【第69回】ICTキャンパス 東京国際工科専門職大学 「知識」と「実践」の双方備えたデザイン思考の「統合人材」育成 2019年11月4日
600時間を超える企業内実習が必修
東京モード学園やHAL東京などを運営する学校法人日本教育財団は「東京国際工科専門職大学」を、2020年4月に開学する。
学長には、元東京大学総長の吉川弘之氏が就任。校舎は、東京・西新宿の新宿コクーンタワーに置く。
専門職大学とは、2019年4月から開設された新しい学校制度。主に知識・理論を教育する大学と、技術の習得に力を入れる専門学校それぞれの長所を取り入れたカリキュラムで、特定の職業分野におけるプロフェッショナルとなる教育を行う。大学制度としては、55年ぶりの新設となる。
東京国際工科専門職大学は、「情報工学科」「デジタルエンタテインメント学科」の2学科で構成。
情報工学科は「AI戦略コース」「IoTシステムコース」「ロボット開発コース」の3コース。超スマート社会「Society5・0」(「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」に続く人類史上5番目の新しい社会)において、社会的課題を解決できるリーダーを育成する。
デジタルエンタテインメント学科は「ゲームプロデュースコース」「CGアニメーションコース」の2コース。2020年の5G商用化にともない、最新デジタル技術を応用し、インタラクティブなゲームやデジタル映像を生み出せる人材を育てる。
学内には、AI、VR、3Dプリンター、産業用ロボットなどに関わる最先端のハード・ソフトを準備してプロと同等の制作・開発環境で学べるようにする。従来のインターンシップとは異なり、学生の目的を明確化した上で600時間以上の企業内実習を必修とした点も、カリキュラム上の大きな特徴だ。
これにより学生は、企業ニーズに即応できる力を身に付ける。提携先には、米国スクウェア・エニックス、バンダイナムコスタジオ、チームラボなどグローバルなトップ企業も含まれる。
吉川弘之学長
社会を変革できるデザイン思考を育む
9月25日、新宿コクーンタワーで開学発表会が開催された。
学長の吉川氏は開学の趣旨について「世界に向けて、環境問題や国際関係など地球全体の課題に対し、主体的にアイデアを生み出し解決できる人材を育成するため、本学が設立された。従来の大学は体系化された知識を学び、専門学校は実践を交えてテクノロジーを学ぶというように、現在、両者は分化しているが今後は、両方を兼ね備えた『統合人材』を育成する必要がある。自ら考えて行動する『デザイン思考』で社会を変えていける人材--デザイナー・イン・ソサエティの育成に注力していく」と語った。
当日は「テクノロジー時代の教育」をテーマに、トークセッションも実施。セガゲームス代表取締役社長の松原健二氏は「小学生のうちはゲームクリエイターがなりたい職業のトップ10に入っているのに、大学生になると、手堅い職業を目指す人が多い。デジタルコンテンツ業界にとって、良い人材を育成するには、小さい頃の『熱中』をどう維持していくかが重要」と話した。
ユカイ工学代表の青木俊介氏は「ロボットや工学を学ぶ教育機関は、知識を学ぶ大学と、実際に手先を使う高等専門学校や専門学校が分化している点が課題」と話し、東京国際工科専門職大学の教育に期待をかけた。
トークセッション。右からセガゲームス松原健二氏、吉川学長、ユカイ工学青木俊介氏、
モデレーターの中谷日出氏(東京国際工科専門職大学教授)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年11月4日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第68回】ICTキャンパス 早稲田大学「ブレンディッド・ラーニングで 学習効果を高めるICT活用」 2019年10月14日
学習支援やラポール形成が重要
近年、注目されている手法に、対面授業とオンライン学習とを組み合わせた「ブレンディッド・ラーニング」がある。戸田貴子教授(早稲田大学国際学術院大学院 日本語教育研究科)は、日本語教育においてブレンディッド・ラーニングによる音声教育を実践している。
「私たちが考えているブレンディッド・ラーニングとは、学習効果を最大限に高めるためにICTを活用し、多様な方法を適切に組み合わせた正規の授業であり、通信教育や遠隔教育とは根本的に異なるものです」と語る。
