【第47回】ICTキャンパス 慶應義塾大学「Web会議システムでグローバル化に対応」 2017年12月4日




専用機不要で会議開催・参加できる
慶應義塾大学は平成29年2月から、全教職員と学生を対象に、クラウドベースのWeb会議システムの提供を開始した。グローバル化への対応や、大学業務の効率化などで効果が上がっている。

Web会議システムを導入した背景には、留学生の獲得のため、場所にとらわれないコミュニケーションツールの必要性が高まっていたことがある。同時に、複数キャンパス間をまたぐような案件を打ち合わせするときの、移動にかかる時間や費用を削減する目的もあった。

クラウドベースにした理由については、近年の傾向として、できるだけオンプレミスのサーバや専用機器などの導入はせずに、クラウド型のソリューションを採用する動きになっているからだ。

システムは「Cisco WebEx(以下WebEx)」を採用。

慶應義塾インフォメーションテクノロジーセンター(ITC)本部の坂東佑一氏はWebExを採用した理由について次のように話す。

「数年前からITC内で試験的にWebExを運用しており、その有効性は十分に検証できていました。また、業者からWebExの教育機関向けのプラン(Cisco WebEx Academic Offe)が提示され、比較的安価で全学導入ができました」

WebExは、専用機器が不要で、ユーザのPCやスマホから会議を開催したり、会議に参加したりできる。ユーザインタフェースがシンプルで、直感的に操作できること、チャットや録画、資料共有機能を持っていること、最大で同時に数百名規模まで参加できることなどが採用の決め手となった。

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慶応義塾大学のWeb会議システムでは
クラウドベースにすることで専用機不要で
会議開催・参加できるようにした

離れたキャンパスの学生も授業に参加
今回のWeb会議システムが、どのように活用されているのか。3つのケースを紹介する。

1つ目は、複数キャンパスをまたいだ案件および外部業者との打ち合わせでの活用だ。

従来は、比較的アクセスが良いキャンパスに全員が集合して打ち合わせを行っていたが、Web会議システムを活用することで、通常の職場にいながら、打ち合わせができるようになった。

次に、海外の留学生との面談における活用だ。これまでは国際電話などで行っていたが、料金も高額な上、お互いの顔も見えなかった。また、大人数が参加する面談には、不向きであった。

「Web会議システムを活用することで、お互いの顔を見ながら多人数での面談も可能になりました。料金面でもインターネットを使っていますので、国際電話のように話した時間に応じて料金が高くなるということもなくなりました」

最後は、授業での利用である。一部の教員は、システムを使って授業を行い、離れたキャンパスにいる学生も授業に参加できるようにしている。

学生が研究のためインタビューで活用
システムを利用している教職員からは、「他のビデオ会議システムより、海外との接続品質が良い」「複数のキャンパスを抱えているので、このシステムは大変ありがたく、今後も重宝していく」などの声も寄せられており、教員、職員双方から使い勝手が良いと評判だ。

学生も積極的に利用している。「研究の一環で、遠隔地の薬剤師の方や海外の研究者の方にインタビューした際に利用している。録画機能を使い音声を録画し、あとから確認できるので便利」であるという。

現在は利用者数が数百名にとどまっているが、今後はシステムの説明会などを積極的に開催し、活用をさらに推進していく考えだ。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年12月4日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第46回】ICTキャンパス 九州大学「学習プロセスを記録 教育を科学的に分析」 2017年11月13日




自律的に学ぶアクティブ・ラーナー
九州大学は、学習活動と教育活動を効率的かつ効果的に進めるための学習支援システム「M2B(みつば)」を開発し、平成26年度後期から試行的に利用を開始、27年度後期から全学展開している。

本連載28年6月号では、同学が「ラーニングアナリティクスセンター」を設置し、教育に関するビッグデータを収集・分析し、教育や学習のさらなる向上のサポートに注力していることを紹介した。

今回は、ラーニングアナリティクスセンターが普及を進めているM2Bの概要や導入効果、稼働状況などについて紹介する。

九州大学では平成26年度から、学生が生涯にわたって自律的に学び、未知の問題や状況に果敢に挑戦する行動力を備えた人材「アクティブ・ラーナー」の育成を教育目標に掲げ、基幹教育を行っている。

