春の歌 「春雨(はるさめ)に にほへる色も」 古今和歌集 読人しらず
[訳:蓬田修一]
春雨(はるさめ)に にほへる色も あかなくに
香(か)さへなつかし 山吹の花
古今和歌集 読人しらず
[現代語訳]
春雨に打たれ 鮮やかに照り映える色だけでも 見飽きないが
香りも惹き付けられるほど魅力的な 山吹の花
古今和歌集 読人しらず
[ひとこと解説]
「にほふ」は、色が鮮やかに照り映えるという意味。「あかなくに」は、飽きることがないのに、の意味。「なつかし」は、動詞「なつく」が形容詞化したもので、そのものに自然となつきたくなるようなニュアンスのことば。
春雨に打たれた山吹の花の美しさを詠った歌。貫之らの歌に比べれば、技巧的な表現はなく、とても素朴な歌だ。その素朴さが山吹の美しさを一段と強めていると思う。
注意したいのは、山吹の花の香りはそれほど強くないこと。かすかな香りにも敏感に反応する平安時代の人たちの美意識が伺われる。
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