実践を通して、学習者の学習意欲の維持と学習の継続には次の4点が重要だという。▼動機付け ▼意識化 ▼学習管理と自律学習 ▼学習支援とラポール(信頼関係)形成
「『動機付け』『意識化』は従来型の対面授業でも重要ですが、『学習管理と自律学習』『学習支援とラポール』はICTを活用した教育だからこそできることが多いと考えています」
「なめらか!発音3-4」授業の全体構造。
ICTを活用しながら、学習者に寄り添った授業づくりがなされている
主体的学びを生み出す仕組み作り
戸田教授の授業「なめらか!発音3-4」は、5週目までは対面授業、6週目以降10週間はオンライン授業だ。学習の流れは次の通り。
①教科書の学習 ②オンデマンド講義の視聴 ③シャドーイング素材の練習 ④「Japanese Pronunciation for Communication」の学習 ⑤「発音BBS」への書き込み ⑥「発音チェック」の提出
学習者は対面授業終了後、自律的にオンライン学習を続ける必要がある。そのため、戸田教授の授業では、学習者の学習意欲の維持と学習の継続を促す工夫をしている。
「一方向的な講義を視聴しているだけでは、発音は改善されません。学習者自身が何度もモデル音声をリピートするシャドーイング練習や、BBSで意見交換するなど、主体的な学びを生み出す仕組みを作り、運用しています」
「Japanese Pronunciation for Communication」とは、戸田教授らが開発した教育コンテンツで、グローバルMOOC(大規模公開オンライン講座)のedXにおいて、世界中の日本語学習者・日本語教育関係者に向け、2016年11月から無料配信されている。
「Japanese Pronunciation for CommunicationはグローバルMOOCにおいて、現在、唯一の日本語教育関連講座です。また、グローバルMOOCを教室活動に組み込んだ事例は、管見ではほかにありません」
総登録者数は、世界およそ170国・地域から5万3913人にのぼっている(2019年9月12日現在)。
ICTを活用して学習者間で相互評価
「従来の対面授業にでは、教員は教手として、学び手である学習者を指導する意識を持つことが多かったのですが、ブレンディッド・ラーニングを通して、様々な教育のあり方、学びのあり方を考えるようになると思います。これは、教育の改善のために重要です」と、ブレンディッド・ラーニングの導入によって、教師の教育観が変わる可能性を示唆する。
今後の課題は、学習者間のインターアクション(相互的なやり取り)を活性化させるためのICT活用だ。
そのひとつに学習者相互による評価がある。すでに、Japanese Pronunciation for Communicationの相互評価に継続参加した受講者は、具体性の高いコメント(問題点、修正方法の指摘)を継続して書く傾向が見られるなど、検証も進みつつある。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年**月**日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第67回】ICTキャンパス 愛知教育大学 音楽教員養成でICT活用 「イメージ楽譜」で視覚化 2019年9月10日
演奏設計図を制作
愛知教育大学教育学部 武本京子教授は「イメージ奏法」を開発し、音楽教員養成の授業において実践を重ねている。近年はICTの活用により、教育効果がさらに高まっているという。
「イメージ奏法」とは「楽譜の奥にある作曲者の主張、思想、情動などを推測し、演奏者の過去の体験や記憶、思考、言語、色彩を取り入れて、イメージを明確にした視聴覚融合の奏法」だ。
まず作曲者の主張、思想、情動、などを推測し、調性、速度、メロディー、ハーモニー、音楽記号などを分析。作曲者の作品に対する客観的考察を行う。
次に、演奏者の過去の体験や記憶をはじめ、思考、言語、色彩、絵などを使って、演奏設計図である「イメージ楽譜」を制作。
「イメージ楽譜」とは、自分がどのように音楽を演奏したいかをまとめた演奏設計図だ。このイメージを再現するための演奏法を確定していく。
演奏の設計図「イメージ楽譜」
イメージ映像を共有
聴衆と音楽を共有するための「イメージ映像」も制作する。
教員養成大学の学生にとって、人間を知り、コミュニケーション力を養うことは必須だ。
武本教授は「言動やコミュニケーションの多様さや反応を学び、音楽を通して創造した空間の中で、人間の思考や行動を考えることで、学校教育現場における子どもの心の教育への適応を図る狙いがあります」と話す。
