【第27回】早稲田大学グローバルエデュケーションセンター「導入教育でネット講義 入学前に情報環境学ぶ」 ICTキャンパス 2016年4月11日
オンデマンドで 入学前に導入教育
早稲田大学は、新入生の入学決定から授業開始までの期間、インターネットを活用して入学前の導入教育を、情報、数学、統計、英語の分野で行っている。情報分野での導入教育に携わる早稲田大学グローバルエデュケーションセンター助教星健太郎氏に取材した。
導入教育の講義風景
1コマ15分の講義 4週間で全8回
情報分野の入学前導入教育は2001年度にスタート。対象は各学部への推薦入学者(附属・系属を含む)および人間科学部eスクール(通信教育課程)の希望者だ。授業支援のポータルサービス「Course N@vi(コースナビ)」を用いて4週間程度、オンデマンド形式の講義を行っている。
「早稲田大学では、グローバル社会のリーダーとなって活躍する人材の育成を見据えて教育を行っています。教育の質を向上させるため、入学前に知識やスキルを取得することで、入学後の学習に対する動機付けを図り、大学の授業に必要な基礎的知識の補完を行っています」(星氏)
情報教育部門では、大学生として持つべき情報リテラシーや、学生生活をより有意義に過ごすための情報処理・技術・知識・表現手法を身に付けるのが目標だ。具体的には、平均15分のオンデマンド講義動画を、3~4日に1コマずつ配信。全8回で、受講生は1コマ平均40ページのレジュメを確認しながら、情報リテラシー、早稲田大学の情報環境、ソフトウェア操作などを学ぶ。
また、受講生には「任意課題」と「グループコミュニケーション課題」が与えられる。任意課題は、「担当教員へのビジネスメール送信」「スライド4枚を用いた作品紹介」など、入学後に役立つスキルがテーマとなっている。
グループコミュニケーション課題は、2015年度に導入。思考型クイズを週に1回出題、その後2日ごとにヒントを出していき、受講生はBBS(電子掲示板)内で議論を交わしながら、グループで意見をまとめ解答する。担当教員がBBSを巡回し、解答の内容、取りまとめ方、発言数などの項目で評価、数値化して順位付けを行う。
導入教育トップページ(早稲田大学グローバルエデュケーションセンターのサイト)
MOOCs普及する中 導入教育も変化へ
講義はオンデマンドなので、受講生は期限内であればいつでも視聴できる。期限内に受講できない場合でも、期限後も講義動画が見られるようにしている。任意課題については、締め切り後に提出されたものでもできる限り受け付けるなど、柔軟に対応している。
星氏は「受講生が導入教育で扱う内容に興味を持ち、入学後に情報関連科目を受講するきっかけとなった熱心な学生もいる」と導入教育の効果を語る。
受講生からは「自分では気付けないことも、グループで行動することで得られる内容が多くあった。大学生活を社会的に営むことの大切さについても実感した」などの声が寄せられている。
今後については「高大接続のあり方が抜本的に変わる可能性があり、入学決定の時期も早まる可能性があるため、入学前導入教育はさまざまな形が考えられます」と星氏は話す。
MOOCs(ムークス)などのオンライン教育コンテンツが増えている現状において、より効果的な導入教育を提供するため、検討を続けていく方針だ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年4月11日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第26回】東京大学先端科学技術研究センター「ICTで障害児の学習生活支援 “魔法のプロジェクト”」 ICTキャンパス 2016年3月7日
携帯情報端末の 有効性を検証し発表
東京大学先端科学技術研究センターは、ICTを活用して障害児の学習・生活支援を行う「魔法のプロジェクト」を実施している。
これは同センターがソフトバンクおよび同社のグループ企業で教育事業を行っているエデュアスと共同で行っているものだ。
プロジェクトの目的は、携帯情報端末を実際に特別支援教育の現場で活用してもらうことで、その有効性を検証し、より具体的な活用事例を発表していくことで、障害のある子どもの学習や社会参加機会の増加を図ることだ。
書き順アプリを活用すると漢字を正しく書くことができる
1年間のプロジェクト 09年度から実施
プロジェクトの期間は1年間。2009年度から実施されていて、これまで6つのプロジェクトが実施されている。
