【第30回】岡山大学「ビッグデータで教育環境づくり」 ICTキャンパス 2016年7月4日
「教育」を「科学的なサービス」に
教育分野でも活用が注目されているビッグデータ。岡山大学大学院教育学研究科寺澤孝文教授は「スケジューリング」という新しいアプローチを用いて、ビッグデータの教育活用を実践し効果を上げている。寺澤教授に、スケジューリングアプローチの概要やビッグデータが教育に及ぼすインパクトについて取材した。
寺澤教授は「教育はこれまで、科学とは言い難いサービスであった。スケジューリングアプローチからビッグデータを活用することで、完全に科学と言えるサービスに落とし込むことが可能になった」と話す。教育分野の学習データは、他の分野で収集される行動履歴データに比べ、個人ごとの反応データが大量に収集できるため、個人の行動予測には最適な特徴を持つ。
しかし、そこには問題もある。例えば、ある問題を勉強して次の日にテストをした場合と、1か月後にテストをした場合とでは、成績は大きく異なってくる。問題をいつどのような「タイミング」で、どのように学習し、それからどれ位の「インターバル(期間)」をおいてテストするのかといった、「タイミング」と「インターバル」という時間条件を考慮する必要がある。これまではこうした「時間条件」を制御しデータを収集する方法はなかった。そこで寺澤教授は、学習とテストの生起タイミングを事前に制御して、データ収集を行う方法を開発。これが「スケジューリング」と呼ぶアプローチだ。
教育ビッグデータにスケジューリング技術を実装したeラーニング教材で英単語の成績を個別に可視化。高校生の英単語の成績は3週間で飛躍的に伸長した。
学習の積み重ねと成績が可視化
スケジューリングアプローチでデータを収集すると、精度の高い時系列データが大量に入手できるようになり、成績などの予測精度も飛躍的に高まった。「ドリル学習などの成果が可視化できるようになり(上図参照)、成績の低い子でも、日々の学習の積み重ねの様子と成績を自分で見ることで『やればできるようになる』と実感できるようになった」という。
東京の麻布高等学校や長野県の飯田高等学校などで、英単語学習についての実証実験を行った際には、1日に1単語を5回以上繰り返して学習しても、1か月後には、繰り返しが4回以下の場合とほとんど効果に差がないことが明らかになった。しかし、覚えようと意図せずに、見流す程度の学習でも、成績は着実に上昇することがはっきりとデータに表れた。
現在は岡山県や長野県の小学校などにおいて、スケジューリング技術を実装したeラーニング教材による検証を行っている。岡山県赤磐市の小学校で行った検証では、漢字の読み書きドリルを1年半継続したところ、子供の成績の向上と共に、学習意欲も明らかに向上した。漢字など、1人で学習すれば習得できる基礎的な内容はeラーニング教材でサポートし、皆でなければできない学びや思考力の育成などに教員が注力できる環境づくりを目指している。
一斉実施の入学試験不要になる可能性も
スケジューリング技術を使い収集し生成されたビッグデータは、想像を超える応用の可能性がある。「典型的な例は、入学試験が不要になる可能性もある。スケジューリング技術を実装した最新のeラーニング教材は、一夜漬けの学習効果を排除して、実力を正確に測定できる。現在行われているような、特定の日に一斉に実施する入学試験は必要なくなるかもしれない」
今後も、学校の教育現場で、創造的思考を育む教育に時間が費やすことができる環境作りを進める考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年7月4日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第29回】「教育や学習に関わるビッグ・データを構築・活用」ICTキャンパス 九州大学 2016年6月6日
学習活動プロセスをデータ化して蓄積
九州大学は今年2月、「ラーニングアナリティクスセンター」を設置した。同センターは、教育に関わるビッグデータを収集・分析し、教育や学習のさらなる向上をサポートしている。
同大学では2013年4月から、学生が自分でノートPCを講義に持ち込むPC必携化(BYOD:Bring Your Own Device)を推進。
翌14年4月からは「アクティブラーナー」(未知の問題や状況にも果敢に挑戦するスピリットと行動力を備えた人)の育成を目標に掲げ、全学1年生を対象に「基幹教育」(新たな知や技能を創出し、未知の問題も解決していく上での幹となる「ものの見方・考え方・学び方」を学ぶ教育)を行っている。
