、そしてこのデルタを自信として、自分の求める夢を実現してもらいたいと考えています」と話す。
BioLaの活用によって、学生の夢の実現をさらにサポートしていく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年4月4日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第95回】ICTキャンパス 敬愛大学「AIで授業の振り返りを分析 自ら成長し続ける人材育成へ」 2022年3月7日
学生の気付きや成長を「見える化」する
敬愛大学(千葉県千葉市)経済学部経営学科の彌島康朗教授(ビジネス・キャリア教育)は、授業において独自開発したAIテキスト分析ツール「TIARA」を活用し、学生の気付きや成長の「見える化」に取り組んでいる。同学の「TIARA」活用について聞いた。
AI活用で分析時間が30分の1
近年はアクティブラーニング型のキャリア教育においても、多様な手法や教材が提供されるようになってきた。しかし、学生は授業で何を学んだのか漠然としたままの状態で終わることも多いという。そこでTIARAを活用。活発な議論や立派な成果物だけでなく、取り組みにも光を当て、プロセスの可視化・共有を重視して、やりっ放しを回避している。
授業後は学生が授業での取組を振り返り、リフレクションシート(振り返りシート)に具体的な言動や気付きを記入。TIARAで分析している。
AIの活用で分析のブレが最小限に抑えられ、分析作業時間もこれまでに比べて30分の1程度にまで減少した。
分析は、時系列、学生の属性、受講期間、教材や講師の別を軸に行う。
最近はGPA(Grade Point Average 履修科目1単位あたりの成績平均)との比較や、アクティブラーニング受講率との比較も行っている。
分析によって明らかになった自他の取組や気付きを学生にフィードバックすることで、学生はこれまで以上に、具体的な振り返りができるようになってきた。
「TIARA」導入による分析・活用フローの例
分析結果を左右する振り返りテキストの質
分析結果やその活用にとって大きな影響があるのは、分析手法のみならず、振り返りから得られる分析データの「質」だ。
そこで、リフレクションシートの質問形式や表現、記入欄の配置やスペースなどを試行錯誤。授業で取り組んだ事実とその結果との因果関係や、そこから得た気付きを引き出しやすくした。
個人のみの振り返りは独りよがりに、内向きになりがちだ。そのため、ほかの学生の振り返りも共有できるようにし、自身の振り返りの参考になるようにしている。
フィードバックは教員の説教より効果的
分析結果を学生にフィードバックすると、自分の取組が見てもらえていると安心するようだ。
また、ほかの受講生の取組からも刺激と気付きを得られるようで、その後の取組姿勢に変化が生じることが少なくない。学生の意識や姿勢を変えることにおいて、教員の説教やアドバイスより影響力がある。
プロセスを振り返り、結果との因果関係を推察する過程で得た気付きを可視化して、意識することが大切。そうすることで、変化する環境においてもチャンスを見出し、前例にとらわれず試行錯誤し、可能性を追い、自ら成長し続ける姿勢が育まれる。
TIARAの活用は、そのような人材の育成にとって大きな力となっている。今後は、TIARAの活用を通じて、不器用でアピールが苦手なために見落とされがちな中間層の学生も拾いあげていく。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年3月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第94回】ICTキャンパス 創価大学・通信教育課程のオンライン学修 試験前に「顔認証」試験中も「顔確認」 2022年2月7日
コロナでICT化を前倒し実施
創価大学の通信教育部は1976年に設置。現在は経済学部、法学部、教育学部、文学部の4学部を擁し、約6700名の学生が学ぶ。
学生の年齢層は20代から90代までと幅広く、50代と60代がボリュームゾーンだ。居住地も関東・東京を中心に全国に及び、海外在住の学生もいる。
2014年頃までは、郵送や集合授業といった従来型のアナログな学修環境での通信教育が行われていた。
その後、受講者の経済的および時間的な負担の軽減を目指し、学修環境のICT化を進めた。