九州大学大学院システム情報科学研究院の島田敬士准教授は「自律的に学ぶ姿勢を身に付ける過程においては、『何を学習したか』ではなく『どのように学習したか』が重要です。そこで、学習活動のプロセスを記録し、そのデータを分析することで、学習活動や教育活動を科学的に分析し、その効果を評価したり、教育・学習の改善に資することが求められています」と、M2Bを開発・導入した経緯を話す。

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ヒートマップ機能の教員用画面(イメージ)。
何人の学生が、どのページを閲覧しているかが、
リアルタイムでヒートマップ表示(色による視覚化)される

教材の閲覧状況をリアルタイムに可視化
M2Bは①デジタル教材配信システム②eラーニングシステム③eポートフォリオシステムで構成されている。

各システムの概要は次のとおりだ。

①デジタル教材配信システム「BookRoll」

教員が登録した電子教材を学生に配信するシステム。学生はブラウザ経由で教材にアクセスするので、特別なソフトをインストールする必要がない。

ページをめくったり、ハイライトやメモ機能を利用したりしたときは、そのログが直ちにサーバに送信され、リアルタイムに学習者の状況が分析できる。

②eラーニングシステム「Moodle」

コース(授業)管理を行うシステム。コース内での教材へのリンク、出欠管理、小テスト、レポート管理などができる。

授業効果を分析するためのプラグインも開発中で、その1つがヒートマップ機能である。

これは、授業中に受講生が電子教材を閲覧しているログをリアルタイムに収集し、その情報を瞬時に集計・可視化するシステムだ。

何人の学生が、どのページを閲覧しているかがヒートマップ(色による視覚化)として教員PCの画面に表示される。

授業を実施している教員は、学生が自分の説明しているページを開いて聞いているかどうかを、その場で確認できる。

「ヒートマップを確認しながら授業を進めることで、授業進行のスピードを、学生の状況に応じて、現場で調整できるようになりました。また、スピード調整しながら行った方が、多くの学生が教科書内にハイライトやメモを残していることが分かりました」(島田准教授)

③eポートフォリオシステム「Mahara」

学生や教員が、主に活動日誌を書くために利用。コースごとのふり返りをしたり、コースを横断的に捉えて、自分の学びをふり返ったりする際に役立っている。

現在、M2Bの利用者数(学内)は1万7千172人。1451コースで活用されている(平成29年10月現在)。今後、さらに増やしていく計画だ。

M2Bシステムの学外展開も視野に入れており、大学だけでなく、小中高への展開も検討中だ。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年11月13日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第45回】ICTキャンパス 静岡大学「動画制作コストを劇的削減 ”クラウド反転授業支援システム”」 2017年10月2日




日本マイクロソフトと協力関係を締結
静岡大学は、日本マイクロソフトとデジタルトランスフォーメーション推進協力を今年3月に締結し、教育のIT化を加速させている。

デジタルトランスフォーメーションとは「デジタルへの変革」という意味だ。

同学は、授業動画制作の技術、クラウド技術、情報セキュリティ水準がいずれも高い水準にあり、平成15年にISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)国際認証を取得して以来13年連続で更新中だ。

一方、日本マイクロソフトは、企業や教育機関などに向けて、動画制作ツールOffice Mixや業務・教育・研究支援ツールOffice365を無償で提供。また、クラウドサービスAzureを低価格で提供している。

同学情報基盤センター長の井上春樹教授は「双方のこうした強みを統合し、相互補完することで、教育・研究のデジタルトランスフォーメーションの実現を図ることとしました」と語る。

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授業動画をクラウド上で活用している

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公開講座も多数開設している

世界に例をみない画期的な教育の革新
同学は平成24年から反転授業支援システムの研究を始め、27年に「大学教育テレビジョン」を開発。これをさらに発展させた「クラウド反転授業支援システム」を28年に誕生させ、校内外420名の教職員が実証を行っていた。