九州大学基幹教育院ラーニングアナリティクスセンター長 緒方広明氏は「アクティブラーナーとして、生涯にわたり自律的に学ぶ姿勢を身に付ける過程においては、『何を学習したか』だけではなく、『いかに学習したか』が重視されます」と話す。
そのためには、学習活動のプロセスをデータとして記録し分析することで、教育・学習の改善を行っていくことが大事になる。その役割を担っているのが、今回設置されたラーニングアナリティクスセンターだ。
教育ビッグ・データを活用して「アクティブ・ラーナー」の育成を目指す九州大学
学習支援システム「M2B(みつば)」
ラーニングアナリティクスセンターは、次の4部門を設置し業務を推進している。
(1)研究推進部門=学内の学習ログや教育ビッグデータの分析・可視化による教育・学習支援の研究
(2)データ管理=学内の学習ログ・教育ログデータを統合管理する大規模データベースの研究開発
(3)企画・評価部門=データ分析による教員・学生・PTAとの相談による教育・学習改善の提案
(4)システム運営サポート部門=M2B(みつば)学習支援システムの利用促進とサポート
M2B(みつば)学習支援システムとは、eラーニングシステム「moodle(ムードル)」、日々の学習や教育におけるエビデンスを蓄積するeポートフォリオシステム「mahara」(いずれもオープンソースソフトウェア)、そして講義で使用する教材を電子化して配信するシステム「BookLooper」(京セラ丸善システムインテグレーションが提供)の3システムをまとめた学習環境のことだ。
ラーニングアナリティクスセンターは、M2Bシステムの利用促進に関する講演会やシンポジウムなども行っており、活用を推進している。
蓄積したデータの活用法を指南
ラーニングアナリティクスセンターは、M2B学習支援システムから得られる情報のほか、シラバスや成績などの学務情報を統合してデータを分析している。
学生や教員は、その分析結果を活用することで、予習の達成度や資料の閲覧パターンなどを知ることができるようになった。
また、教員は授業中、学生の教材閲覧状況を把握しながら、リアルタイムに講義の進行を変えることも可能になった。
データやエビデンスをもとに授業業を改善
「これまで授業の設計や教材の改善は、教員個人の経験に依存して行われることがほとんどでした。M2Bシステムを活用することで、教育・学習のプロセスで蓄積されたデータやエビデンスをもとに分析を行い、授業や学習方法の改善に役立てることができるようになりました」(緒方氏)。
今後は、学内でのシステム利用をより拡大していくとともに、取組の効果を検証し、学生の教育・学習を長期的にサポートしていくのが目標だ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年6月6日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第28回】名古屋工業大学「Skype for Business 全員構成でつながる」ICTキャンパス 2016年5月9日
位置情報で学生の学習支援や安全確保
名古屋工業大学は、1905年(明治38年)に、官立名古屋高等工業学校として創立した。現在の学生数は学部・大学院を合わせて約5700人。創立以来、国内有数の産業集積地に立地する工科系国立大学として、百年以上にわたって7万人を超える人材を輩出し、日本の産業社会の礎を築いてきた。
同大学では昨年度と今年度、学内のICT環境をさらに充実させた。最新のICT整備状況について紹介する。
効率的で濃密なコミュニケーション
今年度、名古屋工業大学では全構成員(学生・職員)のつながりを強化させるため、Skype for Businessを活用したコミュニケーション環境を構築し運用を始めた。
Skype for Businessは、モバイルデバイス(学生や職員の私的端末)などで、音声、インスタントメッセージ(リアルタイムで比較的短いメッセージのやり取り)、オンライン会議、共同作業などができる統合コミュニケーションプラットフォームだ。
これを活用することで、日頃のメッセージのやりとりだけでなく、海外を含む長期インターンシップ時に、異なるPC間の画面・アプリケーションの共有やビデオ会議などで学習指導ができる様になり、より効率的かつ濃密なコミュニケーションが可能となった。一例として、連絡を取りたい相手の在席確認などもできるため、かけ直しやコールバックといったコミュニケーションロスが大幅に減少し、電話コミュニケーションの利便性が向上した。
モバイルシフトを推進 スマホアプリを導入
昨年度は、教育環境、事務環境、基盤システムにおいてICTの整備を進めた。