当初の計画では、23年度にオンライン授業のライブ配信や、本人認証システムを実装した上でWeb試験の全面実施を目指していた。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、計画を前倒し。一気に進めることとなった。
新型コロナ感染が拡大中の20年4月、導入しているLMS(=Learning Management System学習管理システム)運用会社と検討し、同年5月からシステム開発をスタート。
現在、以前は会場で行っていた試験を、本人認証システムを備えたWeb試験に切り替えるとともに、授業が始まる前やレポート提出時も、本人認証の仕組みを実装させた。
夏と秋に行っていた対面によるスクーリングは、Zoomで実施するようにし、完全オンライン化している。
試験前に顔認証で本人確認を行ってから試験を開始する
Web試験
学生はAIで本人確認
同学では試験開始時の本人確認を「顔認証」、試験中の本人確認を「顔確認」と呼んでおり、この2つの仕組みを実装した。
学生は受験時、自分が使っているPC、タブレット、スマートフォン等のカメラで顔を撮影して外部のAPI(=Application Programming Interface)の顔認証システムに送信。事前に登録してある顔写真との一致率をAIが算出し、クリアして初めて試験を開始できる。
一致率の設定は、おおよそ90~95%だ。設定基準値より低い場合、学生は受験開始のボタンを押すことができない。
試験中も随時、「顔確認」によって本人確認を実施。「顔確認」の頻度はサーバの負荷を踏まえながら定期的に実施している。
学生と教員一丸でオンライン化を推進
課題は、Webベースで試験を実施しているため、学生側のIT環境に依存せざるをえない点だ。
その対応として、サーバ上に定期的に学生の答案データをバックアップし、不具合があればバックアップされた答案を使用することにしている。さらに、学生側におけるバックアップ機能の追加を計画中だ。
学生へのサポート体制も強化している。マニュアルの配布やガイダンス映像の配信を行うとともに、PC操作に関するコールセンターを設置した。
小澤潤副部長(通信教育部)は、「本年度については、ほぼ問題なく運用できています。これで本格的オンライン化への基盤は整ったのではないかと思っています。幅広い年代の学生が在籍していることもあり、なかにはオンライン化への対応が苦手な学生や教職員もおりますが、コロナ禍という事態のなか、皆がやらなければいけないという意識に立って進めることができた意義は大きかったです」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年2月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第93回】ICTキャンパス 立命館大学「土木教育からイノベーション 社会課題を解決する仕組みへ」 2022年1月1日
求められているのはリーダーシップ力
立命館大学 理工学部の笹谷康之准教授は、CAD、地図、まちづくり、教育支援などの専門家とチームを組み、土木教育の変革「4D for Innovation」に取り組んでいる。
笹谷准教授は「日本の大学における土木教育は、縦割りの弊害などから、イノベーションに対応できにくく、実際の現場で戦力になりにくい学生を育てている側面がある」と話す。
一方『土木学会誌』21年5月号によるとアメリカでは、第一線で活躍している土木技術者が仕事において重要だと考えているものは、自分自身の技術力がわずか15%。85%は他者の技術力を統合するリーダーシップ力であった。
大学教育においても教室内外におけるPBL(Project Based Learning、問題解決型学習、課題解決型学習)や、インターンシップの活動に力を入れている。
こうしたアメリカの土木教育などを踏まえ、笹谷准教授は「イノベーター学生」を育成していくことを提唱し、次の4点の重要性を唱えている。
①理工学系の分野横断的な教育、学科横断授業
②他の学問との分野横断的な教育
③地域の産官学民金との連携やPBL
④大学間の連携
アメニティ・インフラ
創出してまちづくり
イノベーター学生を育成するため、笹谷准教授らは「3つのインフラ」の創造を提唱する。
1つは、現実(3D)における土木施設である「元祖インフラ」、2つ目が3Dに時間軸を加えた4Dの「サイバー・インフラ」、3つ目がこれら2つのインフラを統合させた「アメニティ・インフラ」だ。
