【第40回】ICTキャンパス 大阪工業大学「梅田に新キャンパス “デザイン思考” を育成」 2017年5月8日
ものづくりに必須 技術+利活用デザイン
大阪工業大学は今年4月、「ロボティクス&デザイン工学部」を新設するとともに、同学部が設置されている「梅田キャンパス」をオープンした。
ロボティクス&デザイン工学部はロボット工学科、システムデザイン工学科、空間デザイン学科の3学科で構成。ロボットをAI(人工知能)やIoT(Internet of Things)だけでなく、空間やプロダクトなどのデザインと一体的に扱える高度な人材を育成していく。
同学部が新設された背景には、ものづくりに求められるスキルや知識、考え方が変化していることがある。
従来のものづくりで重要なのは技術だった。しかし、近年のIoTやAIなどがもたらした産業構造の変化によって、技術だけでなく、利活用におけるデザインも求められるようになってきた。
さらに、製品やシステムの開発においては、産官学の共同研究やオープンイノベーションといった学外とのコラボレーションも一層重要になってきている。
こうしたことから、大阪工業大学ではロボティクス&デザイン工学部を新設させ、「デザイン思考」の育成にさらに注力することとした。デザイン思考とは、同学部によれば、デザイナーの手法を参考に①観察と分析②アイデア創出③プロトタイピング(試作)と検証を繰り返して、問題の解決策を練り上げ、それを効果的にアピールすることで、人々の理解や共感を導き出すことだ。
学内外コラボを推進させる最新の環境
2層吹き抜け大空間のラーニングコモンズ
梅田キャンパスは、大阪でももっとも活気のあるエリアのひとつである梅田・茶屋町に位置し、JR大阪駅から徒歩5分、阪急梅田駅から徒歩3分(直結)とアクセス抜群のロケーションに立地する。地上21階、地下2階の都市型高層タワーキャンパスだ。
梅田キャンパスで特筆すべきは、「デザイン思考」を育成するための教育環境が整備されていることだ。6階の「ラーニングコモンズ」は、教員の音声に反応して映像が切り替わる、超大型380インチスクリーンを備える。個別、グループ、大人数など多彩な学習シーンに応じて、柔軟に空間構成が変化できる高いフレキシブル性が特徴だ。
8・9階には「ロボティクス&デザインセンター」と「イノベーションラボ」を設置。産官学連携のプラットフォームとして共同研究を行っていく。
開発や発表展示などにも対応できるため、学内外の研究者との創発やコラボレーションが行いやすくなっている。
17階には、全学年・全学科の学生が着席できる大空間(デザインスタジオ)がある。学年や学科の垣根を超えて、ひとつの空間に集うことで、多彩な刺激を受け、デザイン思考を深めていくことが期待されている。
なお、梅田キャンパスにおける空間デザインプランやプロジェクトマネジメント、AVシステムの導入などは内田洋行が行った
デザイン思考を活用し、これまでとは少し違うプロセスで課題解決に取り組むことで、従来では考えつかなかった新しいイノベーションが見つかる可能性がある。
新キャンパスでの教育で、デザイン思考を備えた人材が数多く輩出されることを期待したい。
産学連携の共同研究を行うロボティクス&デザインセンター
全学年・全学科の学生が着席できるデザインスタジオ
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年5月8日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第39回】ICTキャンパス 東京藝術大学「芸術×科学技術 COI拠点で “感動” 創出」 2017年4月10日
東京藝術大学では「『感動』を創造する芸術と科学技術による共感覚イノベーション」が、文部科学省と科学技術振興機構の「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」に平成27年度から採択され、様々な活動を展開している。
芸術と科学技術を融合させ、教育、医療、福祉などの分野においてコンテンツ発信や文化インフラの整備などを行うのがその目的だ。
ここでは、昨年の活動から、ITや教育に関する3件のプロジェクトを紹介する。
人工知能ピアノとベルリンフィルの共演
人工知能ピアノと弦楽四重奏のコンサート
平成28年5月、拠点参画企業ヤマハの技術協力で「音舞の調べ~超越する時間と空間」を開催した。