教育環境では、学生のメール環境を従来のActive mailからMicrosoft Exchangeに変更した。これによりスマートフォンでのメールコミュニケーションがよりスムーズになった。
同大学では、モバイルシフトを進め、スマホアプリを積極的に利活用している。授業の出欠打刻システムもその施策のひとつで、BLE(Bluetooth Low Energy、低消費電力の無線通信)発信機を利用したアプリを開発し導入した。
また、夜間まで実験や研究などのために大学に残っている学生も少なくないが、Beacon(位置情報などを取得するため壁などに設置し、電波を常時発信している装置)を活用することで、学生の居場所を教職員はリアルタイムで把握できるようになり、学生の安全確保にも大きく役立っている。
TA勤務管理システム 入試イベントにも活用
事務環境においては、TA(ティーチングアシスタント)勤務管理システムの運用を開始し、従来は紙ベースで行っていた事務作業を電子化。TA業務に関わるすべての作業をオンライン化させた。
さらに、オープンキャンパスなどの入試イベントにおける学生雇用においても利用できるよう機能を拡張させた。
また、基盤システムは、SINET(Science Information Network、学術情報ネットワーク、通称サイネット。国立情報学研究所が構築、運用している情報通信ネットワーク)の最新版5へと移行し、ネットワークのさらなる安定性を実現させた。
研究メールサーバーも更新し、メール保存容量を50GBへと増大させている。
位置情報データから個別学習指導が可能に
新しい試みに果敢にチャレンジする名古屋工業大学。整備された最新のICT環境を活用することで、より効果の高い学習支援が行えるようになった。
例えば、位置情報から得られる一人ひとりの学生の行動データを解析することで、優秀な学生に対する個別的な学習指導を行ったり、孤立してしまいがちな学生を発見して、適切なサポートをすることもできるようになる。
来年3月には、5年に1度の基盤システム全体のリプレイスを予定。さらに充実したICT環境の実現を目指している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年5月9日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第27回】早稲田大学グローバルエデュケーションセンター「導入教育でネット講義 入学前に情報環境学ぶ」 ICTキャンパス 2016年4月11日
オンデマンドで 入学前に導入教育
早稲田大学は、新入生の入学決定から授業開始までの期間、インターネットを活用して入学前の導入教育を、情報、数学、統計、英語の分野で行っている。情報分野での導入教育に携わる早稲田大学グローバルエデュケーションセンター助教星健太郎氏に取材した。
導入教育の講義風景
1コマ15分の講義 4週間で全8回
情報分野の入学前導入教育は2001年度にスタート。対象は各学部への推薦入学者(附属・系属を含む)および人間科学部eスクール(通信教育課程)の希望者だ。授業支援のポータルサービス「Course N@vi(コースナビ)」を用いて4週間程度、オンデマンド形式の講義を行っている。
「早稲田大学では、グローバル社会のリーダーとなって活躍する人材の育成を見据えて教育を行っています。教育の質を向上させるため、入学前に知識やスキルを取得することで、入学後の学習に対する動機付けを図り、大学の授業に必要な基礎的知識の補完を行っています」(星氏)
情報教育部門では、大学生として持つべき情報リテラシーや、学生生活をより有意義に過ごすための情報処理・技術・知識・表現手法を身に付けるのが目標だ。具体的には、平均15分のオンデマンド講義動画を、3~4日に1コマずつ配信。全8回で、受講生は1コマ平均40ページのレジュメを確認しながら、情報リテラシー、早稲田大学の情報環境、ソフトウェア操作などを学ぶ。
また、受講生には「任意課題」と「グループコミュニケーション課題」が与えられる。任意課題は、「担当教員へのビジネスメール送信」「スライド4枚を用いた作品紹介」など、入学後に役立つスキルがテーマとなっている。
グループコミュニケーション課題は、2015年度に導入。思考型クイズを週に1回出題、その後2日ごとにヒントを出していき、受講生はBBS(電子掲示板)内で議論を交わしながら、グループで意見をまとめ解答する。担当教員がBBSを巡回し、解答の内容、取りまとめ方、発言数などの項目で評価、数値化して順位付けを行う。
導入教育トップページ(早稲田大学グローバルエデュケーションセンターのサイト)
MOOCs普及する中 導入教育も変化へ
