春の歌 「袖ひちて むすびし水の」 古今和歌集 紀貫之(きのつらゆき)
[訳:蓬田修一]
春たちける日よめる
袖ひちて むすびし水の こほれるを
春立つけふの 風やとくらむ
古今和歌集 紀貫之(きのつらゆき)
[現代語訳]
立春の日に詠んだ歌
(去年の夏に)袖を濡らして (納涼のために水辺に出て)すくった水が (冬になって)凍ってしまった
立春の今日 吹く風が(その氷を)とかしているだろう
[ひとこと解説]
去年の夏に納涼のために訪れた水辺ですくった水が、秋を過ぎ冬になると凍ってしまった。
立春の今日、風が吹いて、その氷が解かしているだろう、と一年にわたる季節の時間の経過を、一首の歌で詠んでいる。
五句にある「風」は、東から吹いてくる風、東風(こち)のこと。
暦のひとつに、一年を七十二に分けて表した七十二候というものがある。
それによると、立春の日は七十二候の「東風(こち)凍(こおり)を解(と)く」にあたる。
この和歌は、七十二候の「東風(こち)凍(こおり)を解(と)く」を踏まえて作られた歌だ。
夏、秋、冬、そして春と、一年間の時の流れを、わずか三十一文字で表して、歌に接した人も、そのことをたちどころに理解できてしまう。和歌は、そういうところが素晴らしいと思う。
私は季節の循環、世の中の循環、人生の起伏の循環など「循環」にとても関心がある。「循環」というアプローチからもこの歌を鑑賞して楽しんでいる。
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