今回の協力関係の締結によって、「クラウド反転授業支援システム」にAzureを活用し、平成29年4月から、全学での本格的な運用を開始している。

「これにより大学全体で、低コストで反転授業が実現できました。これは世界に例をみない画期的なもので、教育の革新と言えます」と語る。

授業終了と同時に授業動画が完成
コストはどれくらい削減されたのか。井上教授の試算をもとに、概要を紹介する。

静岡大学では年に約4000以上の科目(コース)が開講されている。この約半分の2000コースに「クラウド反転授業支援システム」を活用した場合を試する。

1コースの授業動画数は10本必要で1年間に必要な授業動画数は2万本。従来の動画制作を基準に考えると、制作コストは1本あたり5万円で、年間10億円が必要だ。

しかし「クラウド反転授業支援システム」を活用することで、動画制作コストはほぼ不要となり、2万本の動画制作も、ほぼ不要になった。

「本サービスでは、日本マイクロソフト社が提供するパワーポイントのアドオンソフト、Office MIXを活用しています。これによって、講義終了と同時に高水準の授業動画が完成し、クラウドサイト上にアップロードされ、世界中に配信可能になります」

「クラウド反転授業支援システム」はAzureの全面活用により、登録動画数、教材数、教材容量の制限がなくなり、仮に100万本の動画を登録しても保管容量不足や処理性低下の心配がなくなったという。

現在「クラウド反転授業支援システム」は、同学のほか、他大学や教育機関において、利用が拡大中だ。

全体の登録教職員数は1770人、登録科目数は422、授業数は937、動画数は823となっている。

「今後さらに進め、目標ではありませんが、平成38年までに、静岡大学における50%の科目の反転授業化を期待しています」

「クラウド反転授業支援システム」は、授業支援だけでなく、情報発信手段としても積極的に活用していく予定だ。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年10月2日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第44回】ICTキャンパス 京都大学「未来社会の課題を解決 日立京大ラボで共同研究」 2017年9月4日




解決方法のイノベーションを創出

京都大学と日立製作所は昨年6月、共同研究部門「日立未来課題探索共同研究部門(以下、日立京大ラボ)」を、京都大学吉田キャンパスに設立した。

未来の社会課題の解決と、経済発展の両立を目指し、共同研究に取り組んでいる。これにより日立製作所の研究者と、京都大学の多様な人材とが一体となって共同研究にあたり、既知の課題解決方法ではない、新たなイノベーションを創出していく考えだ。
日立京大ラボには日立製作所の研究者10名が常駐。うち2人は特定准教授として京都大学に出向中だ。

その1人である嶺竜治氏は「社会システムの変革を先導し、人々に豊かさをもたらす価値を創造しながら、社会課題の解決と経済発展を両立させることが極めて重要になってきています」と話す。

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山極壽一京都大学総長(左)、東原敏昭日立製作所社長(右)

生物進化に学びながら人工知能を探求

同ラボが取り組む課題の1つが「未来社会と文化の探索的な洞察による『2050年の社会課題と、その解決に向けた大学と企業の社会的価値提言』の策定」だ。

幅広い学問領域において真理や基礎を探究している京都大学の研究者と、「人視点」で社会課題を描き出し将来像を提示する日立のデザイナーとのディスカッションを通じて、2050年の課題の設定やビジョン発信を進めていく。

2つ目が「環境や文化と共生しつつ社会課題を解決し超スマート社会を実現するための『ヒトや生物の進化に学ぶ人工知能システム』の探究」だ。

ITの普及やグローバル化の進展に伴い、価値観や行動様式が大きく変化している。

こうした中、次々に現れる課題に対して、迅速な対応が求められている。そこで同ラボは、生物のように自己変革しながら、臨機応変に問題を解く次世代の人工知能を探求していく。

人工知能をテーマに設定した理由について、嶺氏は「今後、社会課題を解決する上で、IoT(Internet of Things)でモノやヒトのデータをつなげ、集めたビッグデータを解析して効率化を進めていくことが不可欠になります。日立は、ビッグデータを活用して様々な最適化や判断を自動化し、企業のアウトカム(成果)の向上に貢献する人工知能の研究開発を進めてきました。その一方で、急激に変化する時代を見据え、次世代の人工知能の研究開発にも取り組むべきと判断しました」と語る。

