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[七十二候] 春 立春 第一候 「東風(とうふう)凍(こおり)を解(と)く」


第一候 (立春初候) 

東風(とうふう)凍(こおり)を解(と)く

四季:春
二十四節気:立春(りっしゅん)

旧暦の元旦と立春はほとんどの場合、同じ日ではありませんが(たまに同じ日になる)、習慣的に立春を一年の初めの日のようにしてきました。

旧暦元旦と立春が必ず同じ日にならないのは、旧暦が月の運行を基準にした暦であり、二十四節気は太陽の運行を基準にした暦だからです。

「東風」とは春風のこと。東風と書いて「はるかぜ」と読んだり、「こち」と読んだりします。

暖かな春風が吹き始め、冬の間に湖や池に張っていた氷が解け出すころです。

古代中国の儒教経典のひとつ「礼記(らいき)」月令(がつりょう)篇に、「東風が氷を解かし、冬ごもりをしている虫が動き出し、魚は氷の下で泳ぎ始める」とあります。


初午の境内で、がまの油売り
立春を過ぎて最初の午(うま)の日、お稲荷様で行われるお祭りが初午(はつうま)です。

初午(はつうま)というと、私は印象深い子どものときの思い出があります。

私は栃木県の出身ですが、ある年、となりまちの神社の初午のお祭りにひとりで行きました。
たぶん小学4、5年生だったと思います。
境内に大きな人だかりができていたので、近寄ってみました。

すると、ひとりの細身のおじさんが日本刀を片手にパフォーマンスをしています。

少し見ていたら、おじさんはA4くらいの大きさの紙を1枚取り出して、「1枚が2枚、2枚が4枚、4枚が8枚・・・」と半分ずつ折っていきます。

大分小さく折りたたんだところで、持っていた日本刀でスパッと切って、花吹雪のように舞い上げて散らしました。
「凄い切れ味の日本刀だ」
私はすっかり興奮してしまい、食い入るようにおじさんのパフォーマンスを見続けます。

すると、おじさんは上着の腕をまくり上げ、何と今、折りたたんだ紙を切ったばかりの日本刀の刃の部分を腕に垂直に立て、10センチほど下に向かってこすりつけました。
私は自分の腕が切られているような感覚がして、身震いしました。

おじさんは刀の刃を腕から離します。すると今刃をあてた腕の肉がまっすぐに切れて、血を出しています。

おじさんは血が出ている腕を高々と上げ、聴衆に向かって一回し見せました。
「確かに切れて血が出ている」
私は自分の目で切れているのを確認しました。

おじさんはみんなに見せ終わると、テーブルから軟膏を取り出して、これは秘薬であるようなことを言います。
そして軟膏を切り口に塗りつけてタオルでぬぐうと、切り口は完全にふさがり、傷はきれいに治っていました。
「こんな薬があるのか」
びっくり仰天です。そうしたらおじさんはこの軟膏は大変に高いものだが、きょうは特別に安く売ると言います。

売り始めると、みんな我も我もと買い求めます。
その空気に飲み込まれるようにして、私も買いました。
小学生の小遣いで買えたのですから、値段は数百円だったのだと思います。

家に帰って、少々得意げに母に初午の神社の境内で見たことを話し、いい薬を買ってきたと言いました。
すると母はすかざず「それはがまの油売りだ」とだけ言います。
その言い方から、どうも良くない買い物をしたことが分かりました。
「がまの油売り? 聞いたことがあるぞ。これがそうか!」

しかし、騙されて買ったのに、不思議と満足感はありました。
そのとき買った“薬”は当然捨ててしまいましたが、もう一度その軟膏を見てみたい気持ちです。


袖ひちて むすびし水の こほれるを
春立つけふの 風やとくらむ

紀貫之(きのつらゆき)が立春の日に詠んだ歌です。古今和歌集に収められています。
現代語訳は、次のような感じです。

(去年の夏に)袖を濡らして (納涼のために水辺に出て)すくった水が (冬になって)凍ってしまった
立春の今日 吹く風が(その氷を)とかしているだろう

貴族たちは夏になると水辺に赴き納涼しました。
この歌は、去年の夏に納涼のために訪れた水辺ですくった水が、秋を過ぎ冬になると凍ってしまい、立春の今日、春の風が吹いて、その凍った水を解かしているだろう、と一年にわたる季節の時間の経過を詠んでいます。

五句にある「風」は、東から吹いてくる風、東風(こち)のことです。
この和歌は、七十二候の「東風(こち)凍(こおり)を解(と)く」を踏まえて作られた歌です。




Posted on 2015-01-13 | Category : コラム, [七十二候] 自然とともに日本暦 | | Comments Closed
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