「アメニティ・インフラとはゲームなどによって、まちづくりやコミュニティを創出すること。これを最終的な目標とし、EdTech(テクノロジーを用いて教育を支援する仕組みやサービス)と、リアルなまちづくりを組み合わせたようなものをイメージして4D for Innovationに取り組んでいます」
いまはなき膳所城の復元VR制作に挑戦
4D for Innovationとは具体的にどのような取組か。
2018年、本格的な3D―CAD教育を開始。以降、プレゼンのためのポスターやアニメーションを3D制作が始まり、21年には、かつて琵琶湖のほとりに建っていた膳所城(ぜぜじょう)の復元VR制作に着手。3Dに強い宮大工から支援も得、移築された現存物などから城門をモデリングした。21年度中には本丸のモデリングも終える計画だ。
学生たちは復元VRの制作だけでなく、城を活かしたまちづくりにも取り組む。また、関連Webサイトの構築、SNSでの発信と交流を行い、クラウドファンディングによる資金調達の準備などもしている。
制作した膳所城のVRを体験
社会課題を解決するエコシステムへ
22年度には、学生が作った3D、4Dのサイバー空間の中で、学生自身がアバターとなって活動する予定だ。
サイバー空間で、まちの観光ガイドや、避難誘導などといった安全・安心のための情報提供、多世代の交流などを行い、「アメニティ・インフラ」へと発展させていこうというものだ。
土木を学ぶ学生だけでなく、理工学部の全学科、全学年を対象にPBLとして行っていく。
さらには、世界800万人が編集に携わり、世界でもっとも多くの人が利用しているといわれる地図「Open Street Map」が、現状の2Dから3Dに向かう中で、学生がこの編集に参加してリードできることを目指している。
MEXCBTとも連携視野に
笹谷准教授は「学習eポータルや、文部科学省のCBTシステムMEXCBT(メクビット)とも連携させて、小中高生も参加できる社会課題を解決するエコシステムの構築を目指したい」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年1月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第92回】ICTキャンパス 東京工科大学「東京ゲームショウに15年連続で参加」 2021年12月6日
東京工科大学(東京・八王子市)メディア学部は、「東京ゲームショウ(TGS)2021オンライン」に出展。VR(仮想現実)空間でイベントが体験できるSNS「cluster」上にゲーム7作品を発表した。TGSには07年に国内4年制大学としては初出展。以後、15年連続で参加している。
同学部は1999年に日本初のメディア関連学部として設立。3つのコース専攻「メディアコンテンツ」「メディア技術」「メディア社会」があり、最初に全学生が技術中心の基礎科目を身に付けてから各分野へ進み、ゲーム産業やゲームを活用した様々なイノベーションにかかわる研究を推進。さらに先端的な内容を扱う専攻授業もある。
映像作品を制作・編集する「V-Room」、作曲や音響用の専用機材がある「S-Room」、音・映像・CGなど各メディアを統合編集できる「MA-Room」や18台の専用カメラがあるDMCスタジオなど各種施設も充実。
10年からは世界規模のゲーム開発ハッカソン「グローバルゲームジャム」の国内会場の1つとして、学生がプロとチームを組んでゲームを制作する実学の場となっている。
学生はTGSのVR空間でイベントが体験できるSNS「cluster」上にゲーム7作品を発表した
プロジェクトベースで3年間の成果を発表
TGSで発表した作品は、メディア学部「プロジェクト演習」の成果。3年間で、専門的な内容をプロジェクトベースで学ぶもので、成績は半期ごとに採点するが、通常授業のように半期だけで終了するのではなく、長いスパンのプロジェクト目標に対して、他の講義科目で得た知識も活用し、学生自らが実践する。
今回、TGSで発表した作品のうち2作品を紹介する。高い映像技術やメッセージ性のあるユニークな感性が面白い。
■FOUR LEGS CHIKEN
都会に憧れて人間社会にやってきたニワトリ。そこには人間においしく食べられている仲間の姿があった。怒りを覚えたニワトリが復讐心から街を壊す3Dアクションゲーム。
■Gravarior