09年度は携帯電話の様々な機能を使用し障害児の学習や日常生活を支援する「あきちゃんの魔法のポケットプロジェクト」を実施し、成果として「障害のある子どもたちのための携帯電話を利用した学習支援マニュアル」を作成した。
11年度はiPadを活用した障害児学習支援「魔法のふでばこプロジェクト」、12年度は支援の場を学習だけではなく生活にまで広げた「魔法のじゅうたんプロジェクト」をそれぞれ実施。
13年度は前年度までの3つのプロジェクトの集大成として「魔法のランププロジェクト」が行われた。
また、14年度は特別支援学校、特別支援学級の障害児に加え、初めて通常学級の発達障害児も対象にした「魔法のプロジェクト2014~魔法のワンド~」、15年度は個々の児童・生徒の特性に合わせた支援を強化した「魔法のプロジェクト2015~魔法の宿題~」をそれぞれ実施している。
毎年行われる成果発表会では、適切にICTを活用した学習支援を受けることで、障害のある児童生徒が、大きく伸びた事例が数多く報告され、全国から集まる教育関係者や保護者が熱心に耳を傾けている。
成果をまとめた冊子を刊行
今年度プロジェクトは「魔法の種」
今年4月から開始予定の16年度「魔法のプロジェクト2016~魔法の種~」は、09年度から実施してきた一連のプロジェクトの成果を活かし、新たなニーズに対する実践研究を行うとともに、さらに同活動を普及させていくことを目的としている。
また、16年度のプロジェクトでは、ICTを活用して障害児の学習・生活支援を効果的に実践できる教員の早期育成を目的に、教職課程を履修中の学生や、その指導者を対象としたセミナーも開催する予定だ。
「魔法の種」という名称には、これまでの「魔法のプロジェクト」で培ってきた知見やノウハウを、教員志望の若手人材と共有することで、「先生の種」を育てていくという思いも込められている。
さらに、個々の児童・生徒のニーズに合わせて、より質の高い支援が実践できる先生を「魔法のティーチャー」と名づけ、魔法のプロジェクトにおいて認定をしている。
14年度のプロジェクトにおいて、初めて2人の先生が認定された。また15年度は新たに3人の先生が認定されている。
16年度のプロジェクトの採択者80組は、3月中旬までに決定する予定。参加校には今年4月1日から来年3月31日まで携帯情報機器が貸与され、さまざまな実践研究が行われる予定になっている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年3月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第25回】東京藝術大学「クラウドファンディングでバーミヤン壁画復原資金調達」 ICTキャンパス2016年2月1日
今回復原される天井壁画「太陽神と飛天」
東京藝術大学アフガニスタン特別展実行委員会は、バーミヤン大仏壁画復元のため、クラウドファンディングサービス「READYFOR(レディーフォー)」を活用した資金調達プロジェクトを昨年11月30日から今年1月29日まで実施した。
クラウドファンディングとは「群衆(Crowd)」と「資金調達(Funding)」とを組み合わせた造語。インターネットを通じて、不特定多数の人から資金を集める仕組みを指す。
今回のプロジェクトで活用されたREADYFORは、11年のサービス開始以来4年間で、15万人の支援者から19億円以上を集める、日本最大規模のクラウドファンディングサービスだ。
今回の資金調達プロジェクトは、復元費用の一部400万円の調達を目指して行われた。
天井壁画が描かれているバーミヤン東大仏
今回の資金調達にクラウドファウンディングを活用した理由について、東京藝術大学客員教授 井上隆史氏は次のように話す。
「文明の十字路に位置したアフガニスタンの文化財の重要性や素晴らしさを、できるだけ多くの人々に伝えたいという思いから、復元作品が展示される展覧会は、無料公開を考えている。クラウドファンディングの活用により、多くの人にこのプロジェクトを知ってもらう機会になると同時に、心ある方々から支援してもらうことで”一緒になって作っていく”という一体感を共有できるのではないかと考えた」
支援は一口3000円からで、支援者は、復元された天井壁画が出品される展覧会「素心 バーミヤン大仏天井壁画~流出文化財とともに~」や、特別コンサートなどに招待される。
質感を再現できる 独自技術で原寸大復原
