【第37回】ICTキャンパス 二松学舎大学「漱石アンドロイド完成文学の講義を視野に」 2017年2月6日




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文豪・夏目漱石のアンドロイドが講師となり、学校で授業を行うプロジェクトが進行中だ。
写真は完成した漱石アンドロイド(画像提供:二松学舎大学)

漱石アンドロイド完成文学の講義を視野に

「漱石アンドロイドプロジェクト」は、二松学舎大学(東京・千代田区)によって、大阪大学大学院基礎工学研究科(石黒研究室)との共同研究で進められてきた。昨年12月、「漱石アンドロイド」が完成し披露された。

漱石没後100年 生誕150年を記念

二松学舎大学は、かつて夏目漱石が学んだ学校。2016年が漱石没後100年、17年は生誕150年であることから、この時期に合わせ、夏目漱石をアンドロイドとして蘇らせるプロジェクトに着手してきた。

制作にあたっては、アンドロイド研究の第一人者である石黒浩大阪大学院教授が監修した。

外見は大正元年、漱石45歳のときに撮影された写真にもとづいて作成。頭部は、朝日新聞社が所蔵するデスマスクを3Dスキャンして得られたデータから作られた。

胴体や手足は、デスマスクのサイズを基準にして、アンドロイド製作の目標年齢に近い漱石の写真を参考に、顔のサイズから各部位のサイズを導き出した。

アンドロイドが着ている服は、当時の写真や文献資料から考察を進める一方で、早稲田大学理工学術院石川研究室に、モノクロ写真のカラー化を依頼し、その画像をもとに生地の色を決めた。

音声は、夏目漱石の孫である夏目房之介氏の声を録音して音素に分解、それを再合成して人工音声を作り出した。

頭部、頸部、腕部など44か所には空気アクチュエーターを埋め込んであり、首や両腕を動かしたり、表情を変えることができる。

今後はアンドロイドに搭載する授業・講義用プログラムを開発し、実際に大学などで授業や講義を行っていく計画だ。

アンドロイドを通して新たな漱石研究

漱石アンドロイドは、授業や講義といった教育関連での活用だけではなく、新たな文学研究にも役立てていく。

二松学舎大学では、授業・講義用プログラムを開発していく中で、漱石文学や漱石の話し方などについての研究を深め、新たな「漱石像」を探求するとしている。

アンドロイドの漱石像と、個々の漱石研究者が抱いている漱石像との相違点などについても、研究対象としていく予定だ。

さらに、社会におけるアンドロイドの受容性についても研究を進める。漱石アンドロイドを教育現場で活用することで、漱石アンドロイドが社会にどのように受け入れられ、どういった存在になっていくのかを検証していく。

具体的には、大学・高校・中学の講義や授業を行う際、学生・生徒に詳細なアンケートを実施し、アンドロイドに対する受容性などのデータを蓄積し研究を進める。

可能性を秘めた漱石アンドロイド活用

最近は店頭やホテルでロボットが接客するのを目にする機会も増えてきた。また、囲碁においては、人工知能が世界トップレベルの棋士に勝った。人工知能を使って執筆した小説が、「星新一賞」の一次審査を通過したことも話題となった。

将来は漱石アンドロイドが執筆した小説を読んでみたいが、そのためにはさらに多くの研究が必要なようで、実現はまだ遠そうだ。

今回の二松学舎大学の漱石アンドロイドを活用した授業や文学研究は、大変に意欲的な取り組みだ。

今後どのような展開を見せていくのか注目していきたい。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年2月6日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第36回】ICTキャンパス 滋賀大学 データサイエンス学部「データサイエンティスト育成へ 日本初の拠点学部を設置」 2017年1月1日




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滋賀大学データサイエンス学部のサイト。データサイエンティストを育成する。

滋賀大学は2017年4月、日本で初めての「データサイエンス学部」を設置する。日本で不足しているデータサイエンティストを育成するための体系的な教育を行う学部だ。募集定員は1学年100人。同大学が入学意向や採用意向を調査すると、定員を大きく上回る反応があるといい、受験生や企業から大きな注目が集まっている。

カリキュラムにはPBL演習も

近年、個人の購買履歴など膨大なデータがネットワーク上に集積されるようになった。データサイエンスとは、こうしたビッグデータを新たな資源として、そこから付加価値を生み出す学問のことだ。