ネットやスマートフォンが普及する前、学生たちは楽譜に手作業で曲線を描き、そこに彩色してイメージ楽譜を制作していた。今は、PCやスマホを使って、音楽に関する情報を調べながらイメージ楽譜を作っている。
「学生は、イメージ楽譜をスマホに取りこむことで、いつでも見直したり修正したりできるようになりました」
イメージ映像も、ネットから、曲に合った写真や映像などを取り入れて制作している。
授業では、学生が制作したイメージ映像を、スマホからプロジェクターに接続してスクリーンに映し出し、教室にいる学生全員で共有している。
「ICT機器を活用してイメージ映像を共有することで、学生の意欲は増し、教養や興味も広がり、効果的なアクティブラーニングを実践できるようになりました。学生は主体的に学んで制作したものを共有しながら討論できるので、授業への取り組みが積極的になったことはICT活用のメリットです」
「イメージ奏法」で演奏する
音、映像、言葉が相乗的に心身へ好影響
「イメージ奏法」を導入したことで学生たちは、音楽がこの世に何のためにあり、どのような役割があるのかを真剣に考えるようになったという。
「音楽を可視化する過程で、多様な考え方を尊重し、自らも心を開放して音楽という架空の話の中で、他の人格を認め、音色を多彩に奏でるための練習に没頭できるようになりました」
武本教授の研究室と藤田医科大学の伊藤研究室は先頃、20~24歳の男女を対象に、ICTを利用した「イメージ奏法」が、人の心身に与える生理的反応について共同研究を行った。
その結果、「イメージ奏法」による音楽と映像に接することで、人は状態不安や交感神経の指標であるアミラーゼが活性化するとともに、ストレスホルモンのコルチゾールや、幸福ホルモンのセロトニンの各濃度に影響を及ぼすことが分かった。武本教授は「『イメージ奏法』による音楽、映像、言葉が相乗的な誘因となって、心身に良い影響を及ぼすことが示されました」と分析している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年9月10日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第66回】ICTキャンパス 八戸工業大学「eラーニングの導入で学生の学習時間が増えた」 2019年8月5日
八戸工業大学eラーニング総合サイト
入学希望高校生に向け コンテンツ配信
八戸工業大学は、青森県八戸市に本部を置く私立理工系大学だ。設立は1972年。工学部、感性デザイン学部、大学院工学研究科を設置している。
同学は2014年度・文部科学省大学教育再生加速プログラム「テーマⅡ:学修成果の可視化」に採択され、自主学習力を向上させる取組として、eラーニングの活用を推進。2016年度に開設した「八戸工業大学eラーニング総合サイト」は、高校生および在学生を対象にしたコンテンツで構成した。
高校生向けコンテンツは、国語、英語、数学など9科目の学習ができる「入学前交流講座テキスト集」や、高校科目の内容を動画で学習できる「高校生向け大学入学前お勧めコンテンツ集」(外部サイト)などだ。
コンテンツの1つである「入学前交流講座」については、履修した約60%の高校生が「教科に対する理解がより深まり、勉強できて良かった」と評価。同学工学部 システム情報工学科の小玉成人学務部次長は、「生徒が履修に対して主体性を発揮すれば、入学時の学力向上につながると考えています」と語る。
一方、大学生向けの学修支援eラーニングは「正課授業関連eラーニング教材」「修得因子別学修スキルアップお勧めコンテンツ」「在学生向けリメディアル学修(大学教育を受けるために必要な基礎学力を補うための補習教育)お勧めコンテンツ」「共通基盤教育システム」など。
「正課授業関連eラーニング教材」には、MoodleというLMS(Learning Management System・学習管理システム)を用いて構築した「HIT‐LMS」が含まれている。正課の授業で利用するため、全学生・全教職員が、普段利用しているアカウントで使える環境を整えた。自宅など学外からもアクセスできる。
学生の「やり抜く力」 向上にも好影響
これらの効果を確認するため、eラーニングを活用している科目と、活用していない科目について調査した結果、eラーニングを活用した科目は、活用しなかった科目と比べて、宿題頻度、宿題取組度、予復習力の3項目において、7・4~16・8ポイントと大幅に上昇していることがわかった。