3つ目が「未来の社会インフラやヒトの生活文化を切り拓く革新的なモノの創生に向けた『基礎物理のための最先端計測』の探究」だ。

材料機能発現のメカニズムを解明し、新たな材料の開発に挑戦していく。

「京都大学の物性物理分野の基礎研究と、日立の持つ原子分解能の超電子顕微鏡の活用を通じて、例えば、理論的に予想されるが、いまだに検証できていない物理現象の解明に取り組んでいきたいと考えています」

今後、オープンフォーラムなどの社会に開かれた研究活動の推進や情報発信を積極的に進めていく計画だ。

日立製作所はこのほか、東京大学と「日立東大ラボ」、北海道大学と「日立北大ラボ」もそれぞれ開設。

日立東大ラボは、従来の課題解決型産学連携の発想を転換し、日本政府が提唱する「超スマート社会(Society5.0)」の実現に向け、新しい形の研究開発を推進する。

日立北大ラボは、北海道が直面している少子高齢化や地域経済の低迷などの社会課題解決に向けた共同研究を推進していく。(蓬田修一)

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年9月4日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第43回】ICTキャンパス 京都ノートルダム女子大学「電子モジュールを磁石で接続 コンピュータ回路を理解する」 2017年8月7日




「情報科学概論A」で平成27年度から導入

京都ノートルダム女子大学(京都市)は、カトリック精神に基づき、知性と品性を併せ持つ女性の育成を目指して、昭和36年に開学した。

1833年にドイツ南部のバイエルンに創立され、現在は世界34か国に教育機関を持つ「ノートルダム教育修道女会」を母体とする女子大学だ。

同大学は平成27年度から、人間文化学部「情報科学概論A」の授業で「littleBits」を導入している。これはいくつもの電子モジュールを磁石で付けて、電子回路を完成させることができるというもの。

ハンダ付けや配線は不要だ。同学で非常勤講師を務める中村亮太氏は、授業でlittleBitsを使うことになった経緯について、「LilyPad研究会という、京都ノートルダム女子大学の学生が中心となったグループがあり、マイコンと『かわいい』を組み合わせた作品制作を行っています。

この研究会でlittleBitsを用いた電子回路の勉強会を行ったところ、学生たちは手を動かしながら、情報科学を体験的に楽しそうに学んでいたため、授業でも採用しました」と話す。

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研究会でlittleBitsを用いて〝かわいいモノ〟を制作

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「情報科学概論」でlittleBitsを活用。論理回路を学ぶ

配線時間が短縮 授業運営に好影響

littleBitsを活用している「情報科学概論A」の授業内容は、コンピュータはどう動いているのか、コンピュータのデータは内部でどのように表現されているのかを学び、コンピュータとどう向き合っていったらいいかを考えていこうというものだ。

平成27年度と28年度の授業では、15回(1回90分)のうち、論理回路を扱う2回の授業でlittleBitsを用いた。今年度は、「littleBitsを使った今までにない楽しいものを制作しよう」という授業を1回追加した。

学生からは「回路は分からないことだらけだったが、思いついたことをそのまま実践したら意外とうまくいった」「回路をつなげる時に、どうすればつながるのかなどを考えるのが楽しかった」「聞くだけではなく、考えながら実際に作るという実践型なのがいい」などと好評だ。

中村氏は「ブレッドボードなどで回路を組むことでも体験的に学べますが、配線などが難しく、そこで時間がかかってしまうと、本来学んでほしいことに割く時間が少なくなってしまいます。

littleBitsは接点に磁石が埋め込まれていて、正しい方向にしか付かないようになっているため、配線にかける時間を短縮でき、学んでほしいことを重点的に教えることができます」と話す。

本授業が好評だったことから、今年度から新設された全学生対象の共通教育科目「情報科学入門」でも活用。授業を担当するのは「小学生の継続的な学習が可能な手芸や工作を活用したプログラミング教材の開発と普及」(科学研究費助成事業基盤研究C)の研究を行っている同大学の吉田智子教授だ。

littleBitsを用いた取組は、この研究の一環でもある。最終目標は、プログラミングや電子工作などを通じて情報機器がどのように動いているかを体験し、情報機器の仕組みを教養として学ぶ「教養プログラミング学習」の普及だ。

今後もその目標実現のためlittleBitsを活用しながら、教育実践を重ねていく考えだ。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年8月7日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第42回】ICTキャンパス 東京大学「膨大な移動データをクラウドで処理・提供」 2017年7月10日