データサイエンス学部長に就任予定の竹村彰通データサイエンス教育研究センター長は、同学部を設立する背景について「データサイエンティストの育成の重要性は政府も指摘しています。滋賀大学は、データサイエンス学部を設立して、社会的な要請に応えるとともに、人文社会系大学から文理融合型大学への転換を進めていきます」と話す。

カリキュラムでは、データサイエンスの基礎的なスキルである統計学と情報学に加え、実際のビッグデータを活用した「価値創造」を重視するのが特徴だ。

そのため、実際のデータから課題を発見し、解決策の提案力を養うPBL(Project-Based Learning)演習に力を入れる。演習内容は、マーケティング、観光、環境、医療、バイオなど多様なものになる予定だ。

履修モデルは、学生の関心・適性や卒業後の進路に合わせて、技術者を目指す「データエンジニア型」、企業などでデータ解析を行う「データアナリスト型」、企業や自治体などの実務に応用できる「データコンサルト型」の3つだ。

学生はプログラミングや数学も学ぶが、それらの専門家を養成するための学部ではないので、各学生の志向に合わせた履修内容としている。

ドコモgaccoが講座などで協力

データサイエンスに関する講座をこれまで多数開設してきたドコモgaccoが、協力する。

ドコモgaccoとは、本格的な内容の大学講義をインターネットで提供しているウェブサービスだ。データサイエンス学部では、ドコモgaccoの「統計学Ⅰ」「統計学Ⅱ」の2つ講座を利用し、通常の講義ではなくアクティブラーニング型の講義を行う予定になっている。

また、ドコモgaccoは学部紹介のビデオを2本作成した。さまざまな分野で活躍しているデータサイエンティストの活動や考え方を紹介しながら、データサイエンスという学問の内容や、データサイエンティストに求められる人材像を伝えるとともに、それらがデータサイエンス学部のカリキュラムにどのように反映されているかを盛り込んだ内容になっている。

価値創造の面から手法の有用性を理解

竹村氏は、データサイエンスを学ぶ際に重要なことについて、「統計学や情報学の手法について概観し、実際のデータを応用して実践しながら、価値創造という面から手法の有用性を理解することが、まず第一歩です。その後、手法の背景となる数学的な理論を学ぶことで、理論の理解も深まります」と話す。

データサイエンスは、応用範囲の広い学問分野だ。インターネット、POS、各種センサーなどで蓄積されるビッグデータと、それらを分析・利用するデータサイエンスの有用性はますます高まっていくだろう。データサイエンティストの育成を担う同学部の教育に期待したい。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年1月1日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第35回】ICTキャンパス 徳島大学 理工学部 理工学科「プログラミングで反転授業 冒頭30分の説明が不要に」 2016年12月5日




授業冒頭の説明なしすぐに実習を開始

反転授業を本格的に取り入れる大学が増えてきた。徳島大学理工学部 理工学科電気電子システムコースでは、マイコンプログラミングの演習授業に反転授業を平成26年度から導入。現在は、さらに効果を上げるための取組がなされている。

反転授業を導入した授業は、1年生後期「電気電子工学入門実験」(必修1単位)の「マイコンプログラミング」3回分の実験授業だ。

受講学生数は約110人で、27人程度ずつ4グループに分けて実施している。マイコンボードArduinoを使い、簡単な電子工作とプログラミングを体験するのが狙いだ。

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実習を⾏っているコンピュータ実習室

反転授業を導入以前、2時間30分の授業時間中、冒頭の30分から1時間ほどを実習の説明にあて、残りの時間で実習を行っていた。授業時間全体における説明時間の割合が多く、説明時間の短縮が課題であった。
徳島大学工学部電気電子工学科 芥川正武講師は「反転授業を行う授業は、電気電子システムコースにおける導入科目という位置付けです。そのため、深い専門知識は必要とせず、学生に動くものを作る経験をさせることに主眼が置かれています。授業の趣旨から、手を動かす実習の部分に、できるだけ時間を割きたいと考えていました」と話す。

反転授業を取り入れたことにより、これまで授業時間の中で行っていた説明内容は、事前に動画で視聴できるようになり、授業では基本的に説明をせずにすぐに実習に入れるようになった。