講義はオンデマンドなので、受講生は期限内であればいつでも視聴できる。期限内に受講できない場合でも、期限後も講義動画が見られるようにしている。任意課題については、締め切り後に提出されたものでもできる限り受け付けるなど、柔軟に対応している。
星氏は「受講生が導入教育で扱う内容に興味を持ち、入学後に情報関連科目を受講するきっかけとなった熱心な学生もいる」と導入教育の効果を語る。
受講生からは「自分では気付けないことも、グループで行動することで得られる内容が多くあった。大学生活を社会的に営むことの大切さについても実感した」などの声が寄せられている。
今後については「高大接続のあり方が抜本的に変わる可能性があり、入学決定の時期も早まる可能性があるため、入学前導入教育はさまざまな形が考えられます」と星氏は話す。
MOOCs(ムークス)などのオンライン教育コンテンツが増えている現状において、より効果的な導入教育を提供するため、検討を続けていく方針だ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年4月11日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第26回】東京大学先端科学技術研究センター「ICTで障害児の学習生活支援 “魔法のプロジェクト”」 ICTキャンパス 2016年3月7日
携帯情報端末の 有効性を検証し発表
東京大学先端科学技術研究センターは、ICTを活用して障害児の学習・生活支援を行う「魔法のプロジェクト」を実施している。
これは同センターがソフトバンクおよび同社のグループ企業で教育事業を行っているエデュアスと共同で行っているものだ。
プロジェクトの目的は、携帯情報端末を実際に特別支援教育の現場で活用してもらうことで、その有効性を検証し、より具体的な活用事例を発表していくことで、障害のある子どもの学習や社会参加機会の増加を図ることだ。
書き順アプリを活用すると漢字を正しく書くことができる
1年間のプロジェクト 09年度から実施
プロジェクトの期間は1年間。2009年度から実施されていて、これまで6つのプロジェクトが実施されている。
09年度は携帯電話の様々な機能を使用し障害児の学習や日常生活を支援する「あきちゃんの魔法のポケットプロジェクト」を実施し、成果として「障害のある子どもたちのための携帯電話を利用した学習支援マニュアル」を作成した。
11年度はiPadを活用した障害児学習支援「魔法のふでばこプロジェクト」、12年度は支援の場を学習だけではなく生活にまで広げた「魔法のじゅうたんプロジェクト」をそれぞれ実施。
13年度は前年度までの3つのプロジェクトの集大成として「魔法のランププロジェクト」が行われた。
また、14年度は特別支援学校、特別支援学級の障害児に加え、初めて通常学級の発達障害児も対象にした「魔法のプロジェクト2014~魔法のワンド~」、15年度は個々の児童・生徒の特性に合わせた支援を強化した「魔法のプロジェクト2015~魔法の宿題~」をそれぞれ実施している。
毎年行われる成果発表会では、適切にICTを活用した学習支援を受けることで、障害のある児童生徒が、大きく伸びた事例が数多く報告され、全国から集まる教育関係者や保護者が熱心に耳を傾けている。
成果をまとめた冊子を刊行
今年度プロジェクトは「魔法の種」
今年4月から開始予定の16年度「魔法のプロジェクト2016~魔法の種~」は、09年度から実施してきた一連のプロジェクトの成果を活かし、新たなニーズに対する実践研究を行うとともに、さらに同活動を普及させていくことを目的としている。
また、16年度のプロジェクトでは、ICTを活用して障害児の学習・生活支援を効果的に実践できる教員の早期育成を目的に、教職課程を履修中の学生や、その指導者を対象としたセミナーも開催する予定だ。
「魔法の種」という名称には、これまでの「魔法のプロジェクト」で培ってきた知見やノウハウを、教員志望の若手人材と共有することで、「先生の種」を育てていくという思いも込められている。
さらに、個々の児童・生徒のニーズに合わせて、より質の高い支援が実践できる先生を「魔法のティーチャー」と名づけ、魔法のプロジェクトにおいて認定をしている。
14年度のプロジェクトにおいて、初めて2人の先生が認定された。また15年度は新たに3人の先生が認定されている。