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「人の流れプロジェクト」 http://pflow.csis.u-tokyo.ac.jp/

26都市・440万人分のデータセットを整備

東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)および東京大学生産技術研究所の柴崎・関本研究室は、2008年度から「人の流れプロジェクト」に取り組んでいる。

同プロジェクトは、人の行動に関するデータを処理し、人の流れについてのデータを提供するものだ。

東京大学空間情報科学研究センター・特任講師の瀬戸寿一氏は同プロジェクトについて、次のように説明する。

「人やモノの移動に関する様々な調査・観測データのクレンジング(データ品質を高めるための修正や正規化作業のこと)や、経路推定を共通に処理する技術基盤を整備し、主にパーソントリップ調査にもとづく移動統計データを、単位時間ごとの連続的なデータとして独自に整形あるいは再構築します。こうすることで、様々な分野において活用可能なデータセット(データアーカイブ)を整備・提供しています」

「パーソントリップ調査」とは、国土交通省の地方整備局や県庁の都市計画課など公的機関が、主に交通計画の立案のために都市圏ごとの人の動きに関して、数年~10年おきに質問紙を用いて実施した実態調査を指す。

現在までに、国内外26都市、約440万人分の移動データがデータセットとして整備された。

これらは、CSISの共同研究利用システム(JoRAS)を通じて広く研究目的のために提供されている。

提供されたデータセットを活用することで、外部の研究機関などにおいて年間約50件の共同研究が実施されている。

特徴的な研究成果を紹介すると、災害発生時における人々の避難シミュレーション(https://www.geospatial.jp/gp_front/show_case/tsunami)や、アジア都市圏の都市構造の解明(http://pflow.csis.u-tokyo.ac.jp/archives/767/)などがある。

「ほかにも、観光行動の実態把握や新型感染症伝播モデルに関する研究なども行われており、従来の主な研究テーマであった交通・都市計画の分野から、大きく広がっています」

クラウドで自由度の高いカスタマイズ環境を実現

人の流れプロジェクトでは、クラウドサービスを2013年度から本格的に活用している。

大量かつ多種類のデータを処理したり、ウェブページなどで動画として公開するためのビジュアライゼーションの生成において用いている。

「特に経路推定処理を行ううえで、広範囲のデータ処理や、道路・公共交通ネットワークとの紐付けには、クラウドサービスを活用した分散処理環境が欠かせません」

クラウドサービスを活用した理由は、データの保管のみならず、データ処理や解析環境を、容量や規模に応じてカスタマイズして利用することが可能だったからだ。

クラウドサービスはアマゾン ウェブ サービスを採用。

その理由について瀬戸氏は「導入にあたり、同様のサービスを比較検討した結果、多くの導入実績があり信頼できるサービスであったことに加え、扱えるデータサイズや仮想環境も非常に多様で、OS選択段階からカスタマイズ可能でフレキシビリティに優れている。コストパフォーマンスも高かった」と話した。

今後は、引き続き提供都市を国内外で増やしていくことで、データ提供サービスを充実させ、さらに多様な研究ニーズに応えていく考えだ。

瀬戸氏は「個別の研究プロジェクトにおいては、統計調査データ以外の異種データを組み合わせることで、これまで取り組んできた交通行動の実態把握や災害時における人流推定を高度化することができるしょう。また、センサーなどから取得されたデータによる、人流推定処理の短時間化やリアルタイム化も目指していく予定です」と抱負を語っている。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年7月10日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第41回】ICTキャンパス 近畿大学 広島大学「進むクラウドサービス活用 コスト削減やシステム拡張に有利」 2017年6月5日




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近畿大学キャンパス

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広島大学外観

教育系や事務系のシステム運用において、学外のクラウドサービスを活用する大学が増えている。

かつては運用面などにおいて不安視されることもあったクラウドサービスだが、今は品質も向上し、コスト面でもオンプレミス(情報システム設備を大学が保有し運用すること)と比較すると優位性があることなどから、多くの大学が注目している。クラウドサービスを提供する企業の中でも近年、多くの大学に採用されているのがアマゾン ウェブ サービス(以下AWS)だ。

