夏の歌 「五月(さつき)まつ 花橘(はなたちばな)の」 古今和歌集 読人しらず
五月(さつき)まつ 花橘(はなたちばな)の 香(か)をかげば
昔の人の 袖(そで)の香(か)ぞする
古今和歌集 読人しらず
[現代語訳]
五月を待って咲く橘の花 その香りに接すると
昔親しかった女性が 服焚き付けていた香りを思い出す
古今和歌集 読人しらず
[ひとこと解説]
「五月(さつき)まつ」は五月を待って咲く、ということ。「花橘(はなたちばな)」は橘の花を愛でる気持ちを込めていうときの言葉。「昔の人」は、ここでは作者が昔親しくしていた女性のこと。
街中などで、漂って来た香りに突然、昔のある場面を思い出すという経験は、誰でも何回かはあると思います。
この歌の作者は、漂っている来る橘の香りに接して突然、昔深い関係があった女性のことを思い出したと詠っています。
平安時代の貴族の女性たちは、服に各人の香りを焚きしめていました。香りは個性でした。
伊勢物語の第六十段はこの歌を材料にして、味わいのある物語に仕上げています。この六十段の物語は読む人によって解釈がいろいろと分かれて面白い。それについては、またの機会に書いてみたいです。
(TEXT:M&C 蓬田修一)
関連記事
Comment