説明動画は9割の学生が視聴

事前説明に使う動画は教員が作成している。

Keynoteでプレゼンテーションファイルを作成。ナレーションを録音し、QuickTimeムービーで書き出して、Youtubeへアップする。動画のURLを知らないと視聴できない限定公開だ。

事前学習用として、動画のほか、PDF形式のテキストと、事前の説明内容が理解できたかどうかを確認するための問題を、徳島大学のLMS(Learning Management System=学習管理システム)に載せている。

芥川氏は「少なくとも実習内容を何も知らずに授業に臨む学生は減りました。電子工作が得意な、あるいは関心の高い学生は、予め、様々な試作に自主的に取り組み、授業では専門的な質問をしてきたり、自分で部品を購入して自主的に回路を組むなど、積極的に授業に取り組むケースも増えました」と効果を話す。

事前説明の動画は、受講学生の約9割が視聴。確認問題の解答率は、授業直前にはほぼ100%になっている。

授業を始める前に、LMSに載せた確認問題の解答状況を集計すれば、理解度の低い内容について、実習時間中に解説を加えることもできるようになった。説明動画の作成、保守、LMSコンテンツの作成などの作業が追加で発生したが、負担はそれほど増加していない印象だという。

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実習の様子

どれだけ本気で予習に取り組めるか

反転授業の実施について芥川氏は「学生にどれだけ事前予習を本気で取り組んでもらえるかが最も重要」と話す。

動画は当初、20分前後の長さがあったが、学生の集中力が続くよう3分から8分ほどの長さに分割・再編集した。また、確認問題を増やしたり、予習をやってくるように、しつこく周知したりしたという。教員側が、こうした学生のモチベーションを維持させるための細かな対応を行っていることも、反転授業の効果を上げている要因だと言えそうだ。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年12月5日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第34回】ICTキャンパス 専修大学 ネットワーク情報学部「ロボットと共存する世界をPepperの技術で実現へ」 2016年11月7日




専修大学ネットワーク情報学部の江原淳教授のもと、学生たちがPepperを活用して、ロボットと人間が共存する世界の実現に取り組んでいる。江原教授と学生に取材した。

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江原教授は「ロボットの限界を考えつつ、アプリに新しい意味を持たせることが重要」と語る

アプリ開発が鍵を握る実世界のネットワーク化

アプリ開発に取り組むようになった理由を、江原教授は次のように説明する。

「人はネットワークから得られた情報を多様に解釈することで、創発性が高まります。従来はそれがディスプレーを介して起きていましたが、今はWiiFitやポケモンGOのような実世界インターフェースになり、いずれは実世界自体がIoTでネットワーク化していくと思われます。これは自然に実現されるわけではなく、意味のあるアプリケーションが普及することで、徐々にシフトしていくと考えています。そこで、ロボットによる実世界インターフェースで、技術の限界を踏まえながら、アプリにどう新しい意味を持たせるかが重要だと考え、プロジェクトを始めました」

プロジェクトは、学生が発案して自主的に実行する典型的なPBL(Project Based Learning、プロジェクトをベースにした実践型・参加型の学習形態)科目だ。

学生はアプリ開発を通して、コレグラフ(Pepperアプリを作るためのプログラミング・ソフトウェア)やPython(汎用プログラミング言語)をはじめ、情報分析、課題設定、プロジェクト管理などを学んでいる。

江原教授のプロジェクトではこれまで、Pepperを使って、歌や動作でスポーツの応援をするアプリ、イベント来訪者に場所や内容を案内するアプリ、年配者らの体調を記録・診断するアプリなどを開発してきた実績を持つ。

Pepperでしかできないアプリを

今学生が取り組んでいるのは「娯楽」「介護」「案内」をテーマにしたアプリ開発だ。プロジェクトに参加する9人の学生が、3人ずつ3つのグループに分かれ、アプリ開発に挑戦している。
娯楽では「Pepperならでは」の楽しさを追求し、Pepperに踊りを踊らせるアプリを開発中。日本の伝統的な踊りの完全再現を目指している。

介護では、認知症予防のために会話をしたり、付属センサーを使って介護者の状態を把握し、そのデータを介助者らへ送信することなどを念頭に開発を進めている。

案内では、専修大学への来訪者(入学を考えている高校生やイベント時の訪問者など)に向けて、専修大学の施設について、Pepperがしゃべったり画面に映し出したりして伝えるものとした。