廃棄された宇宙船からエネルギー源を回収する主人公が宇宙で出会う様々な謎の生物を打ち倒すアクションパズルゲーム。宇宙を舞台とすることで「重力」の操作が必要になる。
3年次にTGS参加
4年次は学会発表も
メディア学部の三上浩司教授は、TGSに出展することの教育的効果について、「世界最大級のゲームイベントにおいて、自分たちの渾身の作品を展示することは代え難い達成感が得られます。また、プロの開発者や一般ユーザーからの視点で評価を受けることができます。学生にとっては、作品制作に自分のすべてを出しきり、さらにその上を目指すための向上心が得られる場でもあると考えています」と話した。
TGSに参加した学生は、翌年以降に出展する後輩たちに、ステューデントアシスタントとして、自分たちの経験をもとに、援助・指導している。
TGS以外のイベントにも積極的に参加。TGS出品作品をブラッシュアップして「クリエイター甲子園」や「福岡ゲームコンテスト」などのゲームコンテストに応募したり、「デジゲー博」のようなイベントに展示することもある。
3年次のTGSの経験を経、4年次に取り組んだ卒業研究は、情報処理学会、日本デジタルゲーム学会、芸術科学会、ACM SIGGRAPHといった国内外の学会で発表している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年12月6日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第91回】ICTキャンパス 中央大学「学生のスキルを証明 オープンバッジ実証実験」 2021年11月1日
オープンバッジ「金」「銀」「銅」のデザイン案
ビジネス領域だけでなく大学での能力も証明
中央大学は、(一財)オープンバッジ・ネットワークとともに、デジタル証明書「オープンバッジ」の共同実証実験を行っている(実施期間=2021年6月~22年5月)。
オープンバッジとは、簡単にいうと、個人が持っているスキルのデジタル証明書だ。スキルの証明がバッジのデザインで表現されている。
国際標準化団体IMS Global Learning Consortiumが設定した国際技術標準規格であり、近年、ビジネスの世界だけでなく、大学での能力や活動を証明するものとして、欧米で普及が進んでいる。
取得したオープンバッジは、電子履歴書、SNS、メールなどに貼ることで、持っているスキルを証明できる。
中央大学とともに実証実験を進めている(一財)オープンバッジ・ネットワークは、日本およびアジア地域において、信頼性の高いオープンバッジの流通を実現させるため、バッジ発行者の質保証を行っている団体だ。
従来の修了証に代えてオープンバッジ発行
これまでも、スキルをデジタルで証明する仕組みはあった。しかし、例えばAが発行するデジタル証明書は、A専用のサイトでしか内容証明できず、互換性がなかった。
一方、オープンバッジは、発行者に依存することなく、認証用サイトでスキルの内容が証明できるのがメリットの1つだ。
さらに、オープンバッジ取得者にとっては、異なる団体が発行したバッジでも、自分専用のウォレットにためて管理できるので、取得したオープンバッジを一覧できるなど使い勝手がよい。
今回の実証実験では、中央大学が開講している学部間共通科目の「AI・データサイエンス全学プログラム」と「ファカルティリンケージ・プログラム」において、カリキュラムを修了した学生にオープンバッジを発行する。
「AI・データサイエンス全学プログラム」は、2021年から開講しており、文科系、理科系を問わず、全学部生を対象として、AI・データサイエンス分野をリテラシーから応用基礎レベルまで系統的に学べる。
「ファカルティリンケージ・プログラム」は、各学部の授業科目を有機的にリンクさせ、新たな知的関心の領域に対応する教育の「場」を設定するプログラムとして、2003年から始まった。「環境・社会・ガバナンス」「ジャーナリズム」「国際協力」「スポーツ・健康科学」「地域・公共マネジメント」の5プログラムを開設している。
「これら2つのプログラムでは修了者に修了証を発行している。そこで実証実験で従来の紙の修了証に代えてオープンバッジを発行し、受領者の意見や利用状況などを調査して、オープンバッジの効果を検証していこうと考えています」(中央大学 全学連携教育機構事務室)
転職や新卒就職市場で有効なツールになる
オープンバッジは「金」「銀」「銅」の3つを発行する予定だ。