AI(人工知能)のピアノ演奏システムが、20世紀最高のピアニストの1人である、スヴャトスラフ・リヒテルの演奏を忠実に再現するだけでなく、名演奏家集団として世界に名高いベルリンフィル・シャルーンアンサンブルの演奏に柔軟に対応し、曲を奏でようというものた。
演奏した曲は、F・シューベルトのピアノ五重奏曲《鱒》イ長調D667第4、5楽章。リハーサルを重ねるごとに「AIリヒテル」のピアノとシャルーンアンサンブルの演奏の完成度が上がり、コンサートでは出だしから息がピッタリと合った演奏となった。
中高一貫校でアンドロイド演劇
中高一貫校でアンドロイド演劇を上演。演出は平田オリザ氏
28年6月、福島県広野町にある県立中高一貫校ふたば未来学園において「アンドロイド演劇」を上演した(写真右上)。
原作・演出は、劇作家・演出家の平田オリザ特任教授。前後半の2部構成で、前半は死を目前にした少女と、少女に詩を読み聞かせるアンドロイドとの静かな対話、後半は運送業者とアンドロイドとの会話を通じて、アンドロイドと人間との関わり、生と死への問い、震災被災者への思いなどを演じた。
アートとサイエンス融合のワークショップ
アートとテクノロジーを融合したワークショップが大好評
28年11月には、日本科学未来館(東京・お台場)で開催されたイベント「サイエンスアゴラ2016」へ出展した。
ブースでは「色彩の秘密」と題してクレヨン作りのワークショップを、液晶端末なども使いながら、30分間隔で実施した。
「ワークショップは毎回、予約で満席。アートとサイエンスを融合した領域横断的なワークショップとして大好評でした」(東京藝術大学 社会連携センター COI研究推進機構)。
今後は、今年4月18日から7月2日まで、東京都美術館で開催される「バベルの塔展」にも特別協力し、拡大複製画の展示や、解説映像の提供を行う。「産学官連携による、さらなる感動の創造とイノベーションの創出を行っていきたい」(同)と、活動についての抱負を語る。
東京藝術大学は「Arts & Science LAB.」(産学連携棟)を上野キャンパスに設置し、大学や企業が単独では実現できない革新的なイノベーションを創出するための環境を整えた。
COIに採択されたことで、ロボットの教育、医療、福祉への活用をはじめとする、芸術と科学技術との融合に、一層効果を上げていくものと思われる。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年4月10日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第38回】ICTキャンパス 名古屋大学「第4次産業革命に対応 ”情報学部” を新設置」 2017年3月6日
「名古屋大学情報学シンポジウム」が昨年7月に名古屋大学で開催された
社会の新しいニーズに応える人材を育成
ビッグデータ、人工知能、IoTなどの情報技術は社会を劇的に変えつつあり、「第4次産業革命」と言われることもある。
名古屋大学では、こうした社会の環境変化から生まれる新たなニーズに対応していくため、今年4月、これまでの情報文化学部を発展改組し、情報学部を設置する。
情報学部長(就任予定)の村瀬洋氏は「多様で膨大な情報をもとに構築された情報システムや社会制度は、多数の要素が複雑にからみあっていますので、新たな問題を引き起こすこともあります。しかし、それを単独の分野だけで解決するのは困難です。これまで学問は『自然』『人間』『社会』『人工物』を構成要素として発展してきましたが、新たに『情報』という分野が必要となってきました」と、情報学部を設置した背景について語る。
文理融合カリキュラム 情報学を幅広く探究
学生定員は145人。これまでの情報文化学部から60人増やした。学科は「自然情報学科」「人間・社会情報学科」「コンピュータ科学科」の3つ。
自然情報学科は、自然現象や社会現象のデータ分析と数理モデル化、シミュレーションによる理解を探究する。
人間・社会情報学科は、人間の心理や知覚・感覚、コミュニティやマーケットを情報学を駆使して解明できるようにする。
コンピュータ科学科は、コンピュータ、ネットワーク、人工知能、音声・画像処理などの情報科学技術を専門的に学ぶ。
いずれの学科も、文系・理系の境界を越えた立場から、情報学を幅広く学べるようになっているのが特徴だ。
従来のセメスター制(前後期制)から、1年を4つの学期で構成するクォーター制を採用することで、学生が海外留学やインターンシップに参加しやすくする。