プロジェクトに参加している学生からは、次のような声が寄せられている。

「プロジェクトに参加する前は『Pepperを使って何かをする』という漠然とした内容だったので少し不安がありましたが、参加してみると『こんなことをPepperでやれたら面白そう』という考えがたくさん浮かび、プロジェクトに対する期待がふくらみました」

「Pepperにしかできないことを考えるのは少し大変でした。スマホでできるようなアプリではPepperで行う意味がなくなってしまうので、その部分はメンバーでよく話し合い、時間をかけて作業しました」

今年7月、アプリ開発の中間発表を行った。今後は今年12月の最終発表に向けて、アプリの完成度を向上させていく。最終的には、実際にアプリストアで販売できるだけの品質を持ったアプリにしていく考えだ。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年11月7日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第33回】ICTキャンパス 金沢工業大学「遠隔でリアルタイムに学生の文章作成を支援」 2016年10月3日




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文章の添削をwebで行える。テキストチャットで文章をブラッシュアップする。

学生にとって、文章を書く機会は授業で提出するレポート、就職活動でのエントリーシートや小論文、卒業論文などとても多く、文章作成のスキル向上は必須。

金沢工業大学では、学生の文章作成能力を向上させるため、「リアルタイム遠隔文章作成指導支援システム」を構築。試験運用を行ったところ、指導スタッフ、学生双方から高い評価を得ることができた。

対面指導が受けにくい学生向けに開発

同大学では、学生の文章作成を支援するため、「ライティングセンター」を設置している。

ここには、文章を指導するスタッフがいて、学生と対面で、小論文や各種レポートの添削および文章作成におけるヒントを与えている。しかし、4年生は就活の小論文や卒論の作成などで文章作成の指導の必要性が高いにもかかわらず、同センターのある扇が丘キャンパスから15キロほど離れた八束穂キャンパスの研究室にいることが多いため、同センターを利用しづらい状況にあった。

システムの開発に携わった、金沢工業大学 情報フロンティア学部 メディア情報学科 山岸芳夫准教授は「今回のシステムによって、ライティングセンターのスタッフが、学生にオンラインでリアルタイムに、対面と同様の文章作成指導を行えるようにしたかった」と話す。

システムはウェブアプリケーションのため、ソフトのインストールなどは必要なく、ブラウザのみで利用が可能だ。

ウェブアプリなのでブラウザから利用可能

利用するには、ログインし、指導者あるいは学生が、アプリ上に「ルーム」を作成する。双方がルームに入ると、文章の作成、推敲、添削が可能な画面になる(画像上)。

ここで学生は文章を書くか、コピー&ペーストして入力する。指導者と学生はテキストチャットしながら推敲添削を進める。その際、各種アノテーションツール(画像下)を用いて文章にアノテーション(強調、注釈、修正指示など)を追加することができる。

指導スタッフ、学生ともに高評価

テキストの変更およびアノテーションの内容は、指導者側、学生側ともにリアルタイムで画面の文章に反映される。再度ログインしてルームに再入室すれば、最後に保存された状態から閲覧したり指導を続行したりできる。

試験運用した結果、指導者側からは「非常に便利。遠隔のみならず対面の指導においても有効ではないか」という意見があった。一方、学生からは「センターから八束穂キャンパスにいても文章を見てもらえるのでとても助かる。システムが本格運用を始めたらぜひ利用したい」という感想が複数寄せられた。

「学会で発表したところ、大学コンソーシアムで行っている大学間連携の取り組みにも応用できるのではないかというコメントをいただきました」(山岸准教授)

今後は要望があれば、音声によるチャット機能などの追加も行っていく予定だ。

山岸准教授は「添削指導を人工知能で行えれば、スタッフの負担が激減すると予想できます。ただし、そのような環境が実現するのは、もう少し先の未来になりそうです」と話す。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年10月3日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第32回】ICTキャンパス 大阪総合保育大学「ポートフォリオシステムで効果的な振り返りを実現」 2016年9月5日




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大阪総合保育大学は保育系単科大学として平成18年に開校。理論と実践の融合を重視しており、今年度からクラウド型ポートフォリオを導入した。