復元されるのは、アフガニスタンの戦乱で01年に破壊されたバーミヤン東大仏の天井壁画「太陽神と飛天」。東京藝大が独自に開発した技術を駆使して、原寸大の3次元立体で復元する。
大仏壁画の復元作業は、京都大学が70年代の現地調査で撮影した約1万5000枚のブローニー版写真から選んだ150枚の写真などをデジタル化して進められていった。しかし、岩絵具(いわえのぐ)などの質感を表現するのは、デジタルの高精細化が進んだ現在でも困難だった。
東京藝大は岩絵具などの質感を表現できる模写・レプリカの制作方法を独自開発して特許を取得していた。今回はその特許技術を用いて、バーミヤン東大仏の天井を色鮮やかに飾っていた壁画窟全体を、原寸大の3次元立体として復元することとした。
失われた文化遺産 かけがえのなさ実感
井上氏は復元作業の意義についてこう語る。
「バーミヤンの大仏や壁画が爆破で失われたことは誠に残念なことですが、私たちはその破壊行為を糾弾するという姿勢ではなく、その文化遺産を今われわれが持つ最新技術で復元してみせることで、失われた遺産のかけがえのなさを認識してもらいたいと思っている。そして二度とこうしたことが行われないようにとの願いを込めたメッセージとしたいと思っている」
復元された「太陽神と飛天」は、今年4月12日から6月19日まで、東京藝術大学 大学美術館陳列館のアフガニスタン特別展「素心 バーミヤン大仏天井壁画~流出文化財とともに~」で展示される。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年2月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第24回】立正大学「全学規模でクラウド推進 コスト削減し利便性向上」ICTキャンパス 2015年12月7日
立正大学は1580年に日蓮宗の教育機関として創立された「飯高檀林」を淵源とし、現在は東京・品川と埼玉・熊谷の両キャンパスに8学部15学科、大学院7研究科を擁する、学生数1万人の総合大学である。
2000年代初頭からICTの活用に積極的に取り組み、現在は全学規模のクラウド基盤を構築している。同大学におけるクラウド活用状況について取材した。
立正大学は2002年度から学外のICT関連サービスおよび学内サーバーの仮想化をスタートさせている。積極的にサーバーの仮想化に取り組み、13年度には事務で利用されるクライアントの仮想化、および関連サーバーのクラウド基盤への移行を行った。
立正大学の品川キャンパス
14年度に学内サーバー クラウドへ移行完了
翌14年度には、データセンターまで学内ネットワークとする構成に変更。
教育研究システムにおけるクライアントの全面仮想化、および関連サーバーのクラウド基盤への移行を完了した。これにより、ほとんどのサーバーがクラウドへ移行し、学内のほぼすべての端末が仮想化されることとなった。
教育研究系と事務系 システムを統合
クラウドを活用する以前、立正大学の学内システムは、教育研究システムと事務システムが、それぞれ印刷環境やファイルサーバーなどの類似のシステムを構築し、コストが二重にかかるのが問題であった。
また、それぞれのシステムで異なるアカウント(IDとパスワード)が使われていたため、利便性が良くなかった。
そこで、約10年かけて教育研究システムAD(Active Directory)と事務システムADに集約し、認証基盤を整備することで、コストの削減と利便性の向上を実現させた。
4つのIDを統合
さらに14年度末にID管理システムを導入し、教育研究システムAD、事務システムAD、マイクロソフトのOffice365用AD、汎用LDAP(Lightweight Directory Access Proto‐col)を統合して管理できるようにした。
卒業生と在校生の 絆深める生涯メール
今年度は、Office365を活用し、卒業後も継続して利用できる「生涯メール」の導入を行った。
これにより、卒業生と在校生との絆を深めることに役立つものと期待されている。
ただし、現在使っている汎用ドメイン「ac.jp」の契約が16年度まで続くため、当面は汎用ドメインとの平行運用となる。契約満了後の17年度からは、生涯メールアドレスのみを学生に付与することになっている。
「Office365はオンラインストレージやスケジュール管理など多彩な機能を持つグループウェアで、授業でも効果的に活用できると思う。