「宿題頻度が高ければ取組度が上がり、それに伴って予習・復習する力も上がることが明確に示されました。eラーニング活用科目を増やすことで、これら3項目の値を相乗して上げられると考えています」
満足度、関心度、難易度、理解度、学力向上感、口述力、筆述力、知識展開力、教材力においても、eラーニングを活用していない科目と比べて3・4~5・6ポイント高いという結果が示された。
eラーニングを活用している正課教育に関係した授業外学習時間は、週あたり6・66時間から8・1時間へと大きく向上。「学習時間を向上させるには、eラーニングを活用した科目を増やすことも有効だと考えられます」という。
近年注目されているグリッド(やり抜く力)とeラーニングとの関係も調査。eラーニング活用科目が多い1年次では、関係性が2・82から3・0へと向上した。
これらの結果を踏まえ、今後は、学習管理システムGoogle ClassroomやeラーニングプラットフォームMoodleといったLMS利用を促進させるため、教職員に対するマニュアルや指導体制の整備などを予定。
学生がどこでもいつでも、講義資料の閲覧やポートフォリオ(学生自身の活動記録)の利用などが行えるよう、全学的にタブレットPC等の必携化を徐々に進め、無線LANや充電設備の整備、PC利用のためのフリースペースを増加させていく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年8月5日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第65回】ICTキャンパス 摂南大学「2020年に農学部新設 スマート農業をけん引」 2019年7月9日
先端技術を生かした農学部が増えている
全国的に農学系学部の新設が相次いでいる。2012年から今年までの間、7大学が農学系学部を設置した。文部科学省「学校基本調査」によれば、農学系学部の志願者数は2007年では10万4122人だが、徐々に増えて17年には12万8405人となっている。
農学部の人気が高まっている背景には、農学部における「学び」が変化したことが大きい。従来、農学部では、小規模農業と農家経営を主に学ぶことが多かった。しかし、現在では農業や畜産といった食料生産分野をはじめとして、環境、食品、生物・バイオなど幅広い領域が学べるようになった。
近年の農業は、ITやロボットを活用した新しいスタイルの「スマート農業」や、IoT機器によるデータ収集および生産管理システムなどが導入されるようになり、最新IT技術についての授業に注目が集まっている。
幅広い領域が学べる農学部は、就職先を多分野から選ぶことができる点も人気の要因だ。「学校基本調査」によると、農学部卒業生で農業や林業に携わる割合は全体の3%で、多くの卒業生が一般企業へ就職している。
SDGsに取り組む
摂南大学も2020年4月、農学部を新設予定だ。1975年に設立した同学は、大阪の寝屋川と枚方にキャンパスを持つ。現在、法学部、外国語学部、経済学部、経営学部、理工学部、薬学部、看護学部の7学部で学生数は8077人(2019年5月現在)。
新設される農学部は、農業生産学科、応用生物科学科、食品栄養学科(管理栄養士養成課程)、食農ビジネス学科(文系学科)の4学科。入学定員は 340人を予定。
同大学の農学部の特色は、農産物の「生産」「加工」「流通」「販売」「消費」という一連のプロセスとともに、バイオやスマート農業など先端分野も学べる点だ。
グローバルな視点で「食」と「農」に関する知識・技能を持ち、課題解決に取り組める人材を育むことで、近年の農業を取り巻く新しいニーズに応える教育研究を展開。SDGs(持続可能な開発目標)を推進していく。
農学部開設に向けて新たに誕生する8号館(イメージ図)
例えば、3年次の通年授業「スマート農業演習」では、スマート農業の理論と実際を学び、日本の農業が抱える課題とスマート農業の可能性などについて考察を深める。
摂南大学教員による講義にとどまらず、スマート農業関連企業や試験研究機関の研究員をゲストスピーカーとして迎えた講義も行っていく予定だ。
学外の施設視察も予定。植物工場における研修(講義と視察)では、植物工場での環境制御技術や、体内時計制御による生長の最適化などについて学ぶ。農場における、次世代型温室の視察研修も予定。
授業の到達目標は、次の3点を設定している。