大阪総合保育大学は、平成18年に日本初の保育系単科大学として開学した。開学当初から、理論と実践の融合を図るため、「子どもと1700時間」プログラムを学びの柱として実施している。平成28年度からは同プログラムにおいて、クラウド型ポートフォリオシステムを導入し、学習の振り返りや情報共有に効果を挙げている。大阪総合保育大学児童保育学部藤田朋己准教授に同プログラムや、クラウド型ポートフォリオシステムの活用について話を聞いた。

自分と向き合うため効果的なツール

同大学の「子どもと1700時間」プログラムは、「免許・資格取得のための実習(約740時間)」と、「1週間に1日(8時間)1年間継続して現場(保育所・幼稚園・こども園・小学校)に行くインターンシップ実習(約960時間)」からなっている。

学生は「子どもと1700時間」プログラムを通して、子供たちとの直接的な関わりの中で、大学で学んだ専門的な知識や技術を発揮するとともに、これから身に付けるべき知識や技術が認識できる。

また、「先生」という職業を選択するにあたって、自身の適性や、目指す先生像はどのようなものかなどについて考えることもできる。

「現場における経験を自身の成長に結びつけるためには、絶えず自身と向き合い、振り返りを行うことが大切です。しかも、科目単体でそれを行うのではなく、現場実習に関わる複数の科目を横断的につなげていく必要性を感じていました」と藤田氏は話す。

このようなことを実現させるために導入を開始したのが、クラウド型ポートフォリオシステム「manaba(マナバ)」だ。manabaを採択した理由は、クラウド型であることのほか、コストパフォーマンスが良いことや、操作がシンプルで利用しやすいことなどがあった。

日々の活動をポートフォリオに蓄積

manabaは、学生個々の1年次から4年次にかけての4年間に対して、主に次のような活用を行っている。

●「進路や取得希望資格の管理」教員はmanabaで学生の希望状況をいつでも閲覧可能。学生は自身の進路希望の変化を振り返ることができる。

●「インターンシップ希望調査」manabaを使うことで事務処理を効率化。また、学生は進路希望の振り返りに利用。

●「インターンシップ状況調査」教員は、学生の状況把握に活用。学生は過去の振り返りに利用。調査結果をもとに、「子どもと1700時間」プログラムの質的向上を目的とした研究も行う。

●「インターンシップ融合科目」同大学では、現場実習と高い関連性がある科目を「インターンシップ融合科目」と呼んでいる。この科目は、教員の提示した課題をもとにしたアクティブラーニングなどを実施。manabaに入力したデータは、学生自身のポートフォリオとして蓄積される。

ほかの学生の課題を見ることで刺激も

学生からは「ほかの人の提出した課題を閲覧することができ、自分と異なる考えを知ることができるのはとても刺激的」、一方で教員からは「学生が入力したものをデータとして吸い上げることができるので、データの活用が可能となり、データ集計などでの時間の効率化が図れた。研究や資料作りも円滑に行えるようになった」などの声が寄せられており、好評だ。

今後は、学生の4年間の軌跡をポートフォリオに蓄積し、より効果的な学習や指導に役立てていく考えだ。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年9月5日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第31回】ICTキャンパス 東京電機大学「プログラミング入門学習後にマイコン”Arduino”導入」 2016年8月1日




東京電機大学情報環境学部土肥紳一教授は、プログラミング入門教育を終えた学生を対象に、Arduino(アルドゥイーノ)を活用した講義を実施し、学生のプログラミングに対する興味・関心を一層高めている。

土肥教授に、Arduinoを採用した狙いや導入効果などについて取材した。

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エクステンションで学ぶハードウェア入門

東京電機大学情報環境学部では、1年次の「コンピュータプログラミングA」の授業において、Java言語の基礎を学習する。年度の授業が終わった1~3月の時期、同学部ではエクステンションという制度を設け、学生は興味あるテーマの講義に自主的に参加する教育プログラムを展開。土肥教授はこのエクステンションにおいてArduinoを活用した「コンピュータプログラミングAを終えた後のハードウェア入門」を平成26年度から毎年実施している。参加者は毎年約20人。単位の認定はないが、学生のモチベーションは高いという。