16年度のプロジェクトの採択者80組は、3月中旬までに決定する予定。参加校には今年4月1日から来年3月31日まで携帯情報機器が貸与され、さまざまな実践研究が行われる予定になっている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年3月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第25回】東京藝術大学「クラウドファンディングでバーミヤン壁画復原資金調達」 ICTキャンパス2016年2月1日
今回復原される天井壁画「太陽神と飛天」
東京藝術大学アフガニスタン特別展実行委員会は、バーミヤン大仏壁画復元のため、クラウドファンディングサービス「READYFOR(レディーフォー)」を活用した資金調達プロジェクトを昨年11月30日から今年1月29日まで実施した。
クラウドファンディングとは「群衆(Crowd)」と「資金調達(Funding)」とを組み合わせた造語。インターネットを通じて、不特定多数の人から資金を集める仕組みを指す。
今回のプロジェクトで活用されたREADYFORは、11年のサービス開始以来4年間で、15万人の支援者から19億円以上を集める、日本最大規模のクラウドファンディングサービスだ。
今回の資金調達プロジェクトは、復元費用の一部400万円の調達を目指して行われた。
天井壁画が描かれているバーミヤン東大仏
今回の資金調達にクラウドファウンディングを活用した理由について、東京藝術大学客員教授 井上隆史氏は次のように話す。
「文明の十字路に位置したアフガニスタンの文化財の重要性や素晴らしさを、できるだけ多くの人々に伝えたいという思いから、復元作品が展示される展覧会は、無料公開を考えている。クラウドファンディングの活用により、多くの人にこのプロジェクトを知ってもらう機会になると同時に、心ある方々から支援してもらうことで”一緒になって作っていく”という一体感を共有できるのではないかと考えた」
支援は一口3000円からで、支援者は、復元された天井壁画が出品される展覧会「素心 バーミヤン大仏天井壁画~流出文化財とともに~」や、特別コンサートなどに招待される。
質感を再現できる 独自技術で原寸大復原
復元されるのは、アフガニスタンの戦乱で01年に破壊されたバーミヤン東大仏の天井壁画「太陽神と飛天」。東京藝大が独自に開発した技術を駆使して、原寸大の3次元立体で復元する。
大仏壁画の復元作業は、京都大学が70年代の現地調査で撮影した約1万5000枚のブローニー版写真から選んだ150枚の写真などをデジタル化して進められていった。しかし、岩絵具(いわえのぐ)などの質感を表現するのは、デジタルの高精細化が進んだ現在でも困難だった。
東京藝大は岩絵具などの質感を表現できる模写・レプリカの制作方法を独自開発して特許を取得していた。今回はその特許技術を用いて、バーミヤン東大仏の天井を色鮮やかに飾っていた壁画窟全体を、原寸大の3次元立体として復元することとした。
失われた文化遺産 かけがえのなさ実感
井上氏は復元作業の意義についてこう語る。
「バーミヤンの大仏や壁画が爆破で失われたことは誠に残念なことですが、私たちはその破壊行為を糾弾するという姿勢ではなく、その文化遺産を今われわれが持つ最新技術で復元してみせることで、失われた遺産のかけがえのなさを認識してもらいたいと思っている。そして二度とこうしたことが行われないようにとの願いを込めたメッセージとしたいと思っている」
復元された「太陽神と飛天」は、今年4月12日から6月19日まで、東京藝術大学 大学美術館陳列館のアフガニスタン特別展「素心 バーミヤン大仏天井壁画~流出文化財とともに~」で展示される。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年2月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第24回】立正大学「全学規模でクラウド推進 コスト削減し利便性向上」ICTキャンパス 2015年12月7日
立正大学は1580年に日蓮宗の教育機関として創立された「飯高檀林」を淵源とし、現在は東京・品川と埼玉・熊谷の両キャンパスに8学部15学科、大学院7研究科を擁する、学生数1万人の総合大学である。
2000年代初頭からICTの活用に積極的に取り組み、現在は全学規模のクラウド基盤を構築している。同大学におけるクラウド活用状況について取材した。
立正大学は2002年度から学外のICT関連サービスおよび学内サーバーの仮想化をスタートさせている。積極的にサーバーの仮想化に取り組み、13年度には事務で利用されるクライアントの仮想化、および関連サーバーのクラウド基盤への移行を行った。
立正大学の品川キャンパス
14年度に学内サーバー クラウドへ移行完了
翌14年度には、データセンターまで学内ネットワークとする構成に変更。