各種API(Application Programming Interface)も整備されつつあるので、これからは積極的に活用していきたいと考えている」(立正大学情報メディアセンター品川情報システム課課長菅野智文氏)
データ統合で ビッグデータ活用も
CPUやメモリーなどを統合的に監視し通知するシステムが稼働していることにより、大学側で情報システムを運用する負担が軽減し、耐障害性も格段に向上したという。
今後は、学内の情報システムの集約をさらに進め、コストと利便性を向上させていく考えだ。菅野氏は「ストレージや各種サーバーのデータが統合されることで、ビッグデータの活用も可能になるだろう」と話す。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年12月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第23回】東京理科大学「教育力と研究力を伸ばすICTシステム」 ICTキャンパス 2015年11月2日
東京理科大学は、130年以上の歴史を持つ理科系総合大学だ。これまでも各時代において、当時の最先端の教育・研究環境の実現に取り組んできた。現在は「日本の理科大から、世界の理科大へ。」という目標の達成に向け、より質の高い教育と研究を世界レベルで行えるよう力を注いでいる。
ノーベル賞受賞大村氏の母校
今年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智氏(北里大学特別栄誉教授)は、大学院の卒業生であり、同大学では初、日本の私立大学卒業生としても初のノーベル生理学・医学賞受賞者だ。
ICTによる教育・研究環境の充実には注力し、教育においては「VLE(Virtual Learning Environment)」、研究ではVRE(Virtual Research Environment)」というICTシステムを今年春から稼働させ、成果を挙げている。
アクティブラーニング促す機能が充実
VLEで特徴的な機能は2点あり、一つは「学修ポートフォリオ」機能だ。学生が履修を申告する際、4年間に達成すべき、どのような能力をどの授業が担うのかが、科目系統図とともに把握できる。学生は半期ごとに自分の学修成果を振り返り、自分自身による主観評価と、実際に評価された成績ベースの客観評価を、レーダーチャートで比較することができる。これをもとに次の目標を設定し、新たなPDCA(Plan‐Do‐Check‐Act)サイクルを回していく。学生にとっては、自分の成長過程を多角的に見ることができる。
2点目は、学生のアクティブラーニングを促す機能の充実だ。授業ごとにSNSのグループ機能やチャットを利用できる。また、授業中、教員が発した質問に学生が回答し、集計結果を共有できる「eクリッカー」機能を装備。論文やレポートをオンラインで共有しながら、教員と学生がディスカッションできる「ライブクラスルーム」などの機能もある。
学修ポートフォリオやeクリッカーなどの機能は教員にとっても有益だ。学生の習熟度や理解度が確認でき、次の授業やセメスターに反映させることができるからだ。
学生に課した課題の収集・管理も効率化。授業の準備や研究により力を注ぐことができるようにもなった。
広がる異分野教員間のコミュニケーション
一方、VREにおいては、独自のSNSを構築し、教員同士で他教員の研究内容や論文などが見られるようにしている。
こうしたシステムを構築した背景には、国際的に最先端と言われる研究の多くが、複数分野にまたがるクロスディシプリン(学際的)なものであることが関係している。
東京理科大学は、理系総合大学として理学、工学、薬学、経営学といった研究領域を持ちながらも、キャンパスが複数に分かれており、異分野の教員とのコミュニケーションが生まれにくいという問題点があった。
そこでVREの稼働により、学部や学科を越えて、興味や関心を共有する教員同士がグループを形成。
チャット形式でのコミュニケーション、セキュリティーの高いストレージを使用したファイル交換などをすることが可能となった。
国際的なクロスディシプリンが進む中、研究を始める前の段階で、異分野教員同士のコミュニケーションを補えるツールとして、今後、ますます期待が寄せられている。
今後もICTを最大限に活用し、VLEとVREを組み合わせて、教育力と研究力を一層伸ばしていく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年11月2日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第22回 名古屋芸術大学 ICTキャンパス 2015年10月5日