必要部品が揃った

「Arduino」は、イタリアで開発されたマイクロコンピュータだ。その文法はJavaと似ており、コンピュータプログラミングAで学習した知識が活かせる。

土肥教授はArduinoを採用した理由について、スイッチや光センサーなど、必要な部品がひと通り入ったキット「Arduino Uno」が4000円程度と学生にとって負担にならない価格で販売されていること、参考用ウェブサイトや書籍が多くあることを挙げる。

エクステンション活動は3日間だ。

1日目に学生は各自、自分のノートPCへArduino統合環境をインストールする。その後、2、3日目にかけて、ハードウェアの制御を学ぶ。
扱うハードウェアは毎年変えており、初年度はハードウェアとしてLEDを使い、これを1秒ごとに点滅させるプログラムなどを学習した。今年はサーボモーターを使った講義を行った。

こうしたプログラミング学習は、初歩的な印象を持つかもしれないがそうではないと語る。例えば、暗くなったら自動的に照明がつくようにしたいと思っても、「コンピュータプログラミングA」の授業を受けただけの学生は、そうすることはできない。プログラミング入門教育では、キーボードが標準入力であり、明るさを数値化して入力する方法がないからだ。その点、「Arduino Uno」には光センサーが含まれ、明るさを数値化できるため、LEDのコントロールが可能だ。

同時に、学生はソフトウェアとハードウェアとの関連についても体験的に学ぶことができる。

超音波距離センサー取り入れた講義を予定

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超音波距離センサー
来年1月の講義では、Arduinoと超音波距離センサーを扱う

参加した学生には好評だ。学生の講義に対するモチベーションを「SIEM(シーム)」という独自開発した手法で測定してみると、コンピュータプログラミングAの授業に比べて高いことが分かった。

「Androidアプリの開発をしているが、ハードウェアはこれまであまり触れたことがなかったので楽しかった」「Arduinoのことは知っていたが、さわったことがなかった。いい経験になった」「3日間の講義だったが、新たに学んだことが多かった」などの声が寄せられている。

今後も、引き続き新鮮味のある講義内容にするため、次回(来年1月)の講義では、超音波距離センサーを使う予定だ。

土肥教授は「学生の独創性や創造性を喚起させるための良いきっかけにしていきたい」と抱負を語った。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年8月1日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第30回】岡山大学「ビッグデータで教育環境づくり」 ICTキャンパス 2016年7月4日




「教育」を「科学的なサービス」に
教育分野でも活用が注目されているビッグデータ。岡山大学大学院教育学研究科寺澤孝文教授は「スケジューリング」という新しいアプローチを用いて、ビッグデータの教育活用を実践し効果を上げている。寺澤教授に、スケジューリングアプローチの概要やビッグデータが教育に及ぼすインパクトについて取材した。

寺澤教授は「教育はこれまで、科学とは言い難いサービスであった。スケジューリングアプローチからビッグデータを活用することで、完全に科学と言えるサービスに落とし込むことが可能になった」と話す。教育分野の学習データは、他の分野で収集される行動履歴データに比べ、個人ごとの反応データが大量に収集できるため、個人の行動予測には最適な特徴を持つ。

しかし、そこには問題もある。例えば、ある問題を勉強して次の日にテストをした場合と、1か月後にテストをした場合とでは、成績は大きく異なってくる。問題をいつどのような「タイミング」で、どのように学習し、それからどれ位の「インターバル(期間)」をおいてテストするのかといった、「タイミング」と「インターバル」という時間条件を考慮する必要がある。これまではこうした「時間条件」を制御しデータを収集する方法はなかった。そこで寺澤教授は、学習とテストの生起タイミングを事前に制御して、データ収集を行う方法を開発。これが「スケジューリング」と呼ぶアプローチだ。

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教育ビッグデータにスケジューリング技術を実装したeラーニング教材で英単語の成績を個別に可視化。高校生の英単語の成績は3週間で飛躍的に伸長した。

学習の積み重ねと成績が可視化
スケジューリングアプローチでデータを収集すると、精度の高い時系列データが大量に入手できるようになり、成績などの予測精度も飛躍的に高まった。「ドリル学習などの成果が可視化できるようになり(上図参照)、成績の低い子でも、日々の学習の積み重ねの様子と成績を自分で見ることで『やればできるようになる』と実感できるようになった」という。