教育研究システムにおけるクライアントの全面仮想化、および関連サーバーのクラウド基盤への移行を完了した。これにより、ほとんどのサーバーがクラウドへ移行し、学内のほぼすべての端末が仮想化されることとなった。
教育研究系と事務系 システムを統合
クラウドを活用する以前、立正大学の学内システムは、教育研究システムと事務システムが、それぞれ印刷環境やファイルサーバーなどの類似のシステムを構築し、コストが二重にかかるのが問題であった。
また、それぞれのシステムで異なるアカウント(IDとパスワード)が使われていたため、利便性が良くなかった。
そこで、約10年かけて教育研究システムAD(Active Directory)と事務システムADに集約し、認証基盤を整備することで、コストの削減と利便性の向上を実現させた。
4つのIDを統合
さらに14年度末にID管理システムを導入し、教育研究システムAD、事務システムAD、マイクロソフトのOffice365用AD、汎用LDAP(Lightweight Directory Access Proto‐col)を統合して管理できるようにした。
卒業生と在校生の 絆深める生涯メール
今年度は、Office365を活用し、卒業後も継続して利用できる「生涯メール」の導入を行った。
これにより、卒業生と在校生との絆を深めることに役立つものと期待されている。
ただし、現在使っている汎用ドメイン「ac.jp」の契約が16年度まで続くため、当面は汎用ドメインとの平行運用となる。契約満了後の17年度からは、生涯メールアドレスのみを学生に付与することになっている。
「Office365はオンラインストレージやスケジュール管理など多彩な機能を持つグループウェアで、授業でも効果的に活用できると思う。
各種API(Application Programming Interface)も整備されつつあるので、これからは積極的に活用していきたいと考えている」(立正大学情報メディアセンター品川情報システム課課長菅野智文氏)
データ統合で ビッグデータ活用も
CPUやメモリーなどを統合的に監視し通知するシステムが稼働していることにより、大学側で情報システムを運用する負担が軽減し、耐障害性も格段に向上したという。
今後は、学内の情報システムの集約をさらに進め、コストと利便性を向上させていく考えだ。菅野氏は「ストレージや各種サーバーのデータが統合されることで、ビッグデータの活用も可能になるだろう」と話す。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年12月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第23回】東京理科大学「教育力と研究力を伸ばすICTシステム」 ICTキャンパス 2015年11月2日
東京理科大学は、130年以上の歴史を持つ理科系総合大学だ。これまでも各時代において、当時の最先端の教育・研究環境の実現に取り組んできた。現在は「日本の理科大から、世界の理科大へ。」という目標の達成に向け、より質の高い教育と研究を世界レベルで行えるよう力を注いでいる。
ノーベル賞受賞大村氏の母校
今年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智氏(北里大学特別栄誉教授)は、大学院の卒業生であり、同大学では初、日本の私立大学卒業生としても初のノーベル生理学・医学賞受賞者だ。
ICTによる教育・研究環境の充実には注力し、教育においては「VLE(Virtual Learning Environment)」、研究ではVRE(Virtual Research Environment)」というICTシステムを今年春から稼働させ、成果を挙げている。
アクティブラーニング促す機能が充実
VLEで特徴的な機能は2点あり、一つは「学修ポートフォリオ」機能だ。学生が履修を申告する際、4年間に達成すべき、どのような能力をどの授業が担うのかが、科目系統図とともに把握できる。学生は半期ごとに自分の学修成果を振り返り、自分自身による主観評価と、実際に評価された成績ベースの客観評価を、レーダーチャートで比較することができる。これをもとに次の目標を設定し、新たなPDCA(Plan‐Do‐Check‐Act)サイクルを回していく。学生にとっては、自分の成長過程を多角的に見ることができる。
2点目は、学生のアクティブラーニングを促す機能の充実だ。授業ごとにSNSのグループ機能やチャットを利用できる。また、授業中、教員が発した質問に学生が回答し、集計結果を共有できる「eクリッカー」機能を装備。論文やレポートをオンラインで共有しながら、教員と学生がディスカッションできる「ライブクラスルーム」などの機能もある。