「実証実験期間中ですので、確定ではありませんが、それぞれ、次のようなイメージを考えています。『金』は学長または理事長が発行する証明書や表彰状など、『銀』は各機関(学部やセンター、機構等)で発行する修了証や表彰状、会員証など、『銅』は科目担当責任者などといった各種責任者が発行する努力賞や参加証などです」(同事務室)
オープンバッジの今後の有用性について、同事務室は「ビジネスマンの転職市場や大学生を中心とした新卒就職市場において、履歴書そのものがデジタル化される可能性が高い中、自身のスキルを示すためのオープンバッジは有効なツールとして機能する可能性が高いと見ています」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年11月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第90回】ICTキャンパス 東京工芸大学「ガウディの考えた着色 AIで新たな可能性提示」 2021年10月1日
色の科学芸術を研究 カラボギャラリー
工学部と芸術学部を擁する東京工芸大学は、テクノロジーとアートの融合を目指した教育や研究を行っているのが特色だ。
同大学には、「色」の研究成果を公開する「カラボギャラリー」が設置されており、そこでは現在、企画展「ガウディの色と形」が開催されている。
同展には、建築家アントニ・ガウディの代表作であるサグラダ・ファミリアの鐘楼を題材とした作品とともに、AIを使ってサグラダ・ファミリアを着色する作品が展示されている。
サグラダ・ファミリア聖堂の生誕のファサードを着彩する体験型アート。来場者は掲示されているガウディの言説を読み、各自の解釈で丸シールを用いて着彩する(C)小野寺宗貴
5000パターン AIで作成予定
ガウディは、サグラダ・ファミリアが様々な地点から見られることを考えていた。特に遠方からは、抽象的・幾何学的な形態が良いとしていた。
そこで展示では、遠方からどう見えるかを、疑似的に体験できる仕掛けを作った。
サグラダ・ファミリアの尖塔部の10分の1の模型を制作し、対面する鏡の中央に配置。鏡の反射効果によって、図像が何回も反転すると、尖塔部のモザイクタイルの細かさが認識できなくなり、色の塊として見え、さらにはそれがひとつの造形に見える瞬間がある。
その距離と視点の関係の変化を楽しんでもらおうというのが作品の主旨だ。
サグラダ・ファミリア聖堂の鐘楼部の1/10模型(C)小野寺宗貴
また、サグラダ・ファミリアにAIを使って着色する試みも行っている。
ガウディの弟子の言説などによれば、サグラダ・ファミリアの「生誕のファサード」は、着彩する予定だったことが分かっている。しかし、着彩のパターンやデザインはいまだ解明されていない。
今回の企画展を担当した、ガウディ研究家である東京工芸大学の山村健准教授は「ガウディが着彩する予定だった色彩を、AIによるアルゴリズムを用いて、会期中に5000パターンのスタディ(さまざまに検証すること)を制作し、未解明だった着彩パターンやデザインに、新たな可能性を提示しようと考えています」と話す。
さらに、展示を見終わった来館者が、展示から得たヒントやアイデアなどももとにしながら、色彩の付いたシールを思い思いに貼っていき、ファサードを完成させるワークショップも行っている。
「AIによるスタディと人間が制作したデザインの違いを比較することで、AIと人間の感性の関係が視覚的に分かるのではないかと思います」(山村准教授)
今回の展示では、ALife(Artificial Life 人工生命)に代表される創発的なAIを活用した。
「AIにはいろいろな種類があり、AIブレイクのきっかけとなったディープラーニング(深層学習)は、既存の産物を学習して、人間の知能に迫る試みです。一方、創発的なAIは、ミクロなレベルでの簡潔なアルゴリズムを用いることで、マクロな視点での予想外の結果を生み出すことができます」(同学・久原泰雄教授)
展示では、創発的AIの「ラングトンのアリ」という手法を応用し、ガウディの彩色の考え方をアリの動きに取り入れて、複雑な色彩を生成している。
創発的AIからインスピレーション
久原教授は、色彩や芸術におけるAIの可能性について、次のように話す。
「色彩は芸術表現の重要な要素ですが、作家が自分の表現が飽和状態に達して行き詰まったときなどに、創発的なAIからインスピレーションを得ることは有力な手段です。ラングトンのアリ以外にも様々な創発的な手法があります。それらを研究し応用することは、色彩に限らず未来の人智を超えた芸術表現の可能性を秘めており、有意義であると考えています」