村瀬氏は「情報学の観点から、幅広い分野を俯瞰することで、自らが心底取り組んでみたい分野を見出し、専門知識を身に付け、人類が直面する課題の解決にチャレンジしてほしい」と情報学部に入学する学生に期待を寄せる。
専任教員は93人で、そのうち9人に年俸制を導入。産業界や社会からの意見を取り入れるため、学外有識者にアドバイザーへの就任を依頼する。
全国の大学で情報関連学部が新設
本紙1月号の本連載では、滋賀大学で4月からデータサイエンス学部が新設されることを紹介した。同学部では、ビッグデータなどを専門的に扱えるデータサイエンティストを育成していく。
4月には名古屋大学や滋賀大学以外にも、情報やデータサイエンスを扱う学部を設置する大学が増える。
東洋大学は、東京・赤羽台の新キャンパスに「情報連携学部」を設置。学部長には、TRONプロジェクト(ユビキタスコンピューティング環境を目指すプロジェクト)で著名なコンピュータ科学者・坂村健氏が就任予定だ。
情報関連を重視する傾向は女子大でも同様で、津田塾大学は、新設する「総合政策学部」で、データサイエンスを基礎科目として学生に身に付けさせていく。
ビッグデータの爆発的な増加とともに、情報を専門的に扱いながら、課題を見つけ解決していく人材は、ビジネス、医療、教育など様々な分野で今後、ますます求められている。情報関連の学部で、こうした社会のニーズに応えていく人材が育成されていくことに期待したい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年3月6日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第37回】ICTキャンパス 二松学舎大学「漱石アンドロイド完成文学の講義を視野に」 2017年2月6日
文豪・夏目漱石のアンドロイドが講師となり、学校で授業を行うプロジェクトが進行中だ。
写真は完成した漱石アンドロイド(画像提供:二松学舎大学)
漱石アンドロイド完成文学の講義を視野に
「漱石アンドロイドプロジェクト」は、二松学舎大学(東京・千代田区)によって、大阪大学大学院基礎工学研究科(石黒研究室)との共同研究で進められてきた。昨年12月、「漱石アンドロイド」が完成し披露された。
漱石没後100年 生誕150年を記念
二松学舎大学は、かつて夏目漱石が学んだ学校。2016年が漱石没後100年、17年は生誕150年であることから、この時期に合わせ、夏目漱石をアンドロイドとして蘇らせるプロジェクトに着手してきた。
制作にあたっては、アンドロイド研究の第一人者である石黒浩大阪大学院教授が監修した。
外見は大正元年、漱石45歳のときに撮影された写真にもとづいて作成。頭部は、朝日新聞社が所蔵するデスマスクを3Dスキャンして得られたデータから作られた。
胴体や手足は、デスマスクのサイズを基準にして、アンドロイド製作の目標年齢に近い漱石の写真を参考に、顔のサイズから各部位のサイズを導き出した。
アンドロイドが着ている服は、当時の写真や文献資料から考察を進める一方で、早稲田大学理工学術院石川研究室に、モノクロ写真のカラー化を依頼し、その画像をもとに生地の色を決めた。
音声は、夏目漱石の孫である夏目房之介氏の声を録音して音素に分解、それを再合成して人工音声を作り出した。
頭部、頸部、腕部など44か所には空気アクチュエーターを埋め込んであり、首や両腕を動かしたり、表情を変えることができる。
今後はアンドロイドに搭載する授業・講義用プログラムを開発し、実際に大学などで授業や講義を行っていく計画だ。
アンドロイドを通して新たな漱石研究
漱石アンドロイドは、授業や講義といった教育関連での活用だけではなく、新たな文学研究にも役立てていく。
二松学舎大学では、授業・講義用プログラムを開発していく中で、漱石文学や漱石の話し方などについての研究を深め、新たな「漱石像」を探求するとしている。
アンドロイドの漱石像と、個々の漱石研究者が抱いている漱石像との相違点などについても、研究対象としていく予定だ。
さらに、社会におけるアンドロイドの受容性についても研究を進める。漱石アンドロイドを教育現場で活用することで、漱石アンドロイドが社会にどのように受け入れられ、どういった存在になっていくのかを検証していく。
具体的には、大学・高校・中学の講義や授業を行う際、学生・生徒に詳細なアンケートを実施し、アンドロイドに対する受容性などのデータを蓄積し研究を進める。
可能性を秘めた漱石アンドロイド活用
最近は店頭やホテルでロボットが接客するのを目にする機会も増えてきた。また、囲碁においては、人工知能が世界トップレベルの棋士に勝った。人工知能を使って執筆した小説が、「星新一賞」の一次審査を通過したことも話題となった。