①スマート農業とは何かを説明できる。
②スマート農業の具体例を挙げ、その内容と特徴を説明できる。
③スマート農業についての学びから、その可能性について自分の考えをまとめ、述べることができる。
同学の八木紀一郎学長は「AIやロボット、IoTなど、進歩の目覚ましい領域を、農業に取り込みながら、グローバルな目線で新しい農業を切り開いていける人材を育成していきたい」と抱負を語る。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年7月9日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第64回】ICTキャンパス 京都大学「世界に向けて講義を配信 100以上の国・地域から受講」 2019年6月10日
代表的プラットフォーム「edX」に加盟
京都大学は2014年から「KyotoUx」という名称のMOOC(Massive Open Online Courses)を世界に向けて提供している。
MOOCとは、ネット上で、無料で受講できる大規模なオープンオンライン講義だ。国内外にMOOCのプラットフォームが複数あるが、京都大学は、代表的なプラットフォームの1つである「edX(エデックス)」に加盟している。edXに加盟した理由は、主に次の4点だ。①MITやハーバードなど、世界のトップ大学連合の非営利組織が運営している。②プラットフォームと講義コンテンツのオープンソース化にもとづいている。③オンライン講義とキャンパスでの対面講義の相乗効果を活かすブレンディッド学習(Blended Learning)による教育改善を重視している。④edXによって収集されるオンライン学習データの分析と教育効果の検証を通じ、また加盟大学と協力し合いながら、京都大学の教育的研究開発の支援と推進が進められる。
講義はすべて英語 受講生へ修了証を発行
京都大学は2005年から、OCW(Open Course Ware )で、ネットを通じて講義ビデオを、大学内外に配信してきた。MOOCによる「KyotoUx」は、それをよりパワーアップさせたものだ。
「KyotoUx」の講義は、すべて英語で行われる。現在は10講義を配信中で、実際の授業と同じように、課題も出される。採点が難しいレポートなどの記述式課題は、受講生同士による採点方法も取られている。修了条件を満たした受講生には、修了証を発行している。
講義はすべて英語で提供。山極壽一総長「Evolution of the Human Sociality」や松沢哲郎特別教授「Origins of the Human mind」など霊長類関連の講義を始めとしてデータ活用や化学・理数関連の講義が充実
若い年代を中心に幅広い年齢層の受講生
英語による講義ということもあり、海外からの注目度が高い。受講生の属性について、酒井博之准教授(京都大学高等教育研究開発推進センター)は「『大学に所属中あるいは大学卒業』レベルの若い層を中心に、高校生から高年齢層まで幅広い年齢層の方が受講しており、どの講義とも100以上の国・地域から受講されています。国別では、いずれの講義もアメリカの受講者が最も多いようです」と話す。
「これまで、京都大学が強みを持つ学問分野を中心に、講義を提供してきました。山極壽一総長や松沢哲郎特別教授の講義は、京大が発祥の霊長類学です。化学分野も比較的多く提供しています。今後も本学の強みを活かした、質の高い講義を配信していきたいと考えています」
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年6月10日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第63回】ICTキャンパス 新潟大学「中学・技術科教員の養成 3次元CADでものづくり」 2019年5月17日
中学校技術科教員の養成
新潟大学教育学部は、技術科教育専修の学生を対象に、金属加工実習の講義においてICTを活用したものづくり教育を行っている。
同学の平尾篤利准教授は、ICTを活用した背景について「中学校の技術は、学習指導要領が改訂されるたびに、授業時数が削減されています。その一方で、1989年の改訂により、情報基礎が新設されました。情報分野は、他の分野に比べて指導内容の歴史が浅く、指導する教員側も専門の知識を有しているとは言い難い面があります。そこで、授業時数が少ない中でも活用できる授業として、ものづくり教育にICT活用を試みました」と話す。