東京の麻布高等学校や長野県の飯田高等学校などで、英単語学習についての実証実験を行った際には、1日に1単語を5回以上繰り返して学習しても、1か月後には、繰り返しが4回以下の場合とほとんど効果に差がないことが明らかになった。しかし、覚えようと意図せずに、見流す程度の学習でも、成績は着実に上昇することがはっきりとデータに表れた。

現在は岡山県や長野県の小学校などにおいて、スケジューリング技術を実装したeラーニング教材による検証を行っている。岡山県赤磐市の小学校で行った検証では、漢字の読み書きドリルを1年半継続したところ、子供の成績の向上と共に、学習意欲も明らかに向上した。漢字など、1人で学習すれば習得できる基礎的な内容はeラーニング教材でサポートし、皆でなければできない学びや思考力の育成などに教員が注力できる環境づくりを目指している。

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一斉実施の入学試験不要になる可能性も
スケジューリング技術を使い収集し生成されたビッグデータは、想像を超える応用の可能性がある。「典型的な例は、入学試験が不要になる可能性もある。スケジューリング技術を実装した最新のeラーニング教材は、一夜漬けの学習効果を排除して、実力を正確に測定できる。現在行われているような、特定の日に一斉に実施する入学試験は必要なくなるかもしれない」

今後も、学校の教育現場で、創造的思考を育む教育に時間が費やすことができる環境作りを進める考えだ。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年7月4日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第29回】「教育や学習に関わるビッグ・データを構築・活用」ICTキャンパス 九州大学 2016年6月6日




学習活動プロセスをデータ化して蓄積
九州大学は今年2月、「ラーニングアナリティクスセンター」を設置した。同センターは、教育に関わるビッグデータを収集・分析し、教育や学習のさらなる向上をサポートしている。

同大学では2013年4月から、学生が自分でノートPCを講義に持ち込むPC必携化(BYOD:Bring Your Own Device)を推進。

翌14年4月からは「アクティブラーナー」(未知の問題や状況にも果敢に挑戦するスピリットと行動力を備えた人)の育成を目標に掲げ、全学1年生を対象に「基幹教育」(新たな知や技能を創出し、未知の問題も解決していく上での幹となる「ものの見方・考え方・学び方」を学ぶ教育)を行っている。

九州大学基幹教育院ラーニングアナリティクスセンター長 緒方広明氏は「アクティブラーナーとして、生涯にわたり自律的に学ぶ姿勢を身に付ける過程においては、『何を学習したか』だけではなく、『いかに学習したか』が重視されます」と話す。

そのためには、学習活動のプロセスをデータとして記録し分析することで、教育・学習の改善を行っていくことが大事になる。その役割を担っているのが、今回設置されたラーニングアナリティクスセンターだ。

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教育ビッグ・データを活用して「アクティブ・ラーナー」の育成を目指す九州大学

学習支援システム「M2B(みつば)」
ラーニングアナリティクスセンターは、次の4部門を設置し業務を推進している。

(1)研究推進部門=学内の学習ログや教育ビッグデータの分析・可視化による教育・学習支援の研究

(2)データ管理=学内の学習ログ・教育ログデータを統合管理する大規模データベースの研究開発

(3)企画・評価部門=データ分析による教員・学生・PTAとの相談による教育・学習改善の提案

(4)システム運営サポート部門=M2B(みつば)学習支援システムの利用促進とサポート

M2B(みつば)学習支援システムとは、eラーニングシステム「moodle(ムードル)」、日々の学習や教育におけるエビデンスを蓄積するeポートフォリオシステム「mahara」(いずれもオープンソースソフトウェア)、そして講義で使用する教材を電子化して配信するシステム「BookLooper」(京セラ丸善システムインテグレーションが提供)の3システムをまとめた学習環境のことだ。

ラーニングアナリティクスセンターは、M2Bシステムの利用促進に関する講演会やシンポジウムなども行っており、活用を推進している。

蓄積したデータの活用法を指南
ラーニングアナリティクスセンターは、M2B学習支援システムから得られる情報のほか、シラバスや成績などの学務情報を統合してデータを分析している。