将来は漱石アンドロイドが執筆した小説を読んでみたいが、そのためにはさらに多くの研究が必要なようで、実現はまだ遠そうだ。
今回の二松学舎大学の漱石アンドロイドを活用した授業や文学研究は、大変に意欲的な取り組みだ。
今後どのような展開を見せていくのか注目していきたい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年2月6日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第36回】ICTキャンパス 滋賀大学 データサイエンス学部「データサイエンティスト育成へ 日本初の拠点学部を設置」 2017年1月1日
滋賀大学データサイエンス学部のサイト。データサイエンティストを育成する。
滋賀大学は2017年4月、日本で初めての「データサイエンス学部」を設置する。日本で不足しているデータサイエンティストを育成するための体系的な教育を行う学部だ。募集定員は1学年100人。同大学が入学意向や採用意向を調査すると、定員を大きく上回る反応があるといい、受験生や企業から大きな注目が集まっている。
カリキュラムにはPBL演習も
近年、個人の購買履歴など膨大なデータがネットワーク上に集積されるようになった。データサイエンスとは、こうしたビッグデータを新たな資源として、そこから付加価値を生み出す学問のことだ。
データサイエンス学部長に就任予定の竹村彰通データサイエンス教育研究センター長は、同学部を設立する背景について「データサイエンティストの育成の重要性は政府も指摘しています。滋賀大学は、データサイエンス学部を設立して、社会的な要請に応えるとともに、人文社会系大学から文理融合型大学への転換を進めていきます」と話す。
カリキュラムでは、データサイエンスの基礎的なスキルである統計学と情報学に加え、実際のビッグデータを活用した「価値創造」を重視するのが特徴だ。
そのため、実際のデータから課題を発見し、解決策の提案力を養うPBL(Project-Based Learning)演習に力を入れる。演習内容は、マーケティング、観光、環境、医療、バイオなど多様なものになる予定だ。
履修モデルは、学生の関心・適性や卒業後の進路に合わせて、技術者を目指す「データエンジニア型」、企業などでデータ解析を行う「データアナリスト型」、企業や自治体などの実務に応用できる「データコンサルト型」の3つだ。
学生はプログラミングや数学も学ぶが、それらの専門家を養成するための学部ではないので、各学生の志向に合わせた履修内容としている。
ドコモgaccoが講座などで協力
データサイエンスに関する講座をこれまで多数開設してきたドコモgaccoが、協力する。
ドコモgaccoとは、本格的な内容の大学講義をインターネットで提供しているウェブサービスだ。データサイエンス学部では、ドコモgaccoの「統計学Ⅰ」「統計学Ⅱ」の2つ講座を利用し、通常の講義ではなくアクティブラーニング型の講義を行う予定になっている。
また、ドコモgaccoは学部紹介のビデオを2本作成した。さまざまな分野で活躍しているデータサイエンティストの活動や考え方を紹介しながら、データサイエンスという学問の内容や、データサイエンティストに求められる人材像を伝えるとともに、それらがデータサイエンス学部のカリキュラムにどのように反映されているかを盛り込んだ内容になっている。
価値創造の面から手法の有用性を理解
竹村氏は、データサイエンスを学ぶ際に重要なことについて、「統計学や情報学の手法について概観し、実際のデータを応用して実践しながら、価値創造という面から手法の有用性を理解することが、まず第一歩です。その後、手法の背景となる数学的な理論を学ぶことで、理論の理解も深まります」と話す。
データサイエンスは、応用範囲の広い学問分野だ。インターネット、POS、各種センサーなどで蓄積されるビッグデータと、それらを分析・利用するデータサイエンスの有用性はますます高まっていくだろう。データサイエンティストの育成を担う同学部の教育に期待したい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2017年1月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第35回】ICTキャンパス 徳島大学 理工学部 理工学科「プログラミングで反転授業 冒頭30分の説明が不要に」 2016年12月5日