ICTを活用した授業は、2年生後期の実習授業(90分×2コマ×15回)で実施している。
ミニチュアバイスを設計・製作
具体的には、3次元CADソフトを用いたミニチュアバイス(加工物の保持・固定に使う工具)の設計および製作だ。
ミニチュアバイスを教材として選んだのは、いくつもの要素技術があり、自作することで設計、加工、組み立てなどについて幅広く学習できるからだ。
学生が授業で設計・製作したミニチュアバイス
まずはデバイスの構造を理解するため、学生2~3人を1組とし、市販のミニチュアバイスを分解し、各部品の寸法を測定する。その後、3次元CADソフト「SolidWorks」を用いて、分解したミニチュアバイスの3次元の図面を起こす。
こうした基本的な学習の後、学生はオリジナルのミニチュアバイスを設計。作成した図面をもとに、ミニチュアバイスを実際に製作する。
無垢材から作り上げるため、材料の切断、穴加工、ねじ切りなど様々な加工法を用いる必要がある。学生は試行錯誤を重ねながら完成させていくことを通して、ものづくり全体を把握するため、大きな学習効果が認められるという。
この授業に関連して、学生は2年生前期と後期において、加工法に関する基本的な内容を学習。さらに2年生前期「情報基礎および実習」の授業では、C言語を使ったプログラミングに関する内容を学んでいる。
こうした授業を行った背景には、現在の中学校技術においては、市販キットを用いた「組み立て」に留まっているという現状もあるという。キットを用いた授業は、成功体験を得ることはできても、大きな失敗を経験できず、課題を設定して解決する力を養うのは難しいという考えだ。
CADに加えてCAMの活用を視野に
平尾准教授はICT活用の利点について「技術科教育専修の学生は、卒業研究など様々な場面でPCの活用が必須です。1・2年次のうちからICTを活用し、ICT・情報分野への理解を深めることは、3・4年次における学びの導入につながると考えてます」と語る。
今後は、設備面での課題をクリアしながら、CADで作成したデータをCAM(コンピュータ支援による製造・生産)によって、加工機(工作機械)へ転送する授業を実施したい考えだ。
「最近の工作機械は、ICTによって生産管理されています。ICTを活用することで、視覚的にもどのように管理されているかが把握でき、より授業効果が上がるものと考えています」と語った。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年5月17日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第62回】ICTキャンパス 日本大学理工学部「スマホでグラフ等描画 物理教育をより効果的に」 2019年4月1日
日本大学理工学部物理学科は平成31年度から、スマートフォンとフリーソフトを使った物理教育を本格的に開始する。これまでの経緯と今後について、日本大学理工学部物理学科 鈴木潔光教授に聞いた。
物理の授業におけるICT活用の変遷
理工学部物理学科がICTを活用し始めたのは、平成10年度にさかのぼる。
「コンピュータリテラシ」の授業で、エクセルを使ったのが始まりだ。その後、携帯電話の普及に伴い、携帯電話の画面を利用してグラフの描画を行ったこともある。しかし、キャリアごとにコンテンツを作成する必要があるのに加え、「携帯電話を持っていない学生には不公平」という意見も出るなどの課題もあった。
スマホ画面にグラフを描画
一方でこの時期から、数式処理システム「Mathematica(マセマティカ)」を導入。より詳細なグラフが描けるようになるとともに、動画を使った物理教育も可能となった。
平成20年度からは、物理学を勉強するために必要な数学を紹介し、勉学へのモチベーションを上げるため、新科目「インセンティブ」がスタート。これをきっかけに、「コンピュータリテラシ」の授業において、物理問題の答え合わせを、Mathematicaを用いて行うようになった。Mathematicaは高度な計算ができる。しかし高価なことと、利用方法がやや煩雑なところがあるという課題もあった。そこでフリーソフトとスマートフォンを使った授業を、平成31年度から本格的にスタートさせる。
こうした授業が可能になった背景には、ほぼ全員の学生がスマートフォンやタブレット端末を所持し、WiFi環境も整ったことが大きい。