名古屋芸術大学人間発達学部の加藤智也准教授は、「子供」と「IT」との関わりを研究する担当ゼミナールにおいて、日本ではまだ広く普及していない2010年からフェイスブックをいちはやく導入し、ゼミで活用してきた。
加藤ゼミではフェイスブック導入によって、学生自ら考えて能動的に取り組み、ゼミに対する強い参加意識が生まれるようになったという。
加藤准教授にフェイスブック活用の狙いや効果などについて取材した。
グループ機能とメッセージ機能を利用
加藤ゼミは2004年度から、授業を補完するものとしてメール、メーリングリスト、ホームページを活用。その後もブログなどのソーシャルメディアを積極的にゼミの活動に取り入れてきた。
これらのITツールによって、授業時間外に指導・学習・連絡が可能になったため、週に一度開催されるゼミの時間を有効に活用することができるようになった。
その一方で、ツールが複数にまたがることにより一元的な管理が難しくなり、教員、学生双方にとって、使い勝手は良いとは言えない状況だった。
「そこで、フェイスブックの実名性によるリアルなつながりを前提とした信頼性と、グループ機能やメッセージ機能に着目し、導入することにしました」(加藤准教授)。
導入の目的は、ゼミにおける「効率的な情報共有」「学習意欲の向上」「コミュニケーションの促進」である。
ゼミの学生全員で共有すべきあらゆる情報はグループ機能を利用することとし、投稿を確認したら速やかに「いいね!」を押すことを義務づけた。また、学生個人への連絡は、メッセージ機能を利用することとした。
発表する学生は事前にグループに概要を公表
学生は最初、なかなかグループに投稿やコメントをしなかった。そのため、軌道に乗るまでは教員がある程度、強制力をもって誘導する必要があったという。
徐々に学生も投稿に慣れていくと、導入の有効性が現れてきた。例えば、ゼミに関する情報はフェイスブックで一元管理でき、スマートフォンさえあれば、いつでもどこでも情報を確認できるようになった。
また、学習意欲の向上においても効果が認められた。ゼミでは自分の発表の1週間前までに、グループにテーマや概要を公表し、発表者以外の学生はそのテーマについて予習しなければならない。そのため、ゼミでのディスカッションが活発化し、予習で分からなかった点などを全員で補足しながら理解することができた。
グループでの活発なやり取りがきっかけとなり、ゼミ生同士のリアルな関係の構築も促進された。上級生は下級生の手本となるという意識が芽生え、縦のつながりが強化。卒業後もコミュニケーションが継続している。
3年間利用した学生44人を対象にアンケート調査をしたところ、「ゼミにおいてフェイスブックが情報共有に役に立ったか?」という質問には、全員が「役に立った」と回答。「フェイスブックを利用することで学習意欲が向上したか?」には「向上した」が34人、「やや向上した」が8人、「あまり向上しなかった」が2人。「フェイスブックが人間関係を構築するのに役に立ったか?」の質問には「役に立った」34人、「やや役に立った」7人、「あまり役に立たなかった」3人であった。
「今回は機能を限定的に利用したこと、また教員が学生の利用具合を確認していたため、外部とのトラブルはありませんでした。しかし、フェイスブックではさまざまな使い方が可能であり、今後利用範囲を拡大していったときに、実名ならではの問題も生じる可能性があります。うまく活用するためのソーシャルメディア・リテラシー向上に向けてさらに検討していきたい」と加藤准教授は話している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年10月5日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第21回】大阪教育大学「教育実習中の学生にオンライン動画で指導」 ICTキャンパス 2015年9月7日
大阪教育大学は、教育実習中の学生への指導を、インターネットを使い遠隔地から行うシステム「スマートフォリオ」を開発し、同大学附属小学校において活用実験を行った。システム開発に携わった大阪教育大学情報処理センター尾崎拓郎氏に取材した。
「スマートフォリオ」で遠隔地から学生を指導
SNS機能を持つシステムを開発