授業冒頭の説明なしすぐに実習を開始
反転授業を本格的に取り入れる大学が増えてきた。徳島大学理工学部 理工学科電気電子システムコースでは、マイコンプログラミングの演習授業に反転授業を平成26年度から導入。現在は、さらに効果を上げるための取組がなされている。
反転授業を導入した授業は、1年生後期「電気電子工学入門実験」(必修1単位)の「マイコンプログラミング」3回分の実験授業だ。
受講学生数は約110人で、27人程度ずつ4グループに分けて実施している。マイコンボードArduinoを使い、簡単な電子工作とプログラミングを体験するのが狙いだ。
実習を⾏っているコンピュータ実習室
反転授業を導入以前、2時間30分の授業時間中、冒頭の30分から1時間ほどを実習の説明にあて、残りの時間で実習を行っていた。授業時間全体における説明時間の割合が多く、説明時間の短縮が課題であった。
徳島大学工学部電気電子工学科 芥川正武講師は「反転授業を行う授業は、電気電子システムコースにおける導入科目という位置付けです。そのため、深い専門知識は必要とせず、学生に動くものを作る経験をさせることに主眼が置かれています。授業の趣旨から、手を動かす実習の部分に、できるだけ時間を割きたいと考えていました」と話す。
反転授業を取り入れたことにより、これまで授業時間の中で行っていた説明内容は、事前に動画で視聴できるようになり、授業では基本的に説明をせずにすぐに実習に入れるようになった。
説明動画は9割の学生が視聴
事前説明に使う動画は教員が作成している。
Keynoteでプレゼンテーションファイルを作成。ナレーションを録音し、QuickTimeムービーで書き出して、Youtubeへアップする。動画のURLを知らないと視聴できない限定公開だ。
事前学習用として、動画のほか、PDF形式のテキストと、事前の説明内容が理解できたかどうかを確認するための問題を、徳島大学のLMS(Learning Management System=学習管理システム)に載せている。
芥川氏は「少なくとも実習内容を何も知らずに授業に臨む学生は減りました。電子工作が得意な、あるいは関心の高い学生は、予め、様々な試作に自主的に取り組み、授業では専門的な質問をしてきたり、自分で部品を購入して自主的に回路を組むなど、積極的に授業に取り組むケースも増えました」と効果を話す。
事前説明の動画は、受講学生の約9割が視聴。確認問題の解答率は、授業直前にはほぼ100%になっている。
授業を始める前に、LMSに載せた確認問題の解答状況を集計すれば、理解度の低い内容について、実習時間中に解説を加えることもできるようになった。説明動画の作成、保守、LMSコンテンツの作成などの作業が追加で発生したが、負担はそれほど増加していない印象だという。
実習の様子
どれだけ本気で予習に取り組めるか
反転授業の実施について芥川氏は「学生にどれだけ事前予習を本気で取り組んでもらえるかが最も重要」と話す。
動画は当初、20分前後の長さがあったが、学生の集中力が続くよう3分から8分ほどの長さに分割・再編集した。また、確認問題を増やしたり、予習をやってくるように、しつこく周知したりしたという。教員側が、こうした学生のモチベーションを維持させるための細かな対応を行っていることも、反転授業の効果を上げている要因だと言えそうだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年12月5日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第34回】ICTキャンパス 専修大学 ネットワーク情報学部「ロボットと共存する世界をPepperの技術で実現へ」 2016年11月7日
専修大学ネットワーク情報学部の江原淳教授のもと、学生たちがPepperを活用して、ロボットと人間が共存する世界の実現に取り組んでいる。江原教授と学生に取材した。
江原教授は「ロボットの限界を考えつつ、アプリに新しい意味を持たせることが重要」と語る
アプリ開発が鍵を握る実世界のネットワーク化
アプリ開発に取り組むようになった理由を、江原教授は次のように説明する。
「人はネットワークから得られた情報を多様に解釈することで、創発性が高まります。従来はそれがディスプレーを介して起きていましたが、今はWiiFitやポケモンGOのような実世界インターフェースになり、いずれは実世界自体がIoTでネットワーク化していくと思われます。これは自然に実現されるわけではなく、意味のあるアプリケーションが普及することで、徐々にシフトしていくと考えています。そこで、ロボットによる実世界インターフェースで、技術の限界を踏まえながら、アプリにどう新しい意味を持たせるかが重要だと考え、プロジェクトを始めました」