具体的には、「インセンティブ」の授業において、フリーソフト「GeoGebra」(関数グラフ、平面幾何、空間図形などが扱える無料オンラインアプリ)を活用し、パラメータを変更したグラフをスマートフォン上で描画させ理解を促す。
また、授業中にスマートフォンで小テストを行い、その結果を瞬時に示すことによって、緊張感をもって授業が受けられるような取組も、31年度から本格実施していく。
フリーソフト「GeoGebra」でスマホ画面にグラフを描画。
多くの学生がICT活用で「物理をより理解することができた」と感じている
ICT活用には員の意識改革も重要
鈴木教授は物理教育において、ICTを活用するメリットを次のように語る。
「板書では当然、動画を描くことはできません。プロジェクターで、パラメータを変化させたグラフや動画を提示しても、学生はノートに取り切れません。グラフをプリントにして配布しても、学生自身がパラメータを変更したグラフは描けません。このように、従来の教授方法では効果的な授業を展開するのが難しい面がありましたが、スマートフォン上でグラフを描画させれば、教員がプロジェクターで映したグラフを学生自身のスマートフォン上で描画することができ、グラフを描く復習も、いつでもどこでも可能です」
スマートフォンで解答する小テストは、結果を即座に学生に提示でき、学生の真剣度が増すという。さらに、結果がデジタルデータでダウンロードでき、学生の理解度・弱点の把握や分析が容易にできる。
「Mathematicaを利用するためには非常に高価なソフトウェアや機器が必要です。ICTを活用した教育を広く普及させるには、フリーソフトを積極的に活用していくべきだと考えます。黒板を利用した授業を否定するわけではありませんが、黒板だけでなく、ICTの良いところは積極的に利用すべきだと思います。それには、教員自身の意識改革が最も重要な課題だと考えています」と語った。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年4月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第61回】ICTキャンパス 筑波大学「機械学習で先見性のある人物をAmazonレビューから判定」 2019年3月4日
学生の就職支援も視野に研究
筑波大学システム情報系掛谷英紀准教授らは、先見性のある人物と先見性のない人物の特徴を見出す方法として、Amazonのカスタマーレビューを使った機械学習の研究に取り組んでいる。
掛谷准教授は「先見性のある人物と先見性がない人物の特徴が明らかになることで、選挙における先見性のある人物への投票や、先見性のある人物が経営する企業への就職支援などにつながる」と話す。
研究では「先見性のある人物」を「ある時期から大きく評価が変化した書籍について、後に優勢となる評価を初期にしていたユーザ(レビュア)」と定義。具体的には、レビュー評価の転換期よりも前の時点で、その書籍についてレビューしているユーザのうち「発売当初、評価が高かった書籍に1点または2点の評点を付けている、または発売当初、評価が低かった書籍に4点または5点を付けていたユーザ」を「先見性がある」とし、「発売当初、評価が低かった書籍に4点あるいは5点の評価を付けている、または発売当初、評価が高かった書籍に1点あるいは2点を付けているユーザ」を「先見性がない」とした。
しかし、この定義だと、初期の多数派は先見性のないユーザになってしまい、ユーザ数に大きな差が出てしまう。そこで、レビュー数が圧倒的に多い2冊の書籍について、先見性のあるユーザのみを抽出。先見性があるユーザとないユーザについて、各ユーザのAmazonでの商品レビューをすべて収集して分析。
その結果、先見性があるユーザ72人、先見性がないユーザ71人が見つかった。
先見性のあるユーザのレビュー数は合計1万6242件、先見性のないユーザのレビュー数の合計は1万1801件となった。今回、分析の対象とした書籍は表のとおりだ。
仕事ではさらに「先見力」が必要に
集めたレビューは、形態素解析ツール「ChaSen」を使って、それぞれの素性(単語)ごとに分割し、機械学習法の1つである「最大エントロピー法」にかけた。
そこで得られた素性の特徴として、先見性のあるレビューとは「『作者』の『自己』満足、分かり『にくい』、『新しい』切り口といった本の感想や、『最初』の一冊におすすめ、『十分』、不『十分』といった、他のユーザへの推薦に言及したものが多く見られた」