学修ポートフォリオやeクリッカーなどの機能は教員にとっても有益だ。学生の習熟度や理解度が確認でき、次の授業やセメスターに反映させることができるからだ。
学生に課した課題の収集・管理も効率化。授業の準備や研究により力を注ぐことができるようにもなった。
広がる異分野教員間のコミュニケーション
一方、VREにおいては、独自のSNSを構築し、教員同士で他教員の研究内容や論文などが見られるようにしている。
こうしたシステムを構築した背景には、国際的に最先端と言われる研究の多くが、複数分野にまたがるクロスディシプリン(学際的)なものであることが関係している。
東京理科大学は、理系総合大学として理学、工学、薬学、経営学といった研究領域を持ちながらも、キャンパスが複数に分かれており、異分野の教員とのコミュニケーションが生まれにくいという問題点があった。
そこでVREの稼働により、学部や学科を越えて、興味や関心を共有する教員同士がグループを形成。
チャット形式でのコミュニケーション、セキュリティーの高いストレージを使用したファイル交換などをすることが可能となった。
国際的なクロスディシプリンが進む中、研究を始める前の段階で、異分野教員同士のコミュニケーションを補えるツールとして、今後、ますます期待が寄せられている。
今後もICTを最大限に活用し、VLEとVREを組み合わせて、教育力と研究力を一層伸ばしていく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年11月2日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第22回 名古屋芸術大学 ICTキャンパス 2015年10月5日
名古屋芸術大学人間発達学部の加藤智也准教授は、「子供」と「IT」との関わりを研究する担当ゼミナールにおいて、日本ではまだ広く普及していない2010年からフェイスブックをいちはやく導入し、ゼミで活用してきた。
加藤ゼミではフェイスブック導入によって、学生自ら考えて能動的に取り組み、ゼミに対する強い参加意識が生まれるようになったという。
加藤准教授にフェイスブック活用の狙いや効果などについて取材した。
グループ機能とメッセージ機能を利用
加藤ゼミは2004年度から、授業を補完するものとしてメール、メーリングリスト、ホームページを活用。その後もブログなどのソーシャルメディアを積極的にゼミの活動に取り入れてきた。
これらのITツールによって、授業時間外に指導・学習・連絡が可能になったため、週に一度開催されるゼミの時間を有効に活用することができるようになった。
その一方で、ツールが複数にまたがることにより一元的な管理が難しくなり、教員、学生双方にとって、使い勝手は良いとは言えない状況だった。
「そこで、フェイスブックの実名性によるリアルなつながりを前提とした信頼性と、グループ機能やメッセージ機能に着目し、導入することにしました」(加藤准教授)。
導入の目的は、ゼミにおける「効率的な情報共有」「学習意欲の向上」「コミュニケーションの促進」である。
ゼミの学生全員で共有すべきあらゆる情報はグループ機能を利用することとし、投稿を確認したら速やかに「いいね!」を押すことを義務づけた。また、学生個人への連絡は、メッセージ機能を利用することとした。
発表する学生は事前にグループに概要を公表
学生は最初、なかなかグループに投稿やコメントをしなかった。そのため、軌道に乗るまでは教員がある程度、強制力をもって誘導する必要があったという。
徐々に学生も投稿に慣れていくと、導入の有効性が現れてきた。例えば、ゼミに関する情報はフェイスブックで一元管理でき、スマートフォンさえあれば、いつでもどこでも情報を確認できるようになった。
また、学習意欲の向上においても効果が認められた。ゼミでは自分の発表の1週間前までに、グループにテーマや概要を公表し、発表者以外の学生はそのテーマについて予習しなければならない。そのため、ゼミでのディスカッションが活発化し、予習で分からなかった点などを全員で補足しながら理解することができた。
グループでの活発なやり取りがきっかけとなり、ゼミ生同士のリアルな関係の構築も促進された。上級生は下級生の手本となるという意識が芽生え、縦のつながりが強化。卒業後もコミュニケーションが継続している。
3年間利用した学生44人を対象にアンケート調査をしたところ、「ゼミにおいてフェイスブックが情報共有に役に立ったか?」という質問には、全員が「役に立った」と回答。「フェイスブックを利用することで学習意欲が向上したか?」には「向上した」が34人、「やや向上した」が8人、「あまり向上しなかった」が2人。「フェイスブックが人間関係を構築するのに役に立ったか?」の質問には「役に立った」34人、「やや役に立った」7人、「あまり役に立たなかった」3人であった。