プロジェクトは、学生が発案して自主的に実行する典型的なPBL(Project Based Learning、プロジェクトをベースにした実践型・参加型の学習形態)科目だ。
学生はアプリ開発を通して、コレグラフ(Pepperアプリを作るためのプログラミング・ソフトウェア)やPython(汎用プログラミング言語)をはじめ、情報分析、課題設定、プロジェクト管理などを学んでいる。
江原教授のプロジェクトではこれまで、Pepperを使って、歌や動作でスポーツの応援をするアプリ、イベント来訪者に場所や内容を案内するアプリ、年配者らの体調を記録・診断するアプリなどを開発してきた実績を持つ。
Pepperでしかできないアプリを
今学生が取り組んでいるのは「娯楽」「介護」「案内」をテーマにしたアプリ開発だ。プロジェクトに参加する9人の学生が、3人ずつ3つのグループに分かれ、アプリ開発に挑戦している。
娯楽では「Pepperならでは」の楽しさを追求し、Pepperに踊りを踊らせるアプリを開発中。日本の伝統的な踊りの完全再現を目指している。
介護では、認知症予防のために会話をしたり、付属センサーを使って介護者の状態を把握し、そのデータを介助者らへ送信することなどを念頭に開発を進めている。
案内では、専修大学への来訪者(入学を考えている高校生やイベント時の訪問者など)に向けて、専修大学の施設について、Pepperがしゃべったり画面に映し出したりして伝えるものとした。
プロジェクトに参加している学生からは、次のような声が寄せられている。
「プロジェクトに参加する前は『Pepperを使って何かをする』という漠然とした内容だったので少し不安がありましたが、参加してみると『こんなことをPepperでやれたら面白そう』という考えがたくさん浮かび、プロジェクトに対する期待がふくらみました」
「Pepperにしかできないことを考えるのは少し大変でした。スマホでできるようなアプリではPepperで行う意味がなくなってしまうので、その部分はメンバーでよく話し合い、時間をかけて作業しました」
今年7月、アプリ開発の中間発表を行った。今後は今年12月の最終発表に向けて、アプリの完成度を向上させていく。最終的には、実際にアプリストアで販売できるだけの品質を持ったアプリにしていく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年11月7日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第33回】ICTキャンパス 金沢工業大学「遠隔でリアルタイムに学生の文章作成を支援」 2016年10月3日
文章の添削をwebで行える。テキストチャットで文章をブラッシュアップする。
学生にとって、文章を書く機会は授業で提出するレポート、就職活動でのエントリーシートや小論文、卒業論文などとても多く、文章作成のスキル向上は必須。
金沢工業大学では、学生の文章作成能力を向上させるため、「リアルタイム遠隔文章作成指導支援システム」を構築。試験運用を行ったところ、指導スタッフ、学生双方から高い評価を得ることができた。
対面指導が受けにくい学生向けに開発
同大学では、学生の文章作成を支援するため、「ライティングセンター」を設置している。
ここには、文章を指導するスタッフがいて、学生と対面で、小論文や各種レポートの添削および文章作成におけるヒントを与えている。しかし、4年生は就活の小論文や卒論の作成などで文章作成の指導の必要性が高いにもかかわらず、同センターのある扇が丘キャンパスから15キロほど離れた八束穂キャンパスの研究室にいることが多いため、同センターを利用しづらい状況にあった。
システムの開発に携わった、金沢工業大学 情報フロンティア学部 メディア情報学科 山岸芳夫准教授は「今回のシステムによって、ライティングセンターのスタッフが、学生にオンラインでリアルタイムに、対面と同様の文章作成指導を行えるようにしたかった」と話す。
システムはウェブアプリケーションのため、ソフトのインストールなどは必要なく、ブラウザのみで利用が可能だ。
ウェブアプリなのでブラウザから利用可能
利用するには、ログインし、指導者あるいは学生が、アプリ上に「ルーム」を作成する。双方がルームに入ると、文章の作成、推敲、添削が可能な画面になる(画像上)。