「教育実習には、教育実習生、実習校の担当教員、そして大学でその学生の指導に従事している大学教員と大きく分けて3つの立場が存在しています。教育実習が行われている間、大学教員は実習校の担当教員と情報交換を密にしなければなりませんが、実際は実習の終盤に実施する研究授業を参観するのがいろいろな制約から精一杯でした。そこで、SNSの仕組みを取り入れて、情報交換できるようにしたのが今回のシステムです」と、尾崎氏はシステム開発に取り組んだ経緯を話す。
システムは、オープンソース「OpenPNE(オープンピーネ)」をベースに構築。
機能には「日記」「メッセージ」「コミュニティ作成」のほか、実習簿や学習指導案を閲覧できるように「ファイルアップロード」機能を備える。
また、授業の動画のアップロードも可能。動画についてのコメントも入力できる。
「コメント機能により、大学教員は実習先に出向くことなく、実習生に指導できるようになりました」(尾崎氏)
データは大学内のサーバーに格納
こうした機能は、フェイスブックなどの汎用SNSで、コミュニティを作成し運用することでも可能だ。しかし、尾崎氏はそのような方法は取らなかった。その理由をこう話す。
「ファイルをアップロードし共有するはフェイスブックなどでも対応できたのかもしれませんが、実習授業の動画をアップロードするとなると、教師の発言内容や児童生徒の反応を撮影するわけですから、保護者の理解が絶対的に必要になってきます」
そこで、データは大学内のサーバーに格納し、パブリッククラウドには置かないように設計した。さらに、ユーザーIDの発行に関しては、原則、学内関係者のユーザーIDを利用するようにし、不正アクセスを防止している。このような措置を講ずることで保護者の理解を求めた。
また、タブレット端末で撮影した動画をすぐにアップロードできるようにするため、端末に標準搭載されているカメラアプリを使うのではなく、専用のカメラアプリ「スマトレ・コーダー」を開発し、システムに直接アップロードできる仕組みにして、システムへのアクセスを容易にした。
専用カメラアプリ「スマトレ・コーダー」
授業が振り返れると実習生からも好評
2014年9月、同大学附属小学校の教育実習において、今回のシステムを活用した実証実験を行った。
初期段階での実証実験だったため、撮影や動画アップロードなどの作業は、教育実習生ではなく学生スタッフが行った。
実習生からは「授業中は緊張していて、自分の発言内容を忘れていたが、動画を見ることで振り返りがしやすかった」「コメント機能によって指導を受けるのは、内容が分かりやすくてよい」「自分が思い描いていた動きと違う動きをしていたのに気付いた」といった意見が寄せられた。
尾崎氏は「附属の学校で展開するだけにとどまらず、本学の学生をはじめとする構成員が皆このシステムを気軽に利用できるくらいの水準にまで利便性を高めて、システムを活用するのがスタンダードになることを目指します」と抱負を語っている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年9月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第20回】ICTキャンパス 大阪大学「BYOD対応でVDI導入 利便性向上 運用コスト低減」
仮想デスクトップ環境で運用コストを低減
大阪大学はサイバーメディアセンターを2000年度に設置し、学内外の情報基盤整備を行っている。
14年9月、同センターはVDI(Virtual Desktop Infrastructure、仮想デスクトップ環境)を利用した情報教育端末サービスの運用を開始するとともに、BYOD(Bring Your Own Device、持込PCの活用)の推進をスタート。
その後約10か月が経過し、運用コスト面や教育面において効果を上げていることが明らかになってきたという。
VDIは、1台の物理サーバーに複数台の仮想マシンを集約し、仮想マシン上で端末のOSやアプリケーションを動かす仕組み。仮想マシンとクライアント間では、イメージ情報と入力情報をやり取りする。
昨年9月にVDI(Virtual Desktop Infrastructure、仮想デスクトップ環境)BYOD(Bring Your Own Device,、1人1台の持込PC)を整備、その後1 0か月を経過した大阪大学サイバーメディアセンター
個人持込PC対応もVDI導入の理由
VDI導入のもうひとつの大きな理由が、BYODへの対応だ。