AWSはネット通販事業のAmazon.comの関連会社。あまり知られていないが、同社は平成18年からクラウドサービスを提供しており、現在は約190か国以上で利用されている。同社の発表によれば、今年第一四半期の総売上(約三五〇億七〇〇〇万ドル)のうち、AWSの売上はわずか十分の一程度だが、営業利益は約九割を占めている。利益面から言えば、同社にとってクラウドサービス事業は大黒柱に育っているのだ。

今回は、AWSのクラウドサービスを活用している近畿大学と広島大学を紹介する。

オンプレミスが適切か疑問だった

近畿大学は西日本に6つのキャンパスを展開し、14学部、法科大学院および大学院12研究科を有する西日本最大規模の大学だ。

学生数は、学部3万2322人、法科大学院と大学院合わせて951人(いずれも平成28年5月現在)。完全養殖による「近大マグロ」は、同大学の知名度を全国的に一気に高め、入試志願者数は4年連続で日本一だ。

同大学では平成26年に教育系基幹システムをAWSに移行。翌27年に学内の業務システムをクラウドに移行することを決定し、同年9月から段階的にAWSのクラウドで稼働させている。

クラウドを活用する前、同大学ではこうした大量のサーバ群をオンプレミスで構築・運用するのが本当に適切なのか疑問を持っていたという。

資産管理、場所代、電気代などのコストがかかるほか、トラブル発生への対応、5~6年ごとの更新などが必要で、コストや手間が増えていくばかりだったからだ。

そこで、クラウドを活用することとし、まず試しにGmailを導入してみた。すると、コストがオンプレミスと比較すると約10分の1に下がったため、他分野においても順次クラウド化を進めていった。

クラウド化によって、平成36年までの10年間で、ハードウェア設置にかかるイニシャルコストを約70%、維持・保守を含めトータルで約20%削減させていく計画だ。

サービスの充実度やスペック拡張性が魅力

広島大学は、11学部(そのほか情報科学部を申請中)、1特別専攻科、11研究科からなる総合大学で、学部生1万887人、大学院生4520人が在籍している(平成29年5月1日現在)。

クラウドサービスの活用は、平成25年9月から人事給与・就労管理システムについて導入を開始した。

以降、財務会計システム、研究者総覧、大学の公式ウェブサイトなどにおいて活用している。

導入した理由について同大学は、業務に応じたサービスの充実度やスペックの拡張性、地震などの大規模災害などへの対策、データベースを使った業務システムとの親和性などを挙げている。

クラウドサービスについては、一部を除きAWSのサービスを活用中だ。AWSを選定した理由は、バックアップの信頼性、データ保障率の高さ、サービスの多様性などを挙げた。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年6月5日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第40回】ICTキャンパス 大阪工業大学「梅田に新キャンパス “デザイン思考” を育成」 2017年5月8日




ものづくりに必須 技術+利活用デザイン

大阪工業大学は今年4月、「ロボティクス&デザイン工学部」を新設するとともに、同学部が設置されている「梅田キャンパス」をオープンした。

ロボティクス&デザイン工学部はロボット工学科、システムデザイン工学科、空間デザイン学科の3学科で構成。ロボットをAI(人工知能)やIoT(Internet of Things)だけでなく、空間やプロダクトなどのデザインと一体的に扱える高度な人材を育成していく。

同学部が新設された背景には、ものづくりに求められるスキルや知識、考え方が変化していることがある。

従来のものづくりで重要なのは技術だった。しかし、近年のIoTやAIなどがもたらした産業構造の変化によって、技術だけでなく、利活用におけるデザインも求められるようになってきた。

さらに、製品やシステムの開発においては、産官学の共同研究やオープンイノベーションといった学外とのコラボレーションも一層重要になってきている。

こうしたことから、大阪工業大学ではロボティクス&デザイン工学部を新設させ、「デザイン思考」の育成にさらに注力することとした。デザイン思考とは、同学部によれば、デザイナーの手法を参考に①観察と分析②アイデア創出③プロトタイピング(試作)と検証を繰り返して、問題の解決策を練り上げ、それを効果的にアピールすることで、人々の理解や共感を導き出すことだ。