ここで学生は文章を書くか、コピー&ペーストして入力する。指導者と学生はテキストチャットしながら推敲添削を進める。その際、各種アノテーションツール(画像下)を用いて文章にアノテーション(強調、注釈、修正指示など)を追加することができる。
指導スタッフ、学生ともに高評価
テキストの変更およびアノテーションの内容は、指導者側、学生側ともにリアルタイムで画面の文章に反映される。再度ログインしてルームに再入室すれば、最後に保存された状態から閲覧したり指導を続行したりできる。
試験運用した結果、指導者側からは「非常に便利。遠隔のみならず対面の指導においても有効ではないか」という意見があった。一方、学生からは「センターから八束穂キャンパスにいても文章を見てもらえるのでとても助かる。システムが本格運用を始めたらぜひ利用したい」という感想が複数寄せられた。
「学会で発表したところ、大学コンソーシアムで行っている大学間連携の取り組みにも応用できるのではないかというコメントをいただきました」(山岸准教授)
今後は要望があれば、音声によるチャット機能などの追加も行っていく予定だ。
山岸准教授は「添削指導を人工知能で行えれば、スタッフの負担が激減すると予想できます。ただし、そのような環境が実現するのは、もう少し先の未来になりそうです」と話す。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年10月3日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第32回】ICTキャンパス 大阪総合保育大学「ポートフォリオシステムで効果的な振り返りを実現」 2016年9月5日
大阪総合保育大学は保育系単科大学として平成18年に開校。理論と実践の融合を重視しており、今年度からクラウド型ポートフォリオを導入した。
大阪総合保育大学は、平成18年に日本初の保育系単科大学として開学した。開学当初から、理論と実践の融合を図るため、「子どもと1700時間」プログラムを学びの柱として実施している。平成28年度からは同プログラムにおいて、クラウド型ポートフォリオシステムを導入し、学習の振り返りや情報共有に効果を挙げている。大阪総合保育大学児童保育学部藤田朋己准教授に同プログラムや、クラウド型ポートフォリオシステムの活用について話を聞いた。
自分と向き合うため効果的なツール
同大学の「子どもと1700時間」プログラムは、「免許・資格取得のための実習(約740時間)」と、「1週間に1日(8時間)1年間継続して現場(保育所・幼稚園・こども園・小学校)に行くインターンシップ実習(約960時間)」からなっている。
学生は「子どもと1700時間」プログラムを通して、子供たちとの直接的な関わりの中で、大学で学んだ専門的な知識や技術を発揮するとともに、これから身に付けるべき知識や技術が認識できる。
また、「先生」という職業を選択するにあたって、自身の適性や、目指す先生像はどのようなものかなどについて考えることもできる。
「現場における経験を自身の成長に結びつけるためには、絶えず自身と向き合い、振り返りを行うことが大切です。しかも、科目単体でそれを行うのではなく、現場実習に関わる複数の科目を横断的につなげていく必要性を感じていました」と藤田氏は話す。
このようなことを実現させるために導入を開始したのが、クラウド型ポートフォリオシステム「manaba(マナバ)」だ。manabaを採択した理由は、クラウド型であることのほか、コストパフォーマンスが良いことや、操作がシンプルで利用しやすいことなどがあった。
日々の活動をポートフォリオに蓄積
manabaは、学生個々の1年次から4年次にかけての4年間に対して、主に次のような活用を行っている。
●「進路や取得希望資格の管理」教員はmanabaで学生の希望状況をいつでも閲覧可能。学生は自身の進路希望の変化を振り返ることができる。
●「インターンシップ希望調査」manabaを使うことで事務処理を効率化。また、学生は進路希望の振り返りに利用。
●「インターンシップ状況調査」教員は、学生の状況把握に活用。学生は過去の振り返りに利用。調査結果をもとに、「子どもと1700時間」プログラムの質的向上を目的とした研究も行う。
●「インターンシップ融合科目」同大学では、現場実習と高い関連性がある科目を「インターンシップ融合科目」と呼んでいる。この科目は、教員の提示した課題をもとにしたアクティブラーニングなどを実施。manabaに入力したデータは、学生自身のポートフォリオとして蓄積される。