一方、先見性のないレビューには「テレビ」化した書籍、「メディア」や「テレビ」に出ている著者の本を手にした経緯に言及したものが多く見られた。このことから、「マスコミの情報に流される人は先見性に欠ける傾向があると考えられる」と分析する。
「先見性」について研究を進める背景について、掛谷准教授は「言われたことを言われたとおりにやる仕事をしている人にとっては、先を見通す先見力は不要かもしれないが、そういった仕事は今後、AI(人工知能)やロボットに取って代われる可能性が高い。特に、企画、マーケティング、研究開発の仕事に携わる人は、うまくいくものを探す必要があり、先見力が必要」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年3月4日号掲載
(執筆 蓬田修一)
第【60回】ICTキャンパス 金沢工業大学「LBEで地域・企業と連携 AI・IoT活用で課題解決」 2019年2月4日
「Society5・0」に対応できる技術者育成を目指している金沢工業大学では、平成31年度の新入生から「AI基礎」を開講。2020年度からは全学部必修とする。研究室中心教育(LBE=Laboratory-BasedEducation)の取組では学生がチームとなって、ICTやIoTを活用し、企業などと連携して実践的な教育を行っている。
専門性や問題解決能力だけではなく、マネジメント力やコミュニケーション力など、社会で必要とされる能力の育成まで視野に入れたものだ。
LBEでは学生がチームとなってICTやIoTを活用し、
企業などと連携して実践的な研究に取り組んでいる。
同学では2020年度から「AI基礎」を全学部必修とする
農業でIT活用 水田環境を見える化
日本における水田管理は、目視による稲の生育把握、経験や勘などに頼って行われており、科学的な分析に基づいた管理がほとんど行われていない。そこでバイオ・化学部応用バイオ学科の農業プロジェクトでは、ICT技術を用いて「水田の見える化」に取り組んだ。
活動は週1回5時間で、1~2か月に1回、農業法人と打ち合わせを行った。学生は、農業法人からICTを用いて何を改善したいか聞き、これをもとに問題を明確にして、改善策についてのアイデアを検討し、水田に設置するフィールドサーバー(稲の生育に必要な環境情報をモニタリングするデバイス)を開発することとした。
気温・湿度・土壌温度のセンサーの設置、農作業の邪魔にならないコンパクトサイズにすることなどを確認。
作成した仕様をもとに、フィールドサーバーを開発。実際に動かしてみると、センサーの位置が認識しにくく、農作業中、草刈機でセンサーを切断する事故が発生したり、フィールドサーバーの導入費用が高いなどの問題が発生した。
そのため、これらの問題(顧客要求)について対応して、市販のものと比べ、導入・運用コストが低く、農作業の邪魔にならない移動可能サイズのフィールドサーバーを開発することができた。
今回のプロジェクトを通じて、学生は農業法人からの要求を汲み取り、要求に対応できるシステムの構築手法や、動作テストにおける課題の抽出・解決の方法など、正課授業では経験することが難しい内容を学ぶことができた。
今後は、AI・機械学習によるセンサデータ解析や画像処理による葉色診断、水門、ドローン、農業機器の自動制御などに取り組む考えだ。
地元企業が共同で温湿度センサーを開発してハウス内に設置。
いちごの成長を制御し、よりおいしいいちご栽培を目指す
ロボティクス学科では、農業支援機器およびシステムの開発を通して、高齢化・後継者問題から生じる農業従事者の労働力・効率化の課題解決に取り組んでいる。
地元の農業関連企業などと連携したいちご栽培に関する実証研究では、北菱電興(金沢市)と共同で開発を進めている環境モニタリングセンサーをいちご栽培ハウス内に設置。
既存のセンサーと組み合わせて、温度や二酸化炭素の濃度、湿度のむらなどをモニターし、必要に応じて、空調管理やカーテン制御を行い、ハウス内の環境を一定に保つようにした。これにより、均質でおいしいいちごを栽培しようとしている。
ハウス内の環境をPCやタブレットで確認し、遠隔監視や操作も可能だ。労働時間や労力軽減にもつながるため、次世代型の営農システムとして、新たな農業従事者の確保にもつながると期待されている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年2月4日号掲載
(執筆 蓬田修一)