学内外コラボを推進させる最新の環境

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2層吹き抜け大空間のラーニングコモンズ

梅田キャンパスは、大阪でももっとも活気のあるエリアのひとつである梅田・茶屋町に位置し、JR大阪駅から徒歩5分、阪急梅田駅から徒歩3分(直結)とアクセス抜群のロケーションに立地する。地上21階、地下2階の都市型高層タワーキャンパスだ。

梅田キャンパスで特筆すべきは、「デザイン思考」を育成するための教育環境が整備されていることだ。6階の「ラーニングコモンズ」は、教員の音声に反応して映像が切り替わる、超大型380インチスクリーンを備える。個別、グループ、大人数など多彩な学習シーンに応じて、柔軟に空間構成が変化できる高いフレキシブル性が特徴だ。

8・9階には「ロボティクス&デザインセンター」と「イノベーションラボ」を設置。産官学連携のプラットフォームとして共同研究を行っていく。

開発や発表展示などにも対応できるため、学内外の研究者との創発やコラボレーションが行いやすくなっている。

17階には、全学年・全学科の学生が着席できる大空間(デザインスタジオ)がある。学年や学科の垣根を超えて、ひとつの空間に集うことで、多彩な刺激を受け、デザイン思考を深めていくことが期待されている。
なお、梅田キャンパスにおける空間デザインプランやプロジェクトマネジメント、AVシステムの導入などは内田洋行が行った

デザイン思考を活用し、これまでとは少し違うプロセスで課題解決に取り組むことで、従来では考えつかなかった新しいイノベーションが見つかる可能性がある。

新キャンパスでの教育で、デザイン思考を備えた人材が数多く輩出されることを期待したい。

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産学連携の共同研究を行うロボティクス&デザインセンター

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全学年・全学科の学生が着席できるデザインスタジオ

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年5月8日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第39回】ICTキャンパス 東京藝術大学「芸術×科学技術 COI拠点で “感動” 創出」 2017年4月10日




東京藝術大学では「『感動』を創造する芸術と科学技術による共感覚イノベーション」が、文部科学省と科学技術振興機構の「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」に平成27年度から採択され、様々な活動を展開している。

芸術と科学技術を融合させ、教育、医療、福祉などの分野においてコンテンツ発信や文化インフラの整備などを行うのがその目的だ。

ここでは、昨年の活動から、ITや教育に関する3件のプロジェクトを紹介する。

人工知能ピアノとベルリンフィルの共演

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人工知能ピアノと弦楽四重奏のコンサート

平成28年5月、拠点参画企業ヤマハの技術協力で「音舞の調べ~超越する時間と空間」を開催した。

AI(人工知能)のピアノ演奏システムが、20世紀最高のピアニストの1人である、スヴャトスラフ・リヒテルの演奏を忠実に再現するだけでなく、名演奏家集団として世界に名高いベルリンフィル・シャルーンアンサンブルの演奏に柔軟に対応し、曲を奏でようというものた。

演奏した曲は、F・シューベルトのピアノ五重奏曲《鱒》イ長調D667第4、5楽章。リハーサルを重ねるごとに「AIリヒテル」のピアノとシャルーンアンサンブルの演奏の完成度が上がり、コンサートでは出だしから息がピッタリと合った演奏となった。

中高一貫校でアンドロイド演劇

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中高一貫校でアンドロイド演劇を上演。演出は平田オリザ氏

28年6月、福島県広野町にある県立中高一貫校ふたば未来学園において「アンドロイド演劇」を上演した(写真右上)。

原作・演出は、劇作家・演出家の平田オリザ特任教授。前後半の2部構成で、前半は死を目前にした少女と、少女に詩を読み聞かせるアンドロイドとの静かな対話、後半は運送業者とアンドロイドとの会話を通じて、アンドロイドと人間との関わり、生と死への問い、震災被災者への思いなどを演じた。

アートとサイエンス融合のワークショップ

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アートとテクノロジーを融合したワークショップが大好評

28年11月には、日本科学未来館(東京・お台場)で開催されたイベント「サイエンスアゴラ2016」へ出展した。

ブースでは「色彩の秘密」と題してクレヨン作りのワークショップを、液晶端末なども使いながら、30分間隔で実施した。

「ワークショップは毎回、予約で満席。アートとサイエンスを融合した領域横断的なワークショップとして大好評でした」(東京藝術大学 社会連携センター COI研究推進機構)。