ほかの学生の課題を見ることで刺激も
学生からは「ほかの人の提出した課題を閲覧することができ、自分と異なる考えを知ることができるのはとても刺激的」、一方で教員からは「学生が入力したものをデータとして吸い上げることができるので、データの活用が可能となり、データ集計などでの時間の効率化が図れた。研究や資料作りも円滑に行えるようになった」などの声が寄せられており、好評だ。
今後は、学生の4年間の軌跡をポートフォリオに蓄積し、より効果的な学習や指導に役立てていく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年9月5日号掲載
(執筆 蓬田修一)
【第31回】ICTキャンパス 東京電機大学「プログラミング入門学習後にマイコン”Arduino”導入」 2016年8月1日
東京電機大学情報環境学部土肥紳一教授は、プログラミング入門教育を終えた学生を対象に、Arduino(アルドゥイーノ)を活用した講義を実施し、学生のプログラミングに対する興味・関心を一層高めている。
土肥教授に、Arduinoを採用した狙いや導入効果などについて取材した。
エクステンションで学ぶハードウェア入門
東京電機大学情報環境学部では、1年次の「コンピュータプログラミングA」の授業において、Java言語の基礎を学習する。年度の授業が終わった1~3月の時期、同学部ではエクステンションという制度を設け、学生は興味あるテーマの講義に自主的に参加する教育プログラムを展開。土肥教授はこのエクステンションにおいてArduinoを活用した「コンピュータプログラミングAを終えた後のハードウェア入門」を平成26年度から毎年実施している。参加者は毎年約20人。単位の認定はないが、学生のモチベーションは高いという。
必要部品が揃った
「Arduino」は、イタリアで開発されたマイクロコンピュータだ。その文法はJavaと似ており、コンピュータプログラミングAで学習した知識が活かせる。
土肥教授はArduinoを採用した理由について、スイッチや光センサーなど、必要な部品がひと通り入ったキット「Arduino Uno」が4000円程度と学生にとって負担にならない価格で販売されていること、参考用ウェブサイトや書籍が多くあることを挙げる。
エクステンション活動は3日間だ。
1日目に学生は各自、自分のノートPCへArduino統合環境をインストールする。その後、2、3日目にかけて、ハードウェアの制御を学ぶ。
扱うハードウェアは毎年変えており、初年度はハードウェアとしてLEDを使い、これを1秒ごとに点滅させるプログラムなどを学習した。今年はサーボモーターを使った講義を行った。
こうしたプログラミング学習は、初歩的な印象を持つかもしれないがそうではないと語る。例えば、暗くなったら自動的に照明がつくようにしたいと思っても、「コンピュータプログラミングA」の授業を受けただけの学生は、そうすることはできない。プログラミング入門教育では、キーボードが標準入力であり、明るさを数値化して入力する方法がないからだ。その点、「Arduino Uno」には光センサーが含まれ、明るさを数値化できるため、LEDのコントロールが可能だ。
同時に、学生はソフトウェアとハードウェアとの関連についても体験的に学ぶことができる。
超音波距離センサー取り入れた講義を予定
超音波距離センサー
来年1月の講義では、Arduinoと超音波距離センサーを扱う
参加した学生には好評だ。学生の講義に対するモチベーションを「SIEM(シーム)」という独自開発した手法で測定してみると、コンピュータプログラミングAの授業に比べて高いことが分かった。
「Androidアプリの開発をしているが、ハードウェアはこれまであまり触れたことがなかったので楽しかった」「Arduinoのことは知っていたが、さわったことがなかった。いい経験になった」「3日間の講義だったが、新たに学んだことが多かった」などの声が寄せられている。
今後も、引き続き新鮮味のある講義内容にするため、次回(来年1月)の講義では、超音波距離センサーを使う予定だ。
土肥教授は「学生の独創性や創造性を喚起させるための良いきっかけにしていきたい」と抱負を語った。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年8月1日号掲載
(執筆 蓬田修一)



