学生にとってPCなどの情報デバイスは、すでに必須のツールだ。大阪大学では、学生は自分の端末を使って授業を受けるというスタイルへ変化すべきだと考えていた。
しかし、学生はさまざまな情報端末を持っている。ネットワークを介して教育コンテンツを届けるには、何らかの統一性が必要だった。これを解決するため導入したのがVDIだ。
「VDIの導入によって、教員やTA(ティーチング・アシスタント)は、授業の準備などが自分のオフィスから行えるようになり、利便性が増して、よく利用されているようです。学生にとっても、課題などを自宅で行えるのは、大きなメリットだと思います」(大阪大学サイバーメディアセンター 情報メディア教育研究部門講師 間下以大氏)
たとえ無償のソフトウェアでも、自宅のPCに大学側と同じ環境を用意するのは難しいこともある。そういった場合でも、自宅などからネットワークに接続するだけで、大学のデスクトップ環境が使えるのは大きなメリットだ。
このように大きな利便性があるVDIだが、利用方法がよく理解できていない学生も少なくないという。
そのため、今後はVDI利用のさらなる周知を図っていくと同時に、BYOD推進も一層強化していく計画だ。
「VDIは一般的な座学の授業でも、必要に応じて共通のデスクトップ環境を提供することができます。これは、授業中に学生個人のPCからVDIを利用することで、授業で使える道具の選択肢を大きく広げることになり、より高度な教育のより効果的な実現につながると考えています。こうしたことのためにも、BYODの推進が必要だと考えています」(間下氏)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年8月3日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第19回】ICTキャンパス 名古屋文理大学「学科新入生にiPad無償配布4年経過し多様な効果が実証」
情報メディア学科では日本で初めて全学生にiPadを無償配布した。4年が過ぎ、全学年が所有するようになり、学年横断的な活用が進んでいる。将来的にはBYODを視野にいれている
名古屋文理大学は、愛知県稲沢市と名古屋市にキャンパスを持ち、大学2学部3学科、短期大学1学科2専攻、全学で約1400人の学生が学ぶ。1986年、短大に情報処理学科が開設。99年には大学に情報文化学部が開設された。
短大時代から数えておよそ30年にわたって情報教育が行われ、卒業生は情報技術者をはじめ、情報技術を持った企業人、情報教育に関わる人材として活躍している。
授業活性化・学生生活アプリ開発に活用
同大学では、11年に情報メディア学科の新入生全員へのiPad無償配布を開始。学科の新入生全員への無償配布は、日本の大学では初だ。
同学科でのiPad無償配布の目的は、授業の活性化、学生生活での活用、モバイルシステム開発の推奨の3点にある。
まず「授業の活性化」では、資料配信、レポート提出、eポートフォリオ、eラーニング、教育アプリ、プレゼンテーションなど多様な利用がなされ、双方向授業、反転授業、アクティブラーニングの推進にもつながっている。
2点目の「学生生活での活用」においては、学生間や教員らとのコミュニケーション、隙間学習、eラーニングによる資格取得対策、就職活動などでの活用が見られる。
時間割の確認や休講通知、履修登録、成績管理、出席管理なども、学生ポータルサイトを通じてiPadから行える。
3点目の「モバイルシステム開発の推奨」については、モバイル端末の利用やアプリ開発への関心が高まり、学年をまたいだ学生の自習的な勉強会によるアプリ開発が行われるようになった。
学年横断の授業やプロジェクトが活発化
学内外のアプリ開発コンテストへ応募したり、研究成果を学会で発表する学生も見られる。企業とコラボレートした開発も行われており、在学中からIT企業とつながりをもつ学生も出てきた。
名古屋文理大学情報メディア学部学部長の長谷川聡教授は「配布を始めて4年が過ぎ、全学年がiPadを持つようになったことで、学年横断の授業や学生プロジェクトでの活用が進みました。卒業研究や就職活動の際も利用されるようになり、4年間を通して利用可能であったことが実証されました」と話す。
オープンキャンパスでは、学生が高校生に向けてiPad利用のデモを行ったり、高校生向けのアプリ開発講座を実施している。
iPad無償配布前から、有志教員により行われている「iPad教育利用研究会」では、年々新しい利用法が提案・検討され、他大学や学会において情報交換する機会が増えた。