「今回は機能を限定的に利用したこと、また教員が学生の利用具合を確認していたため、外部とのトラブルはありませんでした。しかし、フェイスブックではさまざまな使い方が可能であり、今後利用範囲を拡大していったときに、実名ならではの問題も生じる可能性があります。うまく活用するためのソーシャルメディア・リテラシー向上に向けてさらに検討していきたい」と加藤准教授は話している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年10月5日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第21回】大阪教育大学「教育実習中の学生にオンライン動画で指導」 ICTキャンパス 2015年9月7日
大阪教育大学は、教育実習中の学生への指導を、インターネットを使い遠隔地から行うシステム「スマートフォリオ」を開発し、同大学附属小学校において活用実験を行った。システム開発に携わった大阪教育大学情報処理センター尾崎拓郎氏に取材した。
「スマートフォリオ」で遠隔地から学生を指導
SNS機能を持つシステムを開発
「教育実習には、教育実習生、実習校の担当教員、そして大学でその学生の指導に従事している大学教員と大きく分けて3つの立場が存在しています。教育実習が行われている間、大学教員は実習校の担当教員と情報交換を密にしなければなりませんが、実際は実習の終盤に実施する研究授業を参観するのがいろいろな制約から精一杯でした。そこで、SNSの仕組みを取り入れて、情報交換できるようにしたのが今回のシステムです」と、尾崎氏はシステム開発に取り組んだ経緯を話す。
システムは、オープンソース「OpenPNE(オープンピーネ)」をベースに構築。
機能には「日記」「メッセージ」「コミュニティ作成」のほか、実習簿や学習指導案を閲覧できるように「ファイルアップロード」機能を備える。
また、授業の動画のアップロードも可能。動画についてのコメントも入力できる。
「コメント機能により、大学教員は実習先に出向くことなく、実習生に指導できるようになりました」(尾崎氏)
データは大学内のサーバーに格納
こうした機能は、フェイスブックなどの汎用SNSで、コミュニティを作成し運用することでも可能だ。しかし、尾崎氏はそのような方法は取らなかった。その理由をこう話す。
「ファイルをアップロードし共有するはフェイスブックなどでも対応できたのかもしれませんが、実習授業の動画をアップロードするとなると、教師の発言内容や児童生徒の反応を撮影するわけですから、保護者の理解が絶対的に必要になってきます」
そこで、データは大学内のサーバーに格納し、パブリッククラウドには置かないように設計した。さらに、ユーザーIDの発行に関しては、原則、学内関係者のユーザーIDを利用するようにし、不正アクセスを防止している。このような措置を講ずることで保護者の理解を求めた。
また、タブレット端末で撮影した動画をすぐにアップロードできるようにするため、端末に標準搭載されているカメラアプリを使うのではなく、専用のカメラアプリ「スマトレ・コーダー」を開発し、システムに直接アップロードできる仕組みにして、システムへのアクセスを容易にした。
専用カメラアプリ「スマトレ・コーダー」
授業が振り返れると実習生からも好評
2014年9月、同大学附属小学校の教育実習において、今回のシステムを活用した実証実験を行った。
初期段階での実証実験だったため、撮影や動画アップロードなどの作業は、教育実習生ではなく学生スタッフが行った。
実習生からは「授業中は緊張していて、自分の発言内容を忘れていたが、動画を見ることで振り返りがしやすかった」「コメント機能によって指導を受けるのは、内容が分かりやすくてよい」「自分が思い描いていた動きと違う動きをしていたのに気付いた」といった意見が寄せられた。
尾崎氏は「附属の学校で展開するだけにとどまらず、本学の学生をはじめとする構成員が皆このシステムを気軽に利用できるくらいの水準にまで利便性を高めて、システムを活用するのがスタンダードになることを目指します」と抱負を語っている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年9月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)