今後は、今年4月18日から7月2日まで、東京都美術館で開催される「バベルの塔展」にも特別協力し、拡大複製画の展示や、解説映像の提供を行う。「産学官連携による、さらなる感動の創造とイノベーションの創出を行っていきたい」(同)と、活動についての抱負を語る。

東京藝術大学は「Arts & Science LAB.」(産学連携棟)を上野キャンパスに設置し、大学や企業が単独では実現できない革新的なイノベーションを創出するための環境を整えた。

COIに採択されたことで、ロボットの教育、医療、福祉への活用をはじめとする、芸術と科学技術との融合に、一層効果を上げていくものと思われる。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年4月10日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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【第38回】ICTキャンパス 名古屋大学「第4次産業革命に対応 ”情報学部” を新設置」 2017年3月6日




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「名古屋大学情報学シンポジウム」が昨年7月に名古屋大学で開催された

社会の新しいニーズに応える人材を育成

ビッグデータ、人工知能、IoTなどの情報技術は社会を劇的に変えつつあり、「第4次産業革命」と言われることもある。

名古屋大学では、こうした社会の環境変化から生まれる新たなニーズに対応していくため、今年4月、これまでの情報文化学部を発展改組し、情報学部を設置する。

情報学部長(就任予定)の村瀬洋氏は「多様で膨大な情報をもとに構築された情報システムや社会制度は、多数の要素が複雑にからみあっていますので、新たな問題を引き起こすこともあります。しかし、それを単独の分野だけで解決するのは困難です。これまで学問は『自然』『人間』『社会』『人工物』を構成要素として発展してきましたが、新たに『情報』という分野が必要となってきました」と、情報学部を設置した背景について語る。

文理融合カリキュラム 情報学を幅広く探究

学生定員は145人。これまでの情報文化学部から60人増やした。学科は「自然情報学科」「人間・社会情報学科」「コンピュータ科学科」の3つ。

自然情報学科は、自然現象や社会現象のデータ分析と数理モデル化、シミュレーションによる理解を探究する。

人間・社会情報学科は、人間の心理や知覚・感覚、コミュニティやマーケットを情報学を駆使して解明できるようにする。

コンピュータ科学科は、コンピュータ、ネットワーク、人工知能、音声・画像処理などの情報科学技術を専門的に学ぶ。

いずれの学科も、文系・理系の境界を越えた立場から、情報学を幅広く学べるようになっているのが特徴だ。
従来のセメスター制(前後期制)から、1年を4つの学期で構成するクォーター制を採用することで、学生が海外留学やインターンシップに参加しやすくする。

村瀬氏は「情報学の観点から、幅広い分野を俯瞰することで、自らが心底取り組んでみたい分野を見出し、専門知識を身に付け、人類が直面する課題の解決にチャレンジしてほしい」と情報学部に入学する学生に期待を寄せる。

専任教員は93人で、そのうち9人に年俸制を導入。産業界や社会からの意見を取り入れるため、学外有識者にアドバイザーへの就任を依頼する。

全国の大学で情報関連学部が新設

本紙1月号の本連載では、滋賀大学で4月からデータサイエンス学部が新設されることを紹介した。同学部では、ビッグデータなどを専門的に扱えるデータサイエンティストを育成していく。

4月には名古屋大学や滋賀大学以外にも、情報やデータサイエンスを扱う学部を設置する大学が増える。

東洋大学は、東京・赤羽台の新キャンパスに「情報連携学部」を設置。学部長には、TRONプロジェクト(ユビキタスコンピューティング環境を目指すプロジェクト)で著名なコンピュータ科学者・坂村健氏が就任予定だ。

情報関連を重視する傾向は女子大でも同様で、津田塾大学は、新設する「総合政策学部」で、データサイエンスを基礎科目として学生に身に付けさせていく。

ビッグデータの爆発的な増加とともに、情報を専門的に扱いながら、課題を見つけ解決していく人材は、ビジネス、医療、教育など様々な分野で今後、ますます求められている。情報関連の学部で、こうした社会のニーズに応えていく人材が育成されていくことに期待したい。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年3月6日号掲載

(執筆 蓬田修一)







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