学生や教員は、その分析結果を活用することで、予習の達成度や資料の閲覧パターンなどを知ることができるようになった。

また、教員は授業中、学生の教材閲覧状況を把握しながら、リアルタイムに講義の進行を変えることも可能になった。

データやエビデンスをもとに授業業を改善
「これまで授業の設計や教材の改善は、教員個人の経験に依存して行われることがほとんどでした。M2Bシステムを活用することで、教育・学習のプロセスで蓄積されたデータやエビデンスをもとに分析を行い、授業や学習方法の改善に役立てることができるようになりました」(緒方氏)。

今後は、学内でのシステム利用をより拡大していくとともに、取組の効果を検証し、学生の教育・学習を長期的にサポートしていくのが目標だ。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年6月6日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第28回】名古屋工業大学「Skype for Business 全員構成でつながる」ICTキャンパス 2016年5月9日




位置情報で学生の学習支援や安全確保
名古屋工業大学は、1905年(明治38年)に、官立名古屋高等工業学校として創立した。現在の学生数は学部・大学院を合わせて約5700人。創立以来、国内有数の産業集積地に立地する工科系国立大学として、百年以上にわたって7万人を超える人材を輩出し、日本の産業社会の礎を築いてきた。

同大学では昨年度と今年度、学内のICT環境をさらに充実させた。最新のICT整備状況について紹介する。

効率的で濃密なコミュニケーション
今年度、名古屋工業大学では全構成員(学生・職員)のつながりを強化させるため、Skype for Businessを活用したコミュニケーション環境を構築し運用を始めた。

Skype for Businessは、モバイルデバイス(学生や職員の私的端末)などで、音声、インスタントメッセージ(リアルタイムで比較的短いメッセージのやり取り)、オンライン会議、共同作業などができる統合コミュニケーションプラットフォームだ。

これを活用することで、日頃のメッセージのやりとりだけでなく、海外を含む長期インターンシップ時に、異なるPC間の画面・アプリケーションの共有やビデオ会議などで学習指導ができる様になり、より効率的かつ濃密なコミュニケーションが可能となった。一例として、連絡を取りたい相手の在席確認などもできるため、かけ直しやコールバックといったコミュニケーションロスが大幅に減少し、電話コミュニケーションの利便性が向上した。

モバイルシフトを推進 スマホアプリを導入
昨年度は、教育環境、事務環境、基盤システムにおいてICTの整備を進めた。

教育環境では、学生のメール環境を従来のActive mailからMicrosoft Exchangeに変更した。これによりスマートフォンでのメールコミュニケーションがよりスムーズになった。

同大学では、モバイルシフトを進め、スマホアプリを積極的に利活用している。授業の出欠打刻システムもその施策のひとつで、BLE(Bluetooth Low Energy、低消費電力の無線通信)発信機を利用したアプリを開発し導入した。

また、夜間まで実験や研究などのために大学に残っている学生も少なくないが、Beacon(位置情報などを取得するため壁などに設置し、電波を常時発信している装置)を活用することで、学生の居場所を教職員はリアルタイムで把握できるようになり、学生の安全確保にも大きく役立っている。

TA勤務管理システム 入試イベントにも活用
事務環境においては、TA(ティーチングアシスタント)勤務管理システムの運用を開始し、従来は紙ベースで行っていた事務作業を電子化。TA業務に関わるすべての作業をオンライン化させた。

さらに、オープンキャンパスなどの入試イベントにおける学生雇用においても利用できるよう機能を拡張させた。

また、基盤システムは、SINET(Science Information Network、学術情報ネットワーク、通称サイネット。国立情報学研究所が構築、運用している情報通信ネットワーク)の最新版5へと移行し、ネットワークのさらなる安定性を実現させた。

研究メールサーバーも更新し、メール保存容量を50GBへと増大させている。

位置情報データから個別学習指導が可能に
新しい試みに果敢にチャレンジする名古屋工業大学。整備された最新のICT環境を活用することで、より効果の高い学習支援が行えるようになった。

例えば、位置情報から得られる一人ひとりの学生の行動データを解析することで、優秀な学生に対する個別的な学習指導を行ったり、孤立してしまいがちな学生を発見して、適切なサポートをすることもできるようになる。

来年3月には、5年に1度の基盤システム全体のリプレイスを予定。さらに充実したICT環境の実現を目指している。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年5月9日号掲載

(執筆 蓬田修一)







Posted on 2025-09-06 | Category : コラム, 大学教育 | | Comments Closed