企画展「ガウディの色と形」は、12月10日までの会期で開催中。入場無料。入場に際しては、当面の間、新型コロナウイルス感染対策のため、事前予約制となっている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年10月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第89回】ICTキャンパス 東京通信大学「AI・ビッグデータ活用で企業戦略できる人材を育成」 2021年9月7日
データサイエンス・社会調査コース新設
東京通信大学は2022年4月から「データサイエンス・社会調査コース」を新設する。
ITを活用した調査や分析で得られた情報をエビデンスにして、企業・組織の戦略や製品・サービスのマーケティングに寄与できる人材を育成していく。
同学はオンライン完結型の大学で、スマートフォンやPCの講義だけで卒業できる。設置している学部は「情報マネジメント学部」と「人間福祉学部」の2学部。
講義は約15分単位で構成され、仕事やプライベートで忙しい社会人でも学びやすい。在籍学生数は10代から80代まで、4000名を超える(2021年5月現在)。20~40代が最も多く、フルタイムで働く社会人が8割以上を占める。
ITやAIに加え経営分野も学べる
新設される「データサイエンス・社会調査コース」は、情報マネジメント学部に設置される。
同コースでは、ITの専門知識やスキルに加え、社会とともに変貌する企業経営や市場の仕組み、様々な集団の意識や行動を把握する社会調査や市場リサーチ、AIも活用したビッグデータの分析手法などを学習する。
「今、企業が最も必要としているのはDXを推進できる人材です。デジタルツールを単に効率追求のために活用するのではなく、ITをベースにこれまでにない新しい製品やサービス、ビジネスモデルを展開し、社会にイノベーションを起こすことが求められているのです。それには、ITに関する知識やプログラミング技術、経営の知識だけでなく、社会調査や市場リサーチ、AIを活用したビッグデータの分析など、調査・分析で得られた情報を戦略策定やマーケティングに活かすことができる専門的なスキルが必須です」(東京通信大学 入学相談室)
特徴的な科目は、デザイン思考概論、ソーシャルネットワーク論、社会情報処理、質的調査、ビジネスデータ分析、社会統計学、社会調査演習、データサイエンス演習、人工知能概論、オープンデータ基礎論、計量テキスト分析など。
学生はこれらの専門教育科目だけでなく「情報システム」「プログラミング」や「経営」などの分野も幅広く学習し、知識を深めることができる。
学生の学習継続を維持させるサポート体制
オンライン大学の特長は、時間、場所、費用面の制約を取り除き、学びたい人が学べる環境を作れる点にある。
しかしその一方で、通学制大学より退学率が高いことが一般的にいわれている。
受講する場所や時間に捉われないということは、学生自身で学習のための自己管理、時間管理をし、学習計画を立てる必要がある。
特に社会人は、本業と大学の勉強をうまく両立させなければ、学習のための管理が負担となってしまうこともある。
そのような中、東京通信大学は約9割(89・4%、21年4月時点)の学習継続率を維持している。その理由について、同大学入学相談室では次のように話す。
「本学では、入学時に細やかなオリエンテーションを実施し、学期ごとの授業計画例をコース別に示しています。それに加えて、アカデミック・アドバイザーと呼ばれる教員が、学生が目標に到達するための指導を行っています」
学生の学習データが活用できるのも、オンライン大学のメリットだ。
同学入学相談室は「蓄積した学習履歴を分析・研究し、さらにAIなどの技術と結び付けることで、学生1人ひとりの学習能力や学習スタイルに合わせたオーダーメイドの学習環境を実現していくことも、オンライン大学の将来として、十分可能だと考えています」と、オンライン大学の可能性について語る。
なお、同大学人間福祉学部でも、22年4月から「総合人間コース」を新たに設置する予定だ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年9月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)