iPad活用の教育は、日本高等教育評価機構からも「名古屋文理大学平成26年度大学機関別認証評価評価報告書」により、高い評価を受けた。
「利用については毎年、最新機種を含めて検討を重ねています。利用方法もeポートフォリオやプログラミング教育など、新しい取組を進めているところです。『iPadありき』ではなく、他の端末やシステムの利用も含めて常に検討しています。将来的には、利用可能なタブレット端末が十分に普及すればBYOD(Bring Your Own Device)も考えられるでしょうし、ウェアラブル端末の利用もあり得るかもしれません」(長谷川氏)
近い将来、これまでのiPad利用による成果の蓄積をオンライン上で提携高校などと共有できるようにし、遠隔授業や協働学習などへ展開することを検討している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年7月6日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第18回】ICTキャンパス 九州大学「講義を撮影し一般にも公開 3次元CG電子教材も開発」
九州大学は、2011年に、附属図書館の付設として「教材開発センター」を設置。同センターでは、講義ビデオの撮影・編集・公開、MOOC(Massive Open Online Course)コンテンツの制作、デジタル副教材の開発、各種講習会の実施などを行っている。
今回は、同センターが取り組む講義ビデオの撮影・編集・公開と、3次元CGを使った電子教材について紹介する。
講義ビデオの画面
自律的な学習で学生をアクティブラーナーに
講義ビデオの撮影にあたっては、まず学期が始まる1か月前までをめどに、担当教員からビデオ撮影の要望を受け付ける。その後、公開承諾書を提出してもらうとともに、著作権処理などについて確認する。
撮影は講義室にビデオ機材を持ち込み、同センターのテクニカルスタッフや教員が行い、必要に応じて、学生に撮影を依頼することもある。
撮影後はすぐに編集し、講義担当の教員がビデオ内容を確認。その後、OCW(Open Course Ware)、iTunes U、YouTubeにおいて講義ビデオを公開する。講義ビデオは学生に限らず、一般の人たちも閲覧できる。
「学生にとっては、いつでもどこでも、自律的に自分のペースで自由に学習できることで、自ら問題意識を持ち、自ら考え解決していくアクティブラーナーとしての成長につながると考えています。一方、教員にとっては、反転授業や融合型学習の実践に役立っています」(九州大学附属図書館付設教材開発センター長・岡田義広氏)
今後は、専用スタジオを使って、高品質な撮影・編集を行い、同大学を代表する研究者の講義をMOOCコンテンツとして公開していく計画だという。
3次元CGを活用して、解剖学が学べる副教材「アナトミー・アドベンチャー」
ゲーム性を取り入れた3次元CG教材
同センターでは2012年度より、3次元CGを活用した電子教材の開発に本格的に取り組んでいる。初年度は、医学部の学生と教員との協働により、骨学を学ぶ副教材を開発した。対話的なマウス操作で、骨や部位の名称を、形状を確認しながら学習できるのが特徴だ。
翌13年度には、細菌学を学ぶための副教材「サイキン・ハザード」を開発。RPG(ロールプレイングゲーム)のように物語性を持たせたのが特色だ。ゲームを楽しむ感覚で、細菌について学べる。
14年度には、解剖学を学ぶための副教材「アナトミー・アドベンチャー」を開発。これもゲーム性を取り入れたもので、スゴロクのようにコマを進めていき、各マスに止まったとき、解剖学に関するクイズが出題され、それに正解しないと得点が得られないというものだ。ゴールを目指してクイズに答えていく過程で、解剖学の知識が身に付く。
「講義担当の教員と受講学生との協働で進めていますので、学生の意見を反映させた、より学習効果の高い教材が開発されています」(岡田氏)
同センターによれば、大学などの高等教育機関で、3次元CGを活用した電子教材の開発に取り組んでいるケースはほとんどないという。電子教材開発のモデルケースとなるよう、これからもさらに取り組みに力を入れていく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